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WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)  作者: 木村仁一
第8章 ウィザード・オブ・ザ・アンガー
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8話 一撃!! 第8話END

 塚元つかもとはめまいを振り払う様に頭を振ると、ブラックウィザードの方を見た。

 ブラックウィザードは、痛むのか、自分の左腕を抑えている。


「なんや黒ちゃん? ……んっ!」


 左腕……。


 塚元の脳裏にある記憶が過ぎる。

 それはボートマリーナで、自分が左腕を撃った刑事の姿。

 そして目の前に居る男。よく見ると、背格好がその刑事によく似ている気がする。


「……まさかぁ⁉」


 塚元の中で、何かが繋がった。

 ブラックウィザードは殴りにかかるが、痛みのせいなのか、先ほどより勢いがない。

 塚元はそれを余裕でかわし、逆にブラックウィザードに次々パンチを入れ、次第に開いた落とし穴の横まで追い詰める。

 それでも塚元は攻撃の手を緩めない。

 肩で呼吸をするブラックウィザードに腹に蹴りを入れて膝を着かせた。


「粘るのう黒ちゃん……いや、白摩署の小僧刑事デカ!」


 そう言って塚元は、グローブのスイッチを入れた。

 

                 〇


 タケルはハッとして目を見開いた。

 塚元に正体がバレた⁉

 武が内心焦っていると、塚元が自分の左腕に着けているグローブのスイッチを入れた。

 何かヤバいような気がする。スイッチがあるということは、恐らく電撃系。

 塚元がグローブを武に目がけて伸ばしてきた。

 武は危険を感じ、塚元の左腕を掴んだ。

 塚元のグローブから、微かにだが、電気のパチパチという音が聞こえる。


「《これで彼女を……⁉》」

「何や、刑事デカが、殺人犯の心配かい?」

「《何のことだ……?》」


 当然だが、武は惚ける。まだ完全に正体がバレたとは限らないからだ。


「お前、その腕どないしたんや?」

「《さっきやっちまってな、そのせいだ!》」


 左腕の痛みもあり、次第に力が抜けて行く。塚元のグローブが徐々に武に迫って来た。


「これで終わりや小僧」


(くそ、このままじゃ……)


 その時、武はレイの方へ目を向けた。

 あの時から全く動かない。

 急いで蘇生しなければならないのに、今の自分には何もできない。

 悔しい‼

 もっと力があればと、武は自分の無力さをかみしめた。


「そんなに白ちゃんが心配か小僧? こんなアマ死んだ方が警察も楽やし、世の中のためやろ。こいつに殺された家族のこと、よう考えてみぃ?」


(なんだと……⁉)

 

 その塚元の無責任な言葉を聞いた瞬間、武の中で何かがキレた。塚元に対する怒りがふつふつと湧き上がる。

 一体どの口が言っているのだ、と。

 レイは黒富士に両親を殺され、自分も下手をすれば死んでしまう体にされた。

 レイだけじゃない、谷やその息子を殺したのも、全部黒富士組――お前たちじゃないか。

 武は塚元の股間に蹴りを入れた。

 その痛みで塚元の力が抜け、その隙に武は、抑えていたグローブを塚元の体に当てた。

 一瞬だが電撃を受けた塚元は、武から飛ぶように後ろへ倒れる。

 それでも塚元はゆっくり立ち上がるが、股間の痛みか、電撃の影響で振らついている。


「うぉい……股間そこは男としてやったらアカンところやろ……?」

「《……けんじゃ……ぇ……》」

「あんっ⁉」


 小さく呟いた後、ゆっくり立ち上がる武。

 そして――


「《ふざけんじゃねぇぇぇ‼》」


 塚元に向けて怒号を浴びせた。あまりにも無責任な塚元の言い草に、我慢の限界を超えてしまったのだ。

 武は一気に駆け寄り、塚元の顔を殴った。


「《元々はお前らのせいじゃねぇか‼》」

「な、何や……⁉ ……んごっ‼」

「《てめぇらだけ被害者ぶりやがって‼  絶対に許さねぇ‼》」


 怒りに支配された武は、塚元を殺しかねない勢いで次々と顔面にパンチを入れ、その次に塚元の襟を掴むと、落とし穴がある方へ放り投げる。

 武は落とし穴の存在に気づいていない。

 その後も武は塚元に向けて渾身のパンチを入れ、それを受けた塚元は、落とし穴の近くで転倒した。

 朦朧もうろうとする中、塚元の視界にあるものが飛び込んでくる。それはダークスピーダーのアタックを受けた時に落とした刀。

 これは神の恵み、と塚元はすぐに刀を手にした。


「終わりや……うおぉぉぉー‼」


 刀を手にしたことで活気を取り戻した塚元は、刀を振り上げた。


 だが――


「《うおぁぁぁー‼》」


 塚元より先に、武の回し蹴りが塚元の顎にヒットした。

 蹴りを受けた塚元は、落とし穴へ……。

 水音が聞こえ、武は落とし穴を覗くと、そこには塚元が必死に這い上がろうとしている姿があった。

 落とし穴の周りには梯子はしごなど上へ昇る為の物はない。

 それでも必死に這い上がろうとするが、それが命取りになる。激しく動いたせいで獲物と認識した3匹のサメは、容赦なく塚元に噛みついたのだ。

 断末魔の叫びを残し、真っ赤に染まった水の中に塚元は消えていく。武は何も出来ずに、それを眺めることしか出来なかった。


「《レイ‼》」


 レイのことを思い出した武は、レイに駆け寄ると、コートを開け、胸の動きを確かめる。


(ウソだろ⁉)


 やはり息をしていない。

 武はレイの左側に移動すると、マスクとサングラスを外し、すぐに心肺蘇生を行う。


 まずは胸骨圧迫。中指で肋骨の下が交わる部分に触れ、その隣の指の上に手の平の下の固い部分を置き、その上から更に反対の手を置いて力強く圧迫。圧迫と圧迫の間はしっかり胸が戻るまで。それを30回連続して絶え間なく行う。

 その次は人工呼吸。

 気道の確保。片手で額に手を当て、もう一方の手の人差し指と中指の2本を顎先に当て、頭を後ろにのけぞらせ、顎先を上げる。

 起動を確保したまま、空気が逃げないように鼻をつまみ、口を大きく開けて相手の口を覆うこと。

 そして息を大体1秒かけて吹き込み相手も胸が持ち上がることを確認する。

 その後に一度口を離し、同じ要領でもう一度息を吹き込む。


 訓練で学んだ心肺蘇生法を思い出しながら、それを行った。


「死ぬなよ。死ぬんじゃねぇぞ!」


 再び心臓マッサージの後に人工呼吸を行う。

 本当ならAEDが欲しいが、今は手元にないので心肺蘇生法を繰り返すしかない。

 その間にも武の脳裏に、撃たれた時の谷の姿がフラッシュバックする。


(冗談じゃない、頼む目を開けてくれ!)


 武の心肺蘇生は続く。


「起きろっ‼ 起きろぉー‼」


 必死にレイに呼びかける武。

 大きな賭けだが、少しでもショックを与えられるように肘を使ってレイの心臓を強く叩いた。


「レーイ‼ 戻って来い‼」


 再び肘を使ってレイの心臓に強い衝撃を与えた。


「ゲホッ、ゲホッ!」


 咳き込む声の後、少し荒いが大きく呼吸をした。


「レイ⁉」


 武が覗き込むと、レイはゆっくり目を開けた。

 だが、まだ意識が朦朧としているのか、目が虚ろだ。

 息を吹き返したレイに、ホッとして崩れるように座ると、インカムに手を当てて野々原に報告した。


「野々原さん、レイは何とか息を吹き返しました」

『良かったありがとうございます』


 野々原に報告を終え、インカムから手を離した。


「……ここは……地獄?」

「ある意味そうかも……」

「……私……どうなっ……たの……?」

「死にかけてた」

「……そう……塚元……は?」


 そこで武は目をカッと開いた。


「死んだよ。サメに食われて……」

「……自業自得……ね」


 武はゆっくりと頷いた。その表情はとても暗い。


「……どうしたの?」

「いや……早く離れよう。立てるか?」


 武は立ち上がり、レイに手を差し出した。

 レイはまだ意識が朦朧としているのか、立ち上がることが出来ない様子で、武は自分の首をレイの脇に引っ掛ける形で抱え、ダークスピーダーの助手席まで運んだ。

 上へ開くフルオートのガルウィングドアはこういう が居る時には非常に便利だ。

 レイを助手席に乗せた後、サングラスとマスクを回収、ダークスピーダーに乗り、その場を離れた。


「野々原さん、レッドスピーダーをお願いします」

『分かりました』


 レッドスピーダーは野々原の遠隔操作に任せて、隠れ家へ向かった。


                 ○

 

 数台のパトカーがサイレンを鳴らしながら、一般道を走っている。

 銃を撃ちながら車が暴走している、と通報を受けて来たのだ。

 その内の1台が反対車線で横転した白いセダンの近くに止まった。

 鬼柳が乗っていた車だ。

 パトカーを降りた警官が、車を調べるが誰も居ない。


「こちら南3号、横転した車両を発見。しかしドライバーの姿がありません……」


 警官は無線で報告を入れる。

 

                              第8章 END


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