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WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)  作者: 木村仁一
第8章 ウィザード・オブ・ザ・アンガー
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3話 用意周到

 時間は9時を回り、シーシャークに1台の白いセダンが建物の側に停まった。

 車から降りてきたのは鬼柳きりゅうだ。

 鬼柳の肩にはリュックが、手には黒いアタッシェケースが握られている。

 扉をノックすると、片方の扉が横にスライドし、中から組員が顔を出した。

 組員が「どうぞ」と言って、鬼柳を中へ。

 広間に通された鬼柳の前には塚元つかもとと組員たちが立っていた。


刑事デカは消した」

「ようやった!」

「だが、白と黒の魔法使いが沢又()を待ち伏せていたぞ」


 それを聞いた塚元が眉をひそめる。


「ヒコちゃんは白状した?」

「その寸前にった」

「せやったら問題ゼロや!」


 そう言って塚元が笑みを浮かべる。


「それで船の手配は?」

「手配済みや。まぁゆっくりするとえぇ――おい、部屋に案内せい」


 組員の1人が「はい」と言って鬼柳を案内しようとすると、鬼柳が塚元に訊いた。


「待て、ギャラは?」


 そう、今回の殺しのギャラを全くもらっていない。


「部屋にもっていくさかい、ちょっと待っといて、それより、その銃をこっちに――」


 塚元は、鬼柳が持つ黒いアタッシェケースに向けて手を伸ばした。


「――悪いが、これはまだ預かる。直前で裏切られても困るからな」

「……。まぁええやろ」


 組員に「それではこちらです」と、案内する組員について行った。

 鬼柳が通された部屋の近くには潜水艇があり、興味があるのか部屋に入るまで鬼柳の目はそれに釘付けだった。

 

                 〇

 

 組長室に移動した塚元は、席に座りパソコンと向き合うと、パソコンを起動し、通信を開始した。

 しばらくすると、通信が繋がり、画面に黒富士が映し出された。


『始末できたか?』

「鬼柳はこれからです総長。沢又の方はバッチリですぅ」

『そうか』


 それを聞いて黒富士が笑みを見せた。

 しかし、次の塚元の報告によってその笑みが瞬く間に消えることになる。


「せやけど、沢又をるとき、例の魔法使い二人組が待ち構えていたようですわ」

『何⁉』

「ボートマリーナの狙撃も、奴らの仕業かもしれまへん。あの若造刑事わかぞうデカも恐らく奴らと居てるかと」

『分かった。とにかく今は鬼柳を先に始末しろ、いいな』

「そりゃもう。抜かりなく、骨もなく」

『よし』


 そう言って通信は終わった。

 

                 〇

 

 鬼柳が待つ部屋は、狭すぎず広すぎずの応接室のようになっており、部屋にはテーブルと椅子が以外、特に何もない。

 椅子に座る鬼柳は、鋭い眼差しで周りを見ている――警戒しているが正しいだろう。

 すると、ドアをノックする音が聞こえ、その後に塚元が部屋に入って来た。


「ギャラや。船ももうじき来るさかい、もう少しの辛抱や」


 そう言うと塚元は、ジュラルミンケースを鬼柳の目の前のテーブルに置いた。

 鬼柳がケースを開けると、中には数千万相当の大量の札束が入っていた。

 その内の二束を手に取り、ペラペラと指で弾いて中身を確認する。

 どうやら間に白紙や新聞紙などの小細工はされていないようだ。


「確かに」

「ほな」


 そう言って塚元は部屋を出て行った。

 それを確認すると、鬼柳は持ってきたリュックに金を入れる。


 塚元が部屋のドアを閉めると、組員に向けて目で合図を出すと、組員は頷き、懐から拳銃を抜いた。

 拳銃はサイレンサー付きの物だ。

 

 組員が部屋のドアを勢いよく開けて、拳銃を構える。

 しかし、鬼柳の姿は見当たらない。

 組員が混乱していると、組員のこめかみにベレッタの銃口が突きつけられた。


「捨てろ」


 そう、殺されると予感した鬼柳が、銃撃を回避するために、ドアの横へ移動していたのだ。

 その方には先ほど現金を入れたリュックがあり、左手には黒いアタッシェケースを持っていた。

 組員は観念して銃を捨てた。

 組員の頭に拳銃を突き付け部屋から出てみると、部屋の外には塚元や組員が居た。


「やるやないか」


 塚元の感心するように言った。


「黙って消されると思ったか?」

「いやー、ホンマ見事や――せやけど……」


 塚元は、背中からサブマシンガン・マイクロUZIを取り出し、レバーを引いて弾を装填した。


「蜂の巣になっても、逃げられるんか?」


 そう言ってマイクロUZIを鬼柳に向ける塚元。

 今、鬼柳を撃ち殺せば上地を撃つのに使った銃は勿論、金も回収できる。


「おい、俺を撃てばこいつも死ぬぞ」

「せやから?」

「なに⁉」

「構わん尊い犠牲や」


 そう言うと組員たちも一斉に銃を構える。

 盾にしている組員も「ま、待ってくださいっ‼」と待ったをかけるが、当然、塚元たちの耳には入らない。

 万事休すだ。


 本来なら――


「言っておくけどな塚元。このケースに入っている銃は《《偽物》》だぞ?」


 そう言ってアタッシェケースを塚元に向けて放り投げた。

 組員の1人が、アタッシェケースを拾い、開けてみると、中には3つに分解された中折れ式のライフルが入っている。

 どう見ても本物なのだが、組員がライフルを手に取ると、見える部分だけが精巧に造られ、反対側の部分はピッタリ半分がない状態だった。


「本物は別の場所に隠している。もし俺が死ねば――」


 あの銃は警察の手に渡る、と言おうとした。


「――これのことか?」

「なに?」


 赤西あかにしが塚元の後ろから現れた。

 その手には黒いアタッシェケース、上地を撃った銃が入っている物と同じ物だ。


「どこでそれを⁉」


 鬼柳の表情がこわばった。


「アンタのクルーザーだよ。もう少し後ろには気をつけないとな」

「そういうことや鬼柳はん」


 天狗の鼻を折ったかのように塚元と赤西は余裕の笑みを浮かべた。

 切り札を失い、塚元たちに殺されるしか道はない。

 塚元もそうだが、赤西を含めた組員みんながそう思った。


「それも偽物だぞ」


 鬼柳の一言を聞いて、一瞬沈黙が流れた。

 しかし、すぐにまた塚元が余裕の笑みを浮かべる。


「何や、着くならもうちょいマシな嘘をつかんかい」

「確かめてみなよ?」


 赤西が床にアタッシェケースを置いて中身を確認した。

 中に入っていたのは3つに分解された例のライフル。


「ちゃんと入っていますよ」


 そう言ってライフルの銃身部分を手に取る赤西。

 しかし、そこで驚愕の事実が分かる。

 ライフルの銃身は、見える部分だけが精巧に造られ、反対側の部分はピッタリ半分がない状態、先ほど鬼柳が放り投げたケースの中に入っていた物と同じ偽物だったのだ。

 まさかの事態に赤西の目は泳いでいた。


「何だよこれ⁉」

「アンタがつけて来ていることはとっくに気づいていたよ。残念だったなっ!」


 突然鬼柳は、盾にした組員を塚元たちに向けて押し出すと、銃を撃ちながら、近くにあった潜水艇の陰にダイブした。

 鬼柳の突然の銃撃に組員たちは反射的に撃ち返し、どんどん潜水艇に弾を撃ち込んでいった。


「おい待てぇい‼」


 塚元が大声で叫び、そこで組員たちは銃撃を止めた。

 今鬼柳に死なれては困るからだ。

 これで自分には手が出せない……はずだった。

 突然、布でも引き裂くようなけたたましい音が響いた。塚元のマイクロUZIだ。

 そして塚元が放つ銃弾の1発が鬼柳の左足首を貫いた。

 潜水艇の下の僅かな隙間から弾が抜けたのだ。

 足を抑える鬼柳の元に、組員の1人が銃を向けながら現れた。


「時間の問題やでぇ鬼柳。観念せい……」


 もう、打つ手が思いつかない。

 後は拷問にでもかけられると、鬼柳は覚悟した。

 その時だ。

 

 ガシャーン!

 

「あぁ?」


 ガラスの割れる音を聞いて、塚元たちが天窓の方へ目を向けた。

 天窓がある天井の近くに居た組員たちは、慌てて破片を避けようとその場から離れる。

 すると、割れた天窓から、水色のスチール缶のような物が3つ降ってきた。

 そしてそれの底の部分から紫色の煙が勢いよく噴射された。

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