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WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)  作者: 木村仁一
第9章 魔女の涙
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4話 見つかりました

 シーシャークに1台のパトカーが到着する。

 パトカーから次々に降りる警官2人。その警官たち全員が建物に目を向けると、真っ先にあるものが目に入った瞬間「何だこりゃ」とそれぞれ声を漏らした。

 当然だろう、建物の壁に大きな穴が開いていたのだから。

 警官の1人が警察署に報告している間に、もう1人の警官が入り口を探している。

 一応この穴は鑑識に見てもらう必要があるので、むやみに通るわけにはいかない……のだが、裏口は鍵が掛かっているので開かない。

 仕方ないので穴から中に入ることにした。


「すみません、警察です」


 警官が恐る恐る建物の中を覗くと、そこには何人もの組員が横たわっている。

 警官が「大丈夫ですか⁉」と言って近づくが、横たわる組員は全員息をしていない。

 すると、警官は床が開いている場所を見つける。落とし穴のようだ。

 中を覗いた警官は思わず目を見開いた。

 穴の中に居たのは3匹の大きなサメ。


                 ○


 しばらくすると、シーシャークに続々と警察車両が到着し、建物付近を封鎖した。

 鑑識官が所々に横たわる組員の死体や建物内を調べている。

 そこへ神代かみよを含む県警の刑事たちが到着した。

 神代は監視する警官に警察手帳を見せる。


「マルボウ2班の神代だ」

「ご苦労様です。とんでもない物がありますよ」


 警官に案内され、神代を開けられた落とし穴の前まで来る。

 神代が腰を下ろして落とし穴を覗くと、そこには泳ぐサメが3匹。


「なぜサメなんか?」

「明日、専門の方がみえますので、その後に潜って詳しく調査します」

「うむ」


 頷いた神代が立ち上がろうとすると、何かに気づいて再びしゃがみ込んだ。落とし穴の底に何かがあることに気づいた。


                 ○


 翌朝のとある人気ひとけの無い路地裏――

 その路地裏に1台のパトカーが停ると、2人の警官が降りてきた。

 当然通報を受けてきたのだが、その内容がどうも信じ難い内容で、警官たちも半信半疑でここに来たのだ。


「間違いないのか?」

「むしろ間違いの方がいいよ。『人が捨てられている』なんて」


 そう、人が捨てられているという通報を受けたのだ。

 イタズラでも許せないが、むしろこういう通報はイタズラであってほしい。

 2人の警官がそう考えていると、視線の先に青いバケツ型のゴミ箱があり、その前には、仰向け大の字状態で倒れている1人の男が居た。


()()()()()()⁉」


 警官2人が思わず同時に声を上げると、男の元へ駆け寄った。


「大丈夫ですか⁉」


 警官の1人が男の体をゆする。

 男は白目を向いた状態で失神している――いや、左の頬を真っ赤にしていることを踏まえると、殴られてのびているが正しいかもしれない。


「救急車だ。急げ!」


 警官の1人が慌てて救急車の手配。その間にもう1人の警官は男の所持品を調べる。


「えっ⁉」


 警官は男が所持していた()()()を見て思わず声を漏らしてしまう。

 何故ならそれは警察手帳、そう男は刑事だった。

 警察手帳を開けてみる。


「『大下おおした タケル』……んっ!」


 警官は刑事の名前を見てあることを思い出した。捜索中の刑事の名前だ。


「おい、県警にも連絡だ‼」

 

                 ○

 

 白摩署の刑事部屋――

 課員の殆どが捜査に出払っていて、今部屋に居るのは宮元みやもと鹿沼かぬま飛馬ひばの3人だ。

 すると、宮元の席にある電話が鳴った。


「はい刑事課――どちらさまでしょうか?」


『《SDカードは見たな?》』


 電話の相手の声は、ピッチを下げたような重低音。明らかに機械で声を変えている。


「SDカード?」

『《沢又さわまた刑事と俺たちとのやり取りを収めたやつだ》』


 それを聞いて宮元はある男の名前が頭を過った。


「ブラックウィザードか⁉」


 鹿沼と飛馬が一斉に宮元の方へ向いた。


『《世間では俺のことをそう呼んでいるようだな》』


 宮元は鹿沼に向けて、逆探知するように指で合図を出すと、鹿沼は受話器を取り逆探知を依頼した。


「大下刑事は無事か?」

『《すぐに分かる。言っておくが沢又以外にも警察内部で黒富士組に通じている奴が居るかもしれない、それを忘れるな》」


 そう言って電話は切れた。


「逆探は?」


 鹿沼が受話器を取って逆探知の結果を訊いた。


「ダメです。相手は妨害装置を使っていて、特定が出来ませんでした」

「流石に一筋縄じゃ行かないか……」


 鹿沼が受話器を置くと、鑑識官が部屋に入って来た。

 SDカードに記録されていた動画の分析が終わったのだ。


「失礼します。例の映像ですが、合成の痕跡はありません。本物と見て間違いないですね」


 そう言って鑑識官は宮元に分析結果の資料を渡した。


「どうも」


 宮元が鑑識官にレイを言うと、鑑識官は部屋を出て行った。


「やはり、沢又刑事は……」


 鹿沼がしんみりした口調で言った。

 当然だろう、警察内部に暴力団と裏で繋がっている奴が居たとなれば。

 すると、再び宮元の席の電話が鳴った。

 もしかしたらまたブラックウィザードかもしれない。宮元は、深くため息をすると、受話器を取った。


「はい、白摩署刑事課――はい、そうです。――何っ、大下が⁉」


 電話の相手は病院。武が入院しているという連絡だった。


                 ○


 白摩総合病院に到着した宮元と鹿沼。

 連絡をした医師が宮元たちを武が居る病室に案内。

 病室に入ると、別の医師と看護師が、ベッドに座る武を検査していた。

 左の頬に湿布を張っているが、どうやら無事のようだ。


「大下?」

「課長」


 武は立ち上がり、ご心配をおかけしました、と一礼した。


「先生、大下の容体は?」

「銃弾によるかすり傷と、頬を殴られた時の打撲はありましたが、命に別状はありません。ですが念のため、今日は入院して詳しい検査をしてみましょう」


 医者が宮元に向けて武の状態を報告した。


「お世話様です」


 宮元が医師に礼を言うと、医者と看護士が部屋を出て行った。


「本当に大丈夫か?」

「ええ、重傷なのは刑事のプライドくらいです――それで自分の立場はどうなっていますか?」

「心配するな。沢又がお前を嵌めたことは、()()()()が暴いた。ただ、沢又は……」

「知ってます、あの2人から聞きました」

「そうか……」


 すると、病室のドアが開いた。

 武たちがドアの方へ注目すると、気まずそうに神代と2班の刑事2人が部屋に入って来た。宮元が連絡していたのだ。


「無事のようだね。大下君」

「ええ、何とか」

「私の部下のせいで本当に、すまなかった大下君……」


 神代は武に向けて深々と頭を下げた。


「警視のせいじゃないですよ。それで沢又刑事を殺した犯人ホシの手掛かりは?」

「この男だ」


 神代が懐から写真を取り出し、武に見せる。


鬼柳きりゅう……」

「んっ? 鬼柳?」


(ヤベッ!)


 つい口を滑らせてしまい、内心アタフタする武。


「この男を知っているのかね、大下君?」

「え、えーと……聞いたんですよ」

「誰に?」


 何とか誤魔化す方法はないかと頭をフル回転させるが、全く思いつかない。

 このままでは自分がブラックウィザードだとバレてしまう、と考えていると、まさに求めていた答えであると気づいた。


「ブラックウィザードです」

「ブラックウィザード?」

「奴が、訊いてきたんです。『鬼柳という男に心当たりはないか』って……」

「なるほど」


(あっぶねぇー……)


 武の話に納得した神代の様子を見て、武は安堵した。


「ただ、奴らもこの男のことはそれほど掴めていないようで」

「恐らく塚元つかもとが雇った殺し屋だろうが、今はこれしか手掛かりがない。奴らを抑えればこの男も浮かんでくるだろう」

「……だと良いんですけど」


 武は暗い顔をして言った。塚元はもうこの世に居ないと知っているからだ。

 そう、自分の所為で……。


「どういうことかね⁉」


 事情を知らない神代が、武に向けて顔を突き出すようにして訊いた。


「『サメの餌になった』って、()()()から聞いたんですよ……」


 武の表情が一気に暗くなった。


「サメとは、シーシャークのあのサメか?」

「シーシャーク?」

「塚元組が所有する会社の1つだ。昨晩騒ぎが有って今調べているところだ」

「そうですか……多分間違いないと思います」

「そうか……ところで大下君、狙われた理由に心当たりは?」

「あり過ぎて分かりません……強いて言えば、オヤッ……谷刑事のことを洗い直されると思って消しにかかったのでしょう」


 武の話を聞いてその場にいつ刑事たちが一斉に難しい顔をした。


「ところで大下。ボートマリーナでのことを聞かせてくれないか?」


 宮元が訊いた。


「はい。お恥ずかしながら、塚元にボコボコされまして……。殺される前に例の2人のどちらかが狙撃して、その隙に窓を突き破って逃げたんです。その時に塚元に」


 武は撃たれた左腕に手を添える。


「その後は?」

「例の2人に救助されて、傷の手当を。その後、どこかの地下に缶詰にされました……」


 そう言って武は気まずそうにあさっての方へ顔を向けた。

 刑事が犯罪者に保護されたなど前代未聞のことだ。

 こればかりは他の刑事も話を聞いて白けた顔をしていた。


「ところでトシさん、沢又刑事の自白映像だけど、俺にも見せてくれませんか?」

「おう、後で持ってくるよ」

「お願いします」


 間近で見ているので、本来武が見る必要は無いが、これも万が一口を滑らせても、映像を見た、という言い訳が出来るようにするためだ。


「そうだ神代警視、上地の殺害についてですが、自分を誘き出す為にわざわざ谷刑事を殺した銃と同じ物を使ったみたいなんです」

「本当かね?」

「はい。ホワイトウィッチが言っていました。自分を誘き出して、捜査のどさくさに自分を秘密裏に殺害しようとしていた、って」


 それを聞いた瞬間、神代は難しい顔をし、武にあることを話した。

 沢又の言い分だ。


「実はボートマリーナの件で沢又が、キミが天王会に脅されて渋々沢又の殺害に協力していた、って言っていたんだ」

「やっぱり。例の2人も同じような推理をしていましたよ」

「そうか……」


 神代はその場にいる刑事たちの方へ向いた。


「とにかくこの鬼柳という名前が出ただけでも大きな進展かもしれん、徹底的に洗ってみよう」

「はい!」


 その場に居た刑事たちが一斉に返事をした。


                 ○


 廊下の角から武が居る病室を覗く1人の医師がいた。

 名札には「夏目なつめ」と記されている。谷が撃たれた日にも武たちの近くに居た医師だ。

 夏目がしばらく様子を窺っていると、病室から宮元と神代が先に出て来た。


「私が言うのもなんだが、大下君は安全が確保できるまで全ての事件ヤマから外れもらう。大丈夫かね宮元君?」

「分かりました」


 鹿沼が病室から出てくる。


「キミ、交代でこの病室を見張ってくれ」

「はい」


 神代が自分の部下に命令を出して宮元たちと一緒に病室を離れる。

 病室の前に仁王立ちしている刑事を見て、夏目は諦めたようにその場から離れて行った。

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