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WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)  作者: 木村仁一
第9章 魔女の涙
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3話 蘇る悪夢(後編)

「捜査は行われたけど、黒富士たちは逮捕されなかった。黒富士たちがやったって証拠が見つからなかったからだって……私があれだけ言っても……」


 語るうちにレイの目に、次第に涙が浮かぶ。


「許せないじゃない……パパとママを殺して、私をこんな体にした張本人が捕まらないなんて……そんな警察をどうやって信じればいいのよ……? 安定剤だって、少しずつ効き目が短くなっているし、いつ効かなくなってママみたいになると考えたら……とても怖い……だから……」


 レイはため込んでいた涙を流し、両手を口に当てて俯いてしまった。

 そこには暴力団を殺害する冷酷な女の印象は全くなく、悲しい過去を持つ1人の女性でしかない。

 すると――


「えっ?」


 レイがと、流石に間の抜けたような声を漏らしてしまった。

 当然だろう、タケルがレイのことを強く抱きしめたのだから。


「もういい……分かったから……」


 あまりにも不憫すぎる。野々原から既に色々聞いていたが、改めて本人の口から語らせてしまったことの後ろめたい気持ちから取ってしまった行動だった。


「えっ、ちょっ、なに⁉」


 突然抱きしめられたことで動揺するレイ。

 すると武は、ゆっくりとレイを離すと、立ち上がりレイの前に立った。


「なんの意味もならないけど、警察を代表して言わせてくれ。本当に申し訳ございませんでした!」


 武は深々と頭を下げる。自分が謝ったところで、何の慰めにも解決にもならないことは分かっているが、それでもやらずにはいられなかった。


「本当にバカね。武が謝っても、しょうがないじゃない」


 レイは涙をぬぐいながら言った。

 武はゆっくり頭を上げる。


「いや、どうしても……んっ! 今、俺のこと下の名前で⁉」

「えっ? あっ……」


 レイは咄嗟に顔を逸らした。

 武もレイから名前で呼ばれたことに、少し動揺している。

 しばらく沈黙が続いた後に、しびれを切らしたようにレイが咳払いをすると、そのまま続けた。


「私のことも呼び捨てじゃない、まだまだヒヨッコのくせに」

「なっ! だいたい可愛くないんだよ、そういうところが!」


 武は両腕を組んであさっての方へ顔を向ける。

 それを聞いたレイは、ムッと頬を膨らませた。


「あのね、この際だからハッキリ言わせてもらうけど――」


 立ち上がったレイは、武の目の前まで来ると、武に目線を合わせて続ける。


「――私は()()()()()()()()()なの。だから、ちゃんとお姉さんの扱いをしなさい!」


 そう言いながら、レイは武の額を指で何度か軽く突っついた。


「えっ、レイって俺より年上なの⁉」


 まさかの事実に、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。


「そうよ。知らなかったの?」

「俺より年上ってことは……ミソジ?」


 武は恐る恐るレイに尋ねた。

 するとレイは、顔を真っ赤にして、武の両こめかみを拳でグリグリする。


「失礼ね。まだ27よっ! 大体、さっき5年前は大学生だったって言ったでしょぉぉぉー!」

「いでででででで‼ ご、ごめんなさいぃぃぃー‼」


 武は両腕をバタバタさせる。


「ホント刑事ってデリカシーがないんだから!」


 レイはプンプンと怒りながら、腕を組んでシットアップベンチに座った。まるでふてくされた子供のように。


「何か色々すみません……」


 武は自分のこめかみを抑えながら申し訳なさそうにレイにペコペコ頭を下げていた。

 そこで武はあることに気づく。


(――って言うか、レイってあんな風に怒ったりするんだ。それともあれが本当のレイなのかな? ……そうか! ……俺はレイのことを何も知らないんだな……)


 そう、自分はレイのことを何も知らない。そして次第に募る、もっと彼女のことを理解したいと。

 レイに背を向けてそんなことを考えていると、レイが武に呼びかける。


「ところで武?」

「なに?」


 レイの方へ向くと、いつの間にか武の目の前にレイの顔があった。


「えっ⁉ んっ⁉ ホントになにっ⁉」


 武が取り乱していると、レイが目を細めて言った。


「私が死にかけていたあの時、どうやって助けたの?」

「それは……」


(あぁぁぁっ‼)


 その時武の頭に浮かんだのは、人工呼吸をしている時の光景。

 心肺蘇生が必要だった状況なので当然の行いだが、冷静に考えてみれば、あれはレイに口づけする行為……と見られなくもない。

 レイの唇を奪った(?)と自覚した武は、レイから咄嗟に顔を逸らし、タコのように顔を真っ赤にして、口を、ガー、と開ける。


(意識してなかったけどあれって……しかもさっきだって、つい抱きしめちゃったし……はわわぁぁ……)


 武の肩にレイの手が置かれ、それに驚いた武が「イギッ‼」と自分でも理解できないような声を上げる。

 顔を引きつりながら、レイの方へ恐る恐るゆっくり振り返ると、更にゾッとした。

 その眼は赤く光り、長い髪をメデューサの蛇のようにウネウネさせ、どす黒い妖気のような物を放っている。

 妖怪といえばその通りだろう。


「まさか……人工呼吸で私にキスしたりしてないでしょうね……?」

 

 武の顔が一気に青ざめた。


「えっ……えーとー……」


 何と答えれば丸く収まるんだろう、と足りない頭をフル回転して考えるが……やはり出てこない。

 代わりに出るのは滝のような汗だ。

 答えが出ないことにしびれを切らしたように、レイの妖気(?)がより大きくなった……ような気がする。


「たぁけぇるぅぅぅー?」


 本当に化け物にでもなったかのような低い声に、もう無理だと、溜まらず武は瞬時に土下座した。


「すみません、すみません、他に方法がなくて、罰なら何なりとー……!」


 ガタガタ震えながら頭を地面につけて小さくなった。


「しょうがないわね」

 

 武が恐る恐る顔を上げると、いつの間にかレイは普通の顔に戻っていた。


「まぁ、助けてくれたわけだし、今回は許してあげるわよ」


(はぁ、良かった)


 武はホッとして胡座をかいた。


 この後の惨劇を予期せぬまま……

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