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WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)  作者: 木村仁一
第9章 魔女の涙
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2話 蘇る悪夢(前編)

 およそ5年前――

 ここはレイの父親・ツトムの研究所。

 主に遺伝子関係の研究をしている。

 その研究室のパソコンを操作する勉、その後ろには、それぞれ組員に銃を突きつけられ、人質となっているレイとレイの母親・クレアが居た。

 勉の横には、もう1人白衣を着た若い研究員の男が立っている。勉の助手として働いていた大久保おおくぼという男だが、黒富士組の人間とグルになり、大金が手に入る約束なのだろう、その表情はヘラヘラとしている。

 勉は今、パソコンに入っているある薬のデータをフラッシュメモリーに移しているところだ。

 その薬とは、「PW」、後にレイを苦しめる物だ。


「……お前たちは、この薬が何なのか知っているのか⁉」


 勉が自分の隣に居る組員に向けて強く言った。

 すると、レイを抑える組員が、乱暴にレイの髪の毛を掴み、無理やり上へ顔を向けられ、レイの喉に銃を強く突きつけた。

 それを見た勉は、悔しそうに歯を食いしばる。

 データを移し終え、パソコンからフラッシュメモリーを抜くと、組員に渡した。

 それを受け取った組員は満足そうな顔をすると、懐から銃を取り出し、平気な顔をして勉を撃ち殺した。

 レイとクレアが悲鳴を上げた。


「それじゃ、例のお金を」


 目の前で自分の主任が殺されたのに平然としている助手の男。


「この人でなし‼」


 レイが助手の男に向けて怒鳴ると、クレアも素が出て英語で罵っていた。


「おう、ほらよっ」


 そう言うと組員は、助手の男に鉛弾を撃ち込んだ。最初から金を払う気など無かったようだ。

 助手の男もそうだが、この組員も非道の極みというべき外道だった。

 そしてレイとクレアは組員たちによってその場から連れて行かれた。

 

 地下室――

 薬で眠らされていたレイが目を覚ました。その端で両手は後ろに縛られ、両足も同じように縛られている。

 レイが顔を上げると、視線の先にクレアを見つけた。

 しかし何がおかしい、部屋がうすぐらいのでハッキリとは分からないが、クレアの全身の皮膚及び髪の毛が白く変わっていた。

 クレアもレイと同じように両腕を後ろに縛られた状態で、苦しんでいる。顔中にミミズ膨れのようなものが現れていて、尋常じゃないことはすぐに理解した。

 レイはクレアに近づこうと体をよじると、組員によって抑えられてしまった。

 組員に抵抗しようと動くが、組員の力には敵わない。

 すると、クレアの向こう側に、のうのうと椅子に座る黒富士が目に入った。

 レイは黒富士に必死に「助けて」とお願いするが、黒富士は全く耳を貸さない。それどころか、苦しむクレアの姿を黒富士は楽しんで見ていた。

 まるでショーを楽しむかのように。

 やがてクレアが悲鳴を上げると、血しぶきが飛び、レイの側にまで血液によってどんどん床を真っ赤に染めていった。

 クレアは拒絶反応によって全身の皮膚が破れたのだ。


「……い、いやぁぁぁぁ‼」


 目の前の現実が受け入れられず、レイは発狂した。

 すると、レイの目の前に黒富士が現れ、腰を下ろすと、レイに向けて言った。


「なかなか面白かったよ。お前の親父が作った薬は」

「殺してやるぅぅぅ‼」


 自分を抑える組員から逃れようと必死に暴れるレイ。その姿は怒り狂った猛獣のようだ。

 黒富士が組員に向けて「黙らせろ」と命令を出すと、組員がスタンガンを取り出し、レイに押し付ける。

 電撃を受けたレイは直ぐに気を失ってしまった。

 

 そしてレイが目を覚ました。場所は変わらず地下室だ。

 スタンガンの影響で朦朧としているが、意識がハッキリするとともに、体全体に妙な違和感を覚えた。でもそれが何だか分からない。


「お目覚めかな?」


 レイが声のする方へ向くと、そこには黒富士が立っていた。

 再びレイが黒富士に食って掛かろうとすると、「見せてやれ」と組員に言った。

 命令された組員は鏡を持って、それをレイに見せた。

 鏡に映った自分を見たレイは、急に凍えだしたようにガタガタと震え出した。

 何故なら、今の自分はクレアと同じように、皮膚や髪が真っ白の状態だったからだ。


「言う事を聞かなければ母親のようになるぞ」


 そう言って黒富士は笑っている。

 それに引き換え、レイの方は絶望しかない。自分も母親のような惨い死に方をすると考えただけで、生きる気力も自然と消えた。

 その後も、黒富士の組員が、「奴隷売買にでも売れば少しは儲かるだろう」などと話しており、自分はこれから売り飛ばされると悟っても、もうどうでもいい。

 このまま、終わるのだから。

 

                 〇

 

 そして現在――

 横でレイの話を聞いていた武。

 ここから先は野々原から聞いていたので知っている。

 レイが売り飛ばされる前に野々原がレイを助け出したことを。

 レイの話を聞いて、武はある疑問が浮かんでいた。


「警察には言わなかったの?」


 そう、なぜ警察に言わなかったのか。

 レイの話からしても警察が動かないはずがない。武はそう考えていた。


「ええ勿論。ジイと一緒に黒富士のことを警察に話したわよ……でも……」


 レイはその後のことを話し出した。


                 〇


 県警の会議室に通されたレイと野々原。

 その時に担当したのが、マル暴の桜井さくらい 虎徹コテツとその他2人の刑事だった。

 櫻井は当時40代後半、マル暴だからだろうか、目つきは鋭く、強面の顔に、ノンフレームの眼鏡を掛け、髪の色も薄っすらと茶髪に染められている。

 格好は、水色のスーツにノーネクタイで、開けたシャツから見える首者には金色のネックレスが見えていた。

 県警に居なければ暴力団にしか見えない容姿だ。


 レイは身を乗り出して、必死に黒富士が両親や自分にしたことを訴える。

 暴力団絡みの事件となれば、当然マル暴も動かないわけにはいかない。

 これで、両親の無念が晴らせると疑わなかった。

 しかし現実はどうだろうか、桜井も他の刑事も首を横に振っている。

 確かにレイの見た目が奇妙なのは間違いないが、それが父親の作った薬による作用でこうなったとは直ぐには信じられないのだろう。

 だが問題なのは、その後に行われた捜査の方だ。

 確かにレイの両親のことは事件として捜査されたが、黒富士が逮捕されることは無かったのだ。

 黒富士に繋がる証拠が見つからなかったのだ。レイの証言があるのに。

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