白い車
とある港近くの波止場に、たくさんの警官が集まっていた。
その中でも目立つのが、現場に止まっている大型のクレーン車。
そのアームの先は海へと沈められている。
警官の中には、西嶋を含む県警捜査一課の刑事たちの姿もあった。
昨晩にここに車が落ちたと通報があり、ダイバーを使って確認したところ、本当に車が沈んでいたということだ。
やがて、クレーンによって海から1台の白いセダンが引き上げられた。
セダンが波止場に降ろされると、鑑識が早速調べ始める。
セダンの窓にはフィルムが貼ってあり、中は見えないようになっていた。
運転席には男の死体が乗っていた。
○
白摩署・刑事部屋――
宮元は1人、自分の席の後ろに広がる窓の光景を眺めていた。
日が傾き、徐々に空が橙色に染まって行った。
武は無事なのだろうか、という心配していた。
何故なら、先ほど捜査一課の橘の話から、沢又によって武が嵌められた可能性が強まった、と聞いたからだ。
肝心の沢又は、抑える前に県警から出て行ってしまったため、今県警が行方を追っている状況だ。
一応自分の部下が起こした問題というわけではなかったが、それでも驚きを隠せなかった。
突然電話が鳴り、宮元が受話器を取る。
「白摩署刑事課――私ですが、どなたですか?」
電話から聞こえてきたのは、変声機を使っているのか、ピッチの低い声だ。
「《本牧埠頭の水沼研究所跡に来てみろ、裏切り者が居る》」
「裏切り者? 誰だ?」
しかし、相手は一方的に電話を切った。
宮元は受話器を、ジッ、と睨み、受話器を置くと、再び宮元の席の電話が鳴った。
「白摩署刑事課――あぁ、西嶋刑事――何ですって⁉ はい!」
今度の相手は西嶋だった。
上地が射殺された時に現場から逃走した車と特徴が似ている車が海から発見され、中には死体もあったという報告だ。
車のナンバープレートをメモすると、今度は宮元が西嶋に報告を入れる。
「そう言えば西嶋刑事、先ほど電話がありまして」
『電話ですか?』
「えぇ。機械で声を変えていたので誰かは分かりません。しかし、裏切り者がどうと、本牧埠頭の水沼研究所跡に行けって、って言っていました……」
『裏切り者? もしかして沢又刑事じゃ?』
「そこまでは分かりません」
『そうですか、調べてみます』
宮元が受話器を置くと、刑事部屋のドアが開き、菅原が入って来た。
「課長、上地が射殺された時に使われたと思われる車ですが、何とか2台までに絞られました」
「そうか――あっそうだ。先ほど捜査一課の西嶋刑事から連絡が入って、車が見つかったらしい。これがナンバーだ」
そう言って先ほどメモした紙を菅原に見せた。
菅原は、候補の車のナンバーと、宮元のメモのナンバーを見比べる。
「間違いないです。盗難届が出ていた車で間違いありません」
「盗難?」
「はい。2日前に買い物の途中で盗まれたそうです」
「ウラは取れたのか?」
「ええ。上地が射殺された当日も仕事に行っていたそうで、証人も大勢居ます。本人は事件とは無関係で間違いないでしょう」
「そうか……」
「海に沈められた車には、男が乗っていたらしい。県警と合流して、詳しい情報を貰ってこい」
「分かりました」
菅原は刑事部屋を後にした。