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WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)  作者: 木村仁一
第6章 罠
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11話 男って損

 塚元つかもと組の組長室――

 自分の椅子に座る塚元は、部屋にある代紋と向かい合うようにして電話をしていた。


「――ほな」


 塚元は沢又との連絡を終えて携帯を仕舞うと、くるりと椅子を回転させ机の向こうにいる男と向き合った。

 その男は塚元と同じように、細長い顔をしている。


「ご苦労やったな、アオちゃん」

「いいえ組長オヤジ警察サツなんてチョロイですよ。 オヤジと入れ替わったことすら気づかずに永遠と俺を見ているんですから」

「ホンマ、アオちゃんは、ぇ働きするでぇ」


 このアオちゃんと呼ばれた男――青海あおみは、塚元組の中で、もっとも塚元に似ていることから、よく影武者に使われている男だ。

 塚元のように濃い口髭や顎鬚を付け、左眼には縦の大きな傷のメイクと髪型を真似れば――間近でよく見ると別人だが――パッと見ただけでは見分けがつかない程よく似ている。


「今日は帰って女のところに行くとえぇ」

「良いんですか?」

「えぇよ。その代り、明日もみっちり働いてもらうでぇ」

「わ、分かりました。失礼します」


 そう言って青海は塚元に一礼して部屋を出て行った。

 それと入れ替わるようにスキンヘッドの男がジュラルミンケースを持って入って来た。

 赤西あかにしだ。


「オヤジ、例の物が出来ましたぜ」

「ほう、っとったでぇ」


 まるでプレゼントを楽しみにする子供のような笑顔を浮かべる塚元。

 赤西がジュラルミンケースを机に置くと、それを開け、塚元に中身を見せた。

 その中には、1つの左手用のガントレットグローブが入っていた。

 グローブの色は黒く、手首の部分には、ダイヤル式のスイッチと手首に沿ってボックスのような物が付けられていた。

 指を曲げても支障が無いように関節部分以外は金属製のプレートのような物で覆われている。

 塚元がそのガンレットグローブを左手に嵌めて手の平の部分を覗いた。

 指の裏と手の平の部分も金属製になっているようだ。


「電圧は?」

「仰せの通り、最高で10万ボルトです」


 それを聞いた塚元がグローブのダイヤルを目一杯回した。

 すると、何か機械のアイドリング音が鳴り始めた。


ぇ音や。これで白ちゃんと黒ちゃんもガイコツやな……」


 そう言って不敵な笑みを浮かべる塚元だった。

 そして、それを聞いた赤西は思ったことがある。


(相変わらずネーミングセンスないですね、オヤジ……)


                 〇


 タケルは医務室で野々原(ののはら)から受け取った黒いタンクトップと赤の半ズボン――何故か用意されていた下着――に着替え、レイが来るのを待っていた。

 ――のだが、メイクを落とす、と言ってシャワーを浴びに行ってから、なかなか帰ってこないため、医務室のベッドで転寝していた。

 すると、医務室のドアが、コンコン、とノックされた。


「着替え終わった?」


 武はレイの声に「はっ⁉」っと、声を上げて立ち上がった。

 まるで居眠りをしていた生徒が教師に声をかけられて慌てたように。


「ああ、終わったよ!」


 それを聞いたレイがドアを開けた。


「お待たせ」

「随分かかった――なぁ……」


 レイは何時もの格好とは違いトレーニング用にスポーツウェアに着替えていた。

真ん中に太い白い線が入った黒のパーカートップスにグレーのショートパンツ、髪はポニーテール状に後ろで結ばれていた。


「なに?」


 キョトンとする武に、レイは目を細めて尋ねた。


「えっ? あーいや、いつもの格好と違って、ちょっと新鮮だなぁ、と思って……」


 武の答えに、レイは「ふーん」と素っ気ない返事を返した。



 武が案内されたのは、同じ地下にあるトレーニングルーム。

 先ほどの医務室の倍はある広さの部屋に、ジムさながらのランニングマシンやクライマーなど様々な筋トレマシンが置かれており、部屋の中央には青いマットが敷かれている。


「何でもあるなお前んち――ところで、さっきも訊いたけど?」

「まずは簡単な技から教えてあげる」


 そう言ってレイはパーカーを脱ぎ、それを近くのランニングマシンの操作パネルの上に置いた。


(マジかよ……)


 武は思わずレイに見とれてしまう。

 何故なら、レイのボディスタイルは、グラビアアイドルにも匹敵するほどの見事なものだったからだ。

 パーカーの下から現れた水色のスポーツブラに覆われた胸といい、程よく引き締まった腹筋といい、見る人をクギ付けにするほど見事なものだ。


(ヤバイ、レイってこんなにセクシーだったんだ!)


 武は頬を赤くした。

 地肌を出来るだけ隠すために露出の少ない格好が殆どだったレイしか見ていなかったため、レイの体系など今まで気にもしていなかった。

 確かに第一印象は美人だと思っていが、まさかスタイルまで抜群とは。

 恋愛面での女性との付き合いが全くと言っていいほど無い武にとって、目の前に居るレイはとても眩しい。


 いや、どストライクといってもいい。


 もう犯罪者とか関係なく、お付き合いをお願いしたいくらいだ。

 レイの色気に惑わされて、武の理性が何処か吹っ飛び――

 

「――スケベ……」

 

「ハッ⁉」


 レイの放った一言によって、武は我に返る。


「ス、スケベってなんだよ⁉ スケベって⁉」

「私の体、舐めるように見てたじゃない……変態……」


 そう言うとレイは、自分の体を抱きしめるような仕草をする。

 理不尽だ。

 そう言ってやりたかったが、レイの色気におとこの本性が出かかったのは事実。悔しいが何も言い返せなかった。


(男って損だ……)

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