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WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)  作者: 木村仁一
第8章 ウィザード・オブ・ザ・アンガー
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4話 突入

 シーシャークの屋根の天窓から様子を窺うタケルとレイ。

 広間に立っている塚元つかもとと組員たちのところへ、1人の男が塚元たちに出迎えられた。

 間違いない、沢又さわまたを殺した男だ。殺し屋の男の手には黒いアタッシェケースが握られている。

 屋根の上からなので微かにしか聞こえないが、男は、沢又を殺したことや、沢又が2人の魔法使い――武とレイが待ち構えていたことを、塚元に話していた。


「…………それで船の手配は?」

「…………手配済みや。まぁゆっくりするとえぇ――おい、部屋に案内せい」


 男は組員に案内されて、奥の部屋へ行った。


「……このまま消される、ってこと無いよな?」

「……そこまでショボい殺し屋には見えなかったけど」

「……それより、どのタイミングで入る?」

「……そうね。あの男には、生きて色々喋って貰う必要があるから、塚元たちがあの男を殺そうとしたタイミングで良いかも」

「……OK」

 

 しばらくすると、塚元たちの動きが慌ただしくなった。

 レイはカメラの角度を変えて、塚元たちへズームアップした。

 画面に映し出されたのは、組員の男を盾にして、塚元たちと対面する殺し屋の男の姿だ。


「…………黙って消されると思ったか?」

「…………いやー、ホンマ見事や――せやけど……」


 塚元は、背中からサブマシンガン・マイクロUZIを取り出し、レバーを引いて弾を装填。

 様子から見て、塚元は組員ごと男を撃ち殺す気だ。

 その証拠に組員たちも一斉に銃を構えだした。


「……まずい、突入するぞ」


 武が突入に踏み切ろうとした時、レイが「……待って」と止めた。


「…………言っておくけどな塚元。このケースに入っている銃は偽物だぞ?」

 

 そう言って男は、持っていた黒いアタッシェケースを塚元たちの方へ放り投げた。

 レイはケースの方へカメラを向ける。

 組員の1人がケースを開けると、中から出てきたのは分解されたライフルだった。


「……あの銃で上地とオヤッさんを撃ったのか?」

「……そうなのかも……――待って、何か様子が変よ」


 組員の手にあるライフルは片面だけ作られたような変な形をしていた。

 推測するに、偽物のライフル、ということだろう。


(なるほど、本物は隠して保険にしたわけか)


 しかし、男の表情がこわばることが起こる。

 塚元の後ろから、男が放り投げた物と同じ黒いアタッシェケースを持って、赤西あかにしが現れたのだ。

 どうやら本物を回収していたようだ。


「……爪が甘かったわね、あの男」

「……あーあ、これで万事休すだ……」


 男の命運もここまでか、と武とレイも判断すると、男が気になることを気になることを言い出した。


「…………それも偽物だぞ」


「……偽物って言った?」


 武とレイが互いに顔を見合わせながら言った。

 改めてカメラ映像を見てみると、赤西が床にアタッシェケースを置いて、それを開けた。

 中に入っていたのは3つに分解された例のライフルで、その銃身部分を赤西が手に取った。

 実はそのライフルも男が用意した偽物で、その証拠にさっき放り投げたケースに入っていた物と同じように、半分がない物だったのだ。


「……ダブルで用意していたわけか。流石だな」


 レイは男の動きを注意深く覗く。

 男は、盾にした組員を塚元たちに向けて押し出すと、銃を撃ちながら、近くにあった潜水艇の陰にダイブした。

 組員たちも反撃と撃ち返し、どんどん潜水艇に弾を撃ち込んでいった。

 塚元が大声で待つように叫び、そこで組員たちは銃撃を止めた。

 当然だろう、男に死なれたら、例の銃が手に入らなくなる。

 しかし、その直後に塚元のサブマシンガンが火を噴いたのだ。


「おいおい、殺す気かよ⁉」

「行きましょう!」


 武は発煙弾を取り出すと、天窓のガラスを踏みつけるようにして割り、発煙弾を投げ込んだ。

 そして、グラッピングフックを屋根に撃ち込んで固定すると、レイはサーモグラフィーゴーグルを着け、武はサングラスのサーモグラフィーモードに切り替えた。


「よし、行こう」

「待って、声変えてない!」

「いけね!」


 武は、ベルトに付いているリモコンのボタンを押して声を変えた。


「《これでよし》」

「行くわよ」


 煙が充満した広間に武とレイがワイヤーを伝って室内に侵入。

 武とレイが着地し、敵を撃つだけ……だったのだが、突然、建物の窓が一斉に開き、煙が外に排出されてしまった。


「《あ、あれ⁉》」


 煙が消えたことで、姿が露わになった武とレイに向け組員たちが銃を向け、2人を囲んだ。


「残念やったな。沢又からお前らの行動パターンはよう聞いとるでぇ」

「《あの沢又バカ、死んだ後も面倒かけやがって》」

「違う方法も考えないとダメね」


 そう言ってレイはゴーグルを外した。


「はよ銃捨てんかい!」

「《どうする?》」


 恐らくレイのことだ、何か策を考えているに違いない、と武が内心期待していた……のだが……。

 

「捨てましょう」

 

「《そんなサラっと⁉》」

 

 拍子抜けのレイの一言に武は内心コケた。

 仕方なく銃を捨て、観念したように両手を上げる武とレイ。

 塚元を含め、その場にいる組員たちが、一斉に武とレイに注目した。


「ホンマ、ついとる。鬼柳と一緒に白ちゃんと黒ちゃんも、地獄に送れるさかい」


 まさに絶体絶命。あの男――鬼柳きりゅうと同じく、厳しい状況……。

 

 鬼柳‼

 

 そこでレイが気づいた。


「ところでアンタたち、私たちばっかり見ていていいの?」

「なんやと⁉」

「逃げちゃったよ、アンタがさっき撃った男」


 塚元がボロボロになった潜水艦に目を向けると、そこには誰も居ない。

 それから潜水艇の近くの窓が開いており、外から車のエンジンがかかる音が聞こえた。

 その光景に、塚元は深呼吸をして、そして……。


「お前ら、何しとんねん‼ はよ追わんかい‼」


 鬼の形相の如く、塚元が怒鳴ると、組員たちが一斉に外に出ようとすると、再び塚元が「待ていぃ‼」と止めた。


「全員で行ったら、俺1人でコイツら相手するようやないかい‼」


 塚元の指摘に、赤西を含む組員たちがオロオロしている。


「《6人だけ残って、他が追えばいいだろ?》」


 あまりにも団結力の無い組員たちを見て、まさかの武が提案を出した。

 敵の提案に乗るほど、塚元組の組員だってバカでは……あった。

 武の提案が出た後に「じゃあ俺、残る」「じゃあ俺、行く」などの緊張感のない簡単な話し合いの末、正直に6人だけ残って他の組員たちは鬼柳を追いかけて行ったのだ。

 これを見た塚元やレイは勿論、提案を出した武自身が誰よりも呆れていた。

 普通、敵の提案を吞むのか、と。


「えーと、とりあえず礼を言うで黒ちゃん……」


 感謝の言葉を述べる塚元だが、その笑顔は明らかに怒りを抑えているように引きつっている。


「《それじゃ、俺たちを解放して?》」

「それは出来へん」

「《だよね……》」


 武は周りの組員の位置を確認する。

 それは、今まさに武が使いたくて仕方がない装備。その為の準備だ。

 そっとレイに近づき、小声で言った。


「……さっそく、使ってみるか。新装備?」

「……使いたくてウズウズしてるんでしょ?」

「……当たり。後ろの2人だけ頼むよ」

「……分かった。ところで、能力の方は?」

「まだ使えるか分からないけど、この距離なら当てられるよ」

「そう――ジイ、プランB」


 いよいよだ、と武はマスクとサングラスの下でニヤニヤしていた。


「なぁにコソコソ話とんねん?」

「《花火の注文をしただけ》」


 突然の意味不明な武の一言に、塚元を含め、組員たちも「はぁ?」と首を傾げた。

 すると、外から車のエンジン音が聞こえ、更に横滑りした時のタイヤの軋む音が鳴った。


『伏せてください!』


 インカムから聞こえた野々原の声に武とレイが床に伏せた瞬間――

 

 ズガーン‼

 

 武の後方にある建物の扉やその近くの壁が爆発で吹っ飛び、車一台が余裕で通れるほどの穴が開いた。

 塚元と組員たちが爆発に怯んだそのタイミングで、武は自分の腕を意識して念じる。


(出ろ!)


 武の両手の袖から小型拳銃・グロック26が飛び出した。

 まずは両手をクロスして両脇に居た2人を、そして前方に居る2人の手足を撃ちダウンさせる。

 最後に塚元のマイクロUZIを撃ち落とした。

 レイの方は、ステイクランチャーを素早く抜いて、後方の組員を杭で倒した。

 2人とも心臓を一発で。


「《動くな!》」


 武は丸腰になった塚元に拳銃グロックを向け、動きを封じた。

 レイも拳銃(P99)を拾い、塚元に向ける。


(戻れ)


 武の持つグロックが袖の中へ格納されると、拳銃ファイブセブンを拾った。


「あの男を追って、ここは私が」

「《分かった》」


 武は出口に向けて駆け出すと、扉を潜って外へ。

 そこにはダークスピーダーが、吹っ飛ばした扉に向かって止まっていた。

 扉の爆発はダークスピーダーのロケット弾によるものだ。

 ダークスピーダーに乗ろうとドアを開けると、コンテナヤードの方から、おびただしいほどの銃声が聞こえてきた。


(あっちか!)


 武が素早く乗り込みダークスピーダーを急発進させる。

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