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WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)  作者: 木村仁一
第6章 罠
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10話 沢又の報告

「なに、大下おおしたが⁉」


 白摩署の刑事部屋に宮元みやもとの声が響き渡った。鹿沼かぬまからの思わぬ報告に、自分の席から立ち上がる程だ。


「信じられませんよ。タケルが暴力団とつるんで沢又さわまた刑事を殺そうとしたなんて……」


 納得していない表情で松崎まつざきが語る。武がそんなことをするとはとても思えなかったからだ。


「ところで沢又刑事は無事なのか?」

「全身ビショビショでしたけど、ピンピンしてますよ――って言うか武は心配じゃないんですか?」

大下あいつなら心配ない! それより沢又刑事に詫びを入れないと……」

「自分の部下をなんだと思って――」

「――落ち着け隆太リュウタ


 宮元に食って掛かろうとする松崎を鹿沼が止めた。


「トシさん! トシさんも武が裏切り者だと思うんですか⁉」

「そうは言ってないだろう……」


 刑事部屋にギクシャクした空気が流れ、その場に居た菅原、安藤もどこか気まずそうにあさっての方へ顔を向けていた。

 ただ1人、飛馬ひばだけは、全く無関心の様子だ。

 その後も宮元と松崎と鹿沼が色々武のことで口論していると、刑事部屋のドアが開いた。

 入って来たのは捜査一課イッカ木暮こぐれとその部下2人、そして、マル暴の神代かみよとその後ろに服を着替えた沢又が入って来た。

 それを見て宮元は足早に神代の前に立つと深々と頭を下げた。


「この度は、私の部下が沢又刑事に――」

「――宮元君‼ もう少しで私の部下が命を落とすところだったんだぞ‼」

「申し訳ありません。私の監督不行届きでした……!」


 宮元は、先ほどよりも深く頭を下げる。


「謝って済むことじゃない‼ 部下が助かったのは良かったが、これは日本警察の信用にも関わる問題だ‼」


 神代の正論に、宮元は何も言い返せない。刑事が暴力団と一緒に、仲間である刑事を殺そうとするなど、有ってはならないことだ。


「ひょっとしたら警察の情報漏れも大下の仕業じゃないのかね⁉」


 神代は今回のことで武が警察の情報を暴力団に流していたのではないかと、疑問を抱いた。


「待ってください。大下はうちの刑事ですよ。県警の情報までは手が出せませんよ……」


 鹿沼が神代に近づき、その考えに異議を唱えた。武はあくまで所轄の刑事、県警に関する情報は多少持っているかもしれないが、それでも県警の情報漏れの原因と断定するには無理があるからだ。


「だが、私の部下が殺されかけたのは事実だ‼」


 それに関しては鹿沼でも否定のしようがない、事実は分からないのだから。


「神代《警視》、落ち着いてください」


 今まで静かに聞いていた沢又が口を開いく。


「彼の態度からしても、何か訳ありの感じでした。本意でやっている訳ではないと思うんです。恐らく自分が狙いでしょう」

「どういうことだい?」


 木暮が沢又に訊いた。


「相手は恐らく天王会てんおうかいの連中かもしれません」

「天王会と何かあったんですか沢又刑事?」


 鹿沼が訊いた。


「薬物を取引していたところを、私たちが逮捕パクっています。本人たちは、『嵌められた』と、しらを切る一方で、未だに犯行を認めていませんが、恐らくその報復でしょう」

「でも何で、うちの大下が?」

「それは分かりません。先ほども言った通り、何かやむを得ない事情があったんじゃないでしょうか。もしかしたら誰か親しい人を人質に取られているか、何か弱みみたいなものを握られているのでは?」


 宮元を含め、その場にいる白摩署の刑事みんな――飛馬を除いて――が考えた。

 武の弱みと言われても、単独行動を取ったことは有ったが、ゆすられて言いなりになるようなことではない。

 親しい人についても、武に恋人がいるという話は勿論、噂すら全く聞いていない。武の両親に関しても、既に両方他界している。

 全く持って心当たりは――


「――カオルさん?」


 その場に居たみんなが鹿沼の方を向いた。


「誰ですか薫って?」

「亡くなったたに刑事の奥さんです。もしかしたら――菅原すがわら安藤あんどう、薫さんの所に行って確認してくれ」


 菅原と安藤が「はい」と言って刑事部屋を出て行った。

 そこで沢又がもう1つの仮説を述べる。


「この線もないか? 大下君は、谷刑事を殺した犯人ホシを追っていたんですよね宮元課長?」

「はい、そうです」

「もしかしたら、そのことで天王会と取引をしていたのかもしれませんね。『協力する代わりに手伝え』とか――」

「――武がそんなことするわけねぇだろ‼」


 松崎がキレた。憶測に過ぎないと分かってはいるが、親友に対してのあまりにも勝手な言い草に我慢が出来なかったのだ。


「あ、いや、すまない。あくまで、もしもの話だ!」


 沢又も、マズい、と思ったのか、慌てて詫びを入れる。


「そう言えば周辺の聞き込みは?」

「あの通りは人通りがほとんどないようで、目撃者はいませんでした」


 木暮の質問に鹿沼が答えた。

 すると、今まで話に全く入ってこなかった飛馬が声を掛けた。


「理由はどうであれ、早く大下を見つけないと、場合によっては消されますよ」

「そうだな。大下の消息を早く確認するんだ。あと天王会で動きがないかの確認、それに上地殺しも引き続き行ってくれ」


 神代が命令を出すと、鹿沼たちやマル暴の刑事たちが一斉に部屋を出ていった。

 それを見た沢又は、内心ほくそ笑んだ。

 後は武の死体が上がれば問題は解決する、と。


                 〇


 レイの隠れ家――

 レイは自分が立てた仮説を武と野々原(ののはら)に話した。沢又が県警や白摩署の刑事たちに報告するだろう内容を。

 

「――って言うように、沢又は報告するんじゃないかしら? あなたが死体で見つかっても、用済みになって天王会が消した、ってことで終わるでしょ?」

「待ってくれ、黒富士組と天王会が揉めていること知ってたのかよ?」

「揉めていることは上地うえちから聞いていたわよ」

「あぁ、なるほど……」


 考えてみれば当然のことだ。

 塚元組を探らせていたのだからそのくらいの情報は入っていてもおかしくはないだろう。


 「――って言うか、それ無理がないか? それだったら上地殺しをどう説明するんだよ? わざわざオヤッさんを撃った時の銃を使ってまで俺を誘き出そうとして、最後に天王会の所為って……」

「さすがにそれは別にするんじゃないかしら? あくまで上地殺しは上地殺しで、今回のことは捜査中のハプニング、ってことにすれば……」

「そう上手くいくかな……? 天王会と俺には何も接点も無いんだぜ? 第一、誰が暴力団と手を組むかよ」

殺人犯()とは手を組むのに?」


 武は、あっ……、と言葉を詰まらせた。確かにレイと組んでいる時点で刑事として色々終わっている。

 それを見たレイも、今更……、と呆れて目を細めていた。


「お嬢様、このままでは武様が悪人にされてしまいます――ボートマリーナを調べるように匿名で警察に連絡するのはどうでしょうか? あそこならお嬢様が撃った組員や武様の血痕も残っている可能性もあります。武様の潔白を証明できるでしょう」


 野々原の言う通り、ボートマリーナを調べれば、死体は回収されているかもしれないが、レイが撃った組員の血痕や、塚元に撃たれた時の武の血痕も手すりの何処かにあるはずだ。それなら洗い流してもルミノール反応が出るので、武が撃たれたことを証明できる。

 そうなればレイが立てた仮設通りに沢又が報告したとしても矛盾が発生し、疑惑の矛先は最終的に沢又になる。

 仮に沢又が「ボートマリーナには行ってない」と惚けたとしても、交差点などの防犯カメラに映っていると思われるので、逆に自分の嘘を証明することになる。むしろ武の覆面車がボートマリーナの近くにあるのだからなおさらだ。


「問題は、そのボートマリーナが無事かどうか?」


 武は既に塚元が手を打っていると考えた。

 そう、あの煙だ。

 武がここに来る前にボートマリーナの方から黒煙が上がっているように見えたことを話した。

 その煙がボートマリーナから立ち上がっていたとしたら、証拠は既に灰になっているだろう。

 規模によってはニュースになっているかもしれので、テレビで確認が取れるかもしれないが、そうでない場合は自分で確かめないといけない。

 レイと野々原が難しい顔をした。


「とにかく、沢又を何とかしないと、薫さんも心配だ。誰か保護してくれればいいけど」

「その前に、あなたがもっと強くなる必要があるわよ。塚元に負けたんだから」

「あの時は銃が無かったから――」

「――それが駄目なの! 銃や能力に頼らなくても戦えるようにしなくちゃ」

「俺だって強くなりたい。だけどそんな簡単には……」


 確かに塚元に負けたことは悔しい。だからといってすぐに強くなれるのは漫画か映画でもない限りあり得ないことだ。

 少し弱気を見せる武に、レイはキッパリと言う。


「私が教えてあげる。一夜漬けでも、やらないよりはマシよ。ジイ、彼に着替えを」

「しかしお嬢様。武様は腕に怪我を……」

「はやく‼」

「かしこまりました」


 レイの剣幕に対しても表情を変えず冷静の野々原だが、武の着替えを取りに部屋を出て行った。


(執事も大変だな……)


 野々原の後ろ姿を見送る武。


「ところで何をするの?」


 何処となく不安を覚えた武がレイに訊いた。


                 〇


 県警本部内・資料室――

 暗い室内にただ1人、沢又が携帯を耳に当てている。

 電話の相手は塚元だ。


「ええ、未だ大下は行方不明です。恐らく死んでいると思いますが」

『スナイパーまでったんや、確認せんと安心は出来へん。隠れとるだけかもしれんし。組員うちのモンが見つけ出せればええけどな』

「安心してください。いざという時の手段も用意しているので」

『ほぅ、なんやそれは?』

「大下刑事の相棒だった谷には妻が居ます。そいつを人質にすれば、いやでも出て来るでしょう」

『そうかヒコちゃん。まぁ、引き続き頼むでぇ』

「はい」

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