自白動画
白摩署の鑑識課部屋――
鑑識官が水沼研究所跡で押収したSDカードを分析していた。
その側に、宮元、鹿沼、松崎とマルボウ2班の神代が一緒になってパソコン画面を見ている。
記録ファイルをクリックすると、映像が再生された。
映っていたのは、武の雰囲気を真似た人形と、その後ろ、部屋の出入口付近に立つ沢又の姿。
更に動画を進めると、沢又が武を嵌めたことを自白するところや、ブラックウィザードとホワイトウィッチが沢又とチンピラを抑えるところ、その後にサングラスを掛けた謎の男によって沢又とチンピラが射殺されるところが記録されていた。
鑑識官はマウスでクリックし、映像を止める。
「まさか沢又刑事が武を嵌めていたなんて……クソッ!」
味方だと思っていた相手に裏切られていると知り、松崎は怒りで拳を握っていた。
宮元と鹿沼も無言だが松崎の言うことに賛成だ。
しかし1人だけ違った。
「とても信じられん……何かの間違いだ‼」
神代だ。
彼だけは部下が裏切っていた事実を信じようとはしなかった。
「しかし、こうやって映像が……」
鹿沼がしてきすると、神代は鹿沼と向かい合い、鹿沼に向けて指を指しながら言い返す。
「作り物の可能性だってあるだろ⁉」
神代の言う通り、デジタルの映像は加工が容易なので証拠としては疑わしい。
だがそれは過去の話だ。
「それでしたら映像を調べれば合成があるかどうか分析できます」
「そんなことが出来るんですか?」
「簡単です」
松崎の疑問に軽い返事をする鑑識官は、パソコンの分析プログラムを立ち上げた。
例として、2つの動画を画面に出す。
1つ目は、東京の摩天楼を映し出した動画、もう1つは富士山が見えるハイキングコースらしき動画。どちらも一見すると何の変哲もないように見える。
鑑識官が「これを見てください」とまずは東京の摩天楼の動画を分析。
映し出されたのは、全体的に黒く、建物も白や緑色の線で輪郭はなんとなく分かるが、その中はやはり真っ黒になっている。
続いて鑑識官は富士山付近の動画を分析すると、周りが真っ黒になり、人や周りの植物が線で輪郭が何となく分かるところは同じだが、1つだけ先ほどと大きく違うところが有った。
それは富士山全体がピング色に染まっているということだ。
富士山付近を映していたと思われていたこの動画は、福島県のとあるハイキングコースに富士山合成していた偽の動画だったのだ。
「この通り、合成した部分が全く違う色に変わります。デジタルで合成した場合、画質の違いが必ず起こるので、このプログラムを使えば、それを容易に見分けることが出来ます」
それを見て松崎は「すげっ!」と感心。宮元は鑑識官に分析を進めるようにお願いした。
すると、神代の携帯電話が鳴った。相手は自分の部下だ。
「私だ――倉庫街で銃声? 我々と何か関係があるのか? ――」
宮元たちを横目に、神代は電話を続けた。
「あとは、大下の安否が気になりますね?」
鹿沼が真っ先に懐いたことは武のことだ。ブラックウィザードたちや沢又との会話を聞く限りでは、武は無事のようだが、まだ確証は無い。
「――何、塚元の会社が⁉ 間違いないのか⁉」
突然声を上げる神代に宮元たちは、そっちの方へ向いた。
神代の話によれば、塚元が所有する会社『シー・シャーク』の近くで、塚元組の組員たちが派手なカーチェイスと銃撃の末に事故を起こしたということだ。そのカーチェイスにブラックウィザードが関わっているらしい。
「ちょっと行って来る」
そう言って神代は部屋を出て行った。
〇
組長室の椅子に座る黒富士は、パソコンを使って通信をしていた。
通信の相手は自分の部下、黒富士組系の組長・片野。
見た目は50代前半、ごつい顔つきに、目つきはつり上がり、髪は白髪が所々混ざりの如何にもその道の人間だという印象を受ける。
「抑えたか?」
『ええ、餌をちらつかせたら、あっさり落ちましたよ。あとは頑固ジジイの小料理屋だけで、立ち退きが終わります』
現在、片野はビルを建設するために、住人を立ち退きさせている。
大抵は金を渡して引き渡しに応じさせるが、唯一、小料理屋だけが未だ立ち退きに応じていない。
しかし期限までだいぶ余裕があるので、焦る必要はない。万が一立ち退きを拒否続ければ、それ相応の対応をすればいいことだ。
「よくやった。引き続き頼むぞ」
『はい、総長』
パソコン画面に「通信終了」と表示される。
黒富士は椅子に深く座り直すと、再びパソコンを睨みつけた。
「……どうした塚元。なぜ連絡がこない……?」
鬼柳の始末を頼んだ塚元からの連絡が来ないのだ。
もしもしくじっているのなら、ことは大きい。
黒富士はスマートフォンを取り出し、佐久間を呼び出した。
「緊急だ。塚元を探せ」
そう、黒富士は知らない。塚元はもう、この世に居ないことを……。