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WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)  作者: 木村仁一
第8章 ウィザード・オブ・ザ・アンガー
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2話 シー・シャーク

 シーシャークがある場所は、埋立地になっており、正方形の左横に直角三角形をくっ付けたように広がっており、その境を示すように道路が伸びている。

 シーシャークがある場所は海に面しており、シーシャークから見て右に、団地と河口があり、反対側には埠頭のコンテナヤードがある。


 周りが夜の闇に染まる頃、シーシャークの正面から、およそ数百メートル近く離れた場所にある倉庫と倉庫の間に隠れるように2台の車が止まった。

 ダークスピーダーとレッドスピーダーだ。

 幸い今は誰も居ないようだ。

 タケルとレイが、それぞれ車から降りると、レイはグラッピングフックを取り出し、倉庫の上へ上って行き、武もそれに続く。

 屋根に着いたレイは、暗視装置付きの双眼鏡でシーシャークを覗いた。

 レイの見る限り、建物の周りには、車が1台止まっているだけで見張りはいない。

 サングラスを外した武も、同じように暗視装置付きの双眼鏡でシーシャークを覗いた。


「ちょっとあなた、むやみにサングラス外さないでよ!」

「こんなに真っ暗なのに?」


 武の意見ももっともだ。

 今までは車のヘッドライトや道路の灯が進む先を照らしていたので、サングラスをしていてもあまり問題なかったが、ここは違う。

 サングラスを掛けたら真っ暗でほとんど見えない。


「そのサングラス、暗視装置なかった?」

「あっ……」


 そう、武はあることを忘れていた。今掛けているサングラスが、ただのサングラスではないことを。

 武は改めてサングラスを掛けると、「右だっけ、左だっけ?」と迷いながらも、右側のつるのボタンを押した。

 すると、武の見る風景が昼間のように明るくなった。

 サングラスの暗視装置に「すげぇ!」と感極まるのだが、直後にあることに気づく。


「今使っても意味ねぇよ⁉」


 どの道双眼鏡を使うので、どの道サングラスを上にずらす必要がある。

 そんな武を無視するレイだが、そのレイの目は「ウザッ」と言うように細めていた。

 改めて武もレイと同じ、暗視機能付きの双眼鏡でシーシャークを覗いた。


「見張りはいないようだな」

「そうみたいね。問題は、塚元つかもとが現れるかどうか、ね」

「オッチャンの情報だから、多分大丈夫だと思うけど、他に死体処理場がない限りは……」

 

 武は双眼鏡を下ろし襲撃の方法を自分なりに考えてみた。

 レイはというと、シーシャークの右にある、コンテナヤードに目を付けた。

 あそこからならシーシャークに近づけるだろうと考えたのだ。


「車で一気に行くか?」


 あまりにも単純明快な武の案に、双眼鏡を下ろしたレイが、呆れて目を細めた。


「車だとさすがに気づかれるでしょ?」

「じゃあ、歩いて行くのか?」

「その通り」

「えぇ……?」


 思いのほかシンプルな作戦に、武も思わず苦笑いをした。


「その代り、あそこにあるコンテナヤードまでは車で移動よ」


 それを聞いて、武は双眼鏡を通して倉庫の方を覗いた。


「誰かいるんじゃない?」

「見た感じ、人気ひとけは無いから、多分大丈夫でしょ」

「よく見てるね……――で、その後は?」

「シーシャークの屋根には天窓があったから、発煙弾を使って潜入、攻撃よ」

「万が一失敗したら?」

「その為のジイの新装備でしょ?」

 


 塚元たちに悟られないように、ヘッドライトは点けずに、コンテナヤードに入った武とレイの車は、コンテナの陰に隠すように止った。

 武とレイは、そこから一番シーシャークに近い積み重ねられたコンテナを見つけ、それを、グラッピングフックを使って上り、双眼鏡を覗いて様子を窺った。

 建物をよく見ると、やはり出入り口の上に監視カメラが見える。

 出入口の扉の両サイドにそれぞれ監視カメラがあり、1つは道路側を、もう1つはこちらの方を向いているが、カメラの角度が若干下を向いていることを考えれば、どうやらここまでは視野に入っていないようだ。


「やっぱりカメラでガードしてるわね」

「どうやって近づくんだ?」

「ちょっと待って」


 レイは小型タブレットを取り出すと、電波を調べ始めた。

 もし監視カメラが無線式の物だったら、ハッキングで乗っ取ることも出来る。

 しかし、小型タブレットの画面には、監視カメラの電波をキャッチすることは出来なかった。


「出てこないな?」

「無線式じゃないのかも」

「じゃあ、どうやって近づく? カメラ壊すか?」

「それだと余計バレるでしょ……。これの『JAM(ジャミング)』機能を使えば監視カメラを一時的に麻痺させられるの」


 そう言ってタブレット画面にある『JAM』と表示されたアプリを武に見せた。


「便利だね……」


 そうと決まれば、後は行動に移すだけだ。

 レイは、小型タブレットの『JAM』を起動した。

 

 シーシャークの中で、モニターを見ている組員が1人。

 組員の前に置かれた3つのモニター、出入口を含め、建物の周りを映していた。

何の変化もない画面に退屈してあくびをしていると、突然モニターが乱れて何も映らなくなってしまった。

 組員はどうしたと何となくモニターを叩くと、画面は元に戻った。

 故障かと思い、試しに監視カメラを遠隔操作で左右に振ってみると、画面もそれに合わせて左右に動いた。

 組員は一時的なバグだと思い、席に着いた。

 

 小型タブレットの『ジャム』で何とか見つからずにシーシャークの屋根にたどり着いた武とレイ。

 忍び足で屋根の上を進むと、天窓の近くで身を伏せる。

 武が天窓から中を覗こうとすると、レイがすぐに武の髪の毛を掴んで止めた。


「……見つかったらどうするのよ、この馬鹿⁉」

「……じゃあ、どうやって覗くんだよ⁉」


 武の質問にレイはカメラを取り出した。

 先端のカメラは数ミリの細さになっており、小型モニターにはカメラの映像、更にモニターの下にあるリモコンでカメラの先端を自在に動かすことが出来る。

 例えるなら、病院で使う内視鏡のようなカメラだ。

 先端のカメラを90度の角度に曲げると、天窓を通して中を覗いた。

 建物の中には、様々な生物が入った水槽や、数人の組員らしき人影が見えるが、肝心の塚元や、あの殺し屋の姿が見えない。


「まだ来てないんじゃないか?」


 武の言う通り、塚元ならまだ来ていない可能性が高い。

 問題は殺し屋だ。

 もし、自分たちより早くここに来ていたら、既に殺され、海の藻屑もくずになっているかもしれない。

 そんな予感がレイの中で過ぎると、1台の車がシーシャークの敷地に入って来た。

 レイは移動して、カメラを車の方へ向けた。

 車は黒塗りの高級車、その後部座席から降りてきたのは塚元だ。


「……塚元が来た」


 再びレイはカメラを天窓に当て中の様子を窺った。

 中では「お疲れ様です!」と組員が塚元にお辞儀をして迎えている。

 塚元は口には出さず、左手を上げる程度で挨拶を済ませると、事務所の方へ歩いて行った。

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