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WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)  作者: 木村仁一
第6章 罠
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9話 執事と対面

 後部座席で眠りに附いていたタケルが目を覚ました。

 どのくらいの時間が経ったのだろうか、武が顔を上げて窓の向こうを見てみると、そこには高い岩壁。感覚的にレイドマスターは今上り坂を上がっているのがわかる。

 しばらく走ると、車は止まり、武が周りを見ていると、今までの一本道とは打って変わってかなり広い場所になっていた。

 なぜこんなところで止まったのだろうか?

 武が考えていると、当然車の左横に見える岩壁が下へ向かって下がり始めたのだ。


「……うお、すげぇっ!」


 驚きというより憧れの物を見るように武の目はキラキラと輝いた。まるでヒーローものの秘密基地のようでカッコイイ。

 岩壁が下がりきると、そこにはレイの愛車のレッドスピーダーと武の相棒ダークスピーダーが止まっていた。隠しガレージだ。

 レイドマスターはバックする形でガレージの中へ入って行った。ダークスピーダーの左隣だ。

 レイドマスターの駐車が終わると、壁は再び上昇。外と完全にシャットアウトした。


「降りられる?」

「ああ」


 武がドアを開けてレイドマスターの外に出ると、後方のドアから1人の初老の男性が大きなタオルを持って入ってきた。

 そしてレイを見るなりに、「お帰りなさいませ、お嬢様。そして、ようこそ大下おおした様」と頭を下げる。

 服装は普通だが、その姿はまさに執事のそれだ。


「さぁ、外は寒かったでしょう?」


 そう言うと執事は持ってきたタオルで武の体を覆った。


「仲間が居るのは知ってたけど、執事なの?」

「そうよ――ジイ、ただいま。彼の手当てお願いね」


 そう言うとレイはフードを取った。

 一応肌は人並みになるようにメイクを施して、髪も金髪に染められていたようだ。


「かしこまりました。こちらへ」

「あ、はい」


 武は執事の後について行った。



 案内された部屋は、何か研究で使うようなよく分からない機材や透明のガラス容器が置かれたテーブル。薬品が仕舞われている棚など、見るからに研究室と分かる光景が奥に広がっていた。

 10畳くらいの広さはあるからだろうか、機材や棚などによる圧迫感はあまりない。


「こちらへ」


 執事に案内したのは部屋の入り口のすぐ左、手前には机とその前に2つの丸椅子があり、医療器具や治療薬が仕舞われているガラス扉の棚が机の隣に置かれていた。

 さらにその隣には茶色のベッドまであり、医務室も併せているようだ。


「では大下様、そこに座って傷口を見せてください」

「はい」


 執事に言われ、武は机の前に置かれた丸椅子に座ると、タオルの隙間から左腕を出すと、袖を捲し上げて傷を見せる。


「結構深いですね」


 傷を見ると執事は机の隣にある棚のガラス戸を開け、薬の入ったケースや器具を取り出し、机に置いた。

 そして、執事は自分の手を洗い更に消毒して清潔にすると、武の傷の治療を始めた。

 消毒液がしみ込んだガーゼが傷口をさわるたびに痛みが走る。こればかりは苦手だ。

 続いて執事は傷口を縫い始めた。本当なら麻酔をかけてほしいが、早く治療してほしいという気持ちから、武は歯を食いしばって耐えていた。

 傷を縫い終え、その上からガーゼを当て、白い医療用のテープで留めた。


「終わりました」

「どうも……」


 執事は一度席を立ち、棚からガラスのコップを出すと、水を入れ武に渡した。


「あと、痛み止めです」


 そう言うと執事は薬のケースからカプセル状の薬を2錠出し、武に渡す。

武はそれを呑み、治療を終えた傷を見た。

 悔しい……

 塚元つかもとに歯が立たなかった弱い自分が憎くも思えてくる。


「そう言えば直接会うのは初めてですね。改めまして大下 武です」

「執事の野々ののはらです。大下様」


 お互いに挨拶を済ませると、軽く握手した。

 男同士だからだろうか、レイと違って何でも話せるような親近感さえ覚えた。


「『大下様』なんて硬い呼び方しないで、下の名前で呼んでください」

「それでは武様」


(様はつくのね……)


「それにしてもすごい基地ですね」

「元々祖父の趣味で建てた別荘だったの。こんな形で役に立つなんて思わなかったけど」


 いつの間に入って来たのか、レイが話に割って入る。

 それよりも、「祖父の趣味で建てた」と聞き、武は内心目玉が飛び出るような思いだ。

 どう考えても並みの人間が、趣味、の一言で建てられるような建物じゃない。それを考えると、出る答えは一つだけだ。


「金持ちなんだなお前……」

「何よその眼?」


 本人は気づいていないが、武は遠くを見るような細い目でレイを見ていた。

 レッドスピーダーやダークスピーダーなどの改造車は勿論、こんな基地を個人で持っているのだから、尊敬するようなドン引きするような、複雑な気持ちだ。

 だとしても、その武の視線を受けるのは、レイでもさすがに不快だった。

 レイは、仕切り直し、と一度咳払いをすると、「今はそうでもない……」とどこか寂しそうに静かに言った。


「それより、ボートマリーナのこと、聞かせて?」

「勿論」


 武はボートマリーナへ向かった経路をレイと野々原に話した。

 赤西あかにしを問い詰めてボートマリーナへ向かったこと、それが罠で沢又さわまたが裏切り者だったこと、全てだ。


「なるほど……。その沢又っていう刑事が塚元組と繋がっていたのね」

「あぁ……、よりにもよって県警のマル暴だよ……」


 それを聞いたレイはあまり驚いていない、むしろ「やっぱりね」と納得しているようにも思える。


「もしかして心当たりが?」

「あなた、もしかして忘れたの? 前に廃工場であなたと2人になった時に『警察の中にも奴らの手先がいる』って」


 それを聞いた武は「あっ!」と間抜けな声を上げて思い出した。

 谷を殺した手掛かりが得られるかもしれないと、自分の都合を優先することばかり考えていたので、すっかり忘れていたのだ。

 もう自分で自分が嫌いになる。もし、おとぎ話のランプの魔人が居たら、今の自分を変えてくれ、と願いしたいくらいだ。


「あなた、それでも刑事なの……?」


 その後もレイは武に色々文句を言う。暗殺者に説教されているのだから、刑事の面目丸つぶれである。

 武は気持ち的にドンドン小さくなっていった――出来るなら本当に小さくなってどこかに隠れたい気分だ。


「でもこれでハッキリしたわね。恐らく塚元組の狙いは、あなたを殺すことよ」

「そのようだな……あーくそ、最悪だ……」

「これを教訓にするのね。刑事さん?」

「お優しいこって……」


 武はムスーとした表情でレイを見た。甘えだということは分かっているが、それでもその嫌味な言い方は止めてほしい。

 すると、今まで話を聞いていた野々原が、自分の抱いた疑問を話した。


「でも待ってください。沢又と言う刑事が塚元たちとグルだとして。どうやって今回のことを他の刑事に説明するのでしょうか?」


 そう、途中で行方不明になった武のことをどう説明するのか。

 下手な嘘を言えば沢又自身が疑われることになる。


「もしかしたら沢又も消されているかもしれないわね? 仮に生きていたとしても、恐らく――」


レイはある仮説を立てた。

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