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WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)  作者: 木村仁一
第6章 罠
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6話 裏切り者

 病院の待合室――

 県警の刑事と飛馬(ひば)が変わらず待合室を見張っている。

 塚元(つかもと)がトイレに行ったこと以外は何の動きもない。

 すると県警の刑事のトランシーバーのコール音が鳴った。


「……はい」

『そっちはどうだ?』


 相手は外から病院を見張っている橘からだ。


「……こちらに動きはありません」

『そうですか。引き続き張り込みお願いします』

「……了解」


 県警の刑事と飛馬が再び塚元たちの見張りを開始した。

 しかし彼らは気づいていない。

 待合室に居るのは塚元そっくりに変装させられた別人だったことを。


                 〇


 廃屋のボートマリーナ――


「出口は表と裏だけとは限らんでぇ」


 塚元が顔を突き出して答えた。

 どうやら県警の目を盗んでここに来たようだ。


「ホンマにアホやな刑事デカたちや。――おい、はよ拳銃チャカ取らんかい?」

「くそ……!」


 組員に拳銃を奪われ(タケル)は塚元を睨んだ。


(やっぱり応援を待てばよかった)


 武の中に後悔が募る。


「すまない、こんなことになってしまって」

「まぁ、自分にも責任はありますから……」


 沢又(さわまた)が武に詫びを入れるが、武も突入することに同意した、沢又だけを責めることは出来ない。


「それにもうすぐ応援が来るんですよね?」

 そうだ。沢又が呼んだ応援が来るはず――


「あー、あれはただの合図だ」


 武は「え⁉」と声を漏らした。

 すると武の側にいた沢又が、武から離れて塚元のところへ行った。まるで部下と上司だ。


「ご苦労やったなヒコちゃん」

「簡単でしたよ……それとヒコちゃんは止めてください」

「ちょっと、どういうことですか?」

「こういうことだよ大下。色々儲かるんでね。警察の給料より」


(じゃあ、こいつが県警の……!)


 神代が言っていた、暴力団に情報が流れているという話。

 

そう、犯人は沢又だったのだ。


「てめぇ‼」


 武が沢又に向かって殴りかかろうとすると組員の1人が銃のグリップで武を殴り倒し、武の拳銃を奪うと、武の頭に銃を突きつける。


「じゃあな刑事さんよ」


 組員が、引き金をゆっくり引いて行く。

 味方は居ない。文字通りの絶体絶命の状況に武は、ギュッ、と

 なのだが――


「ちょい待ちィ。おもろないな、一発どついてからでもええやろ」


 今から喧嘩でも始めるように突然上着を脱ぎ捨て、手をポキポキ鳴らして武に近づく塚元。


組長オヤジ、そんなことをしなくても早くっちまいましょうよ……」


 反論する組員。当然意見だ、そんな無駄なことをする必要はない。

 しかし、塚元はいきなり組員を殴り倒すと、さらに腹に蹴りを入れた。


「他に意見、あるぅ……?」


 塚元が圧を掛ける目線で周りを見渡すと、沢又と組員が一斉に「いいえ」と手を左右に振った。組員たちはよほど塚元の性格を理解しているのかが見て取れる。

横たわる武もそれを見て「息ピッタリだ……」と呆れを通り越してむしろ感心していた。


「ほれ、はよ起きんかい」


 塚元に言われて、武はさっきの組員による一撃の所為で頭がくらくらする頭を抑えながら、ゆっくりと立ち上がる。


「いっちょ勝負や」

「勝負って、ふざけてるのか?」

「ちゃうちゃう、どうせ殺すんや、派手にやっても、ええやろっ!」


 そう言うと塚元は、武に向かって一直線に迫った。


(早い!)


 武は塚元のパンチを両腕でガードするが、顔に塚元のパンチが入り、武も殴りにかかるが、塚元のカウンターを喰らってしまう。

 銃を取り上げられ能力を発揮できないうえ、元々格闘が苦手な武にとって最悪の相手だ。

 それでも何とか塚元に一発入れて逃げたい。

武は適当にパンチやキックを切り出すが、塚元に軽々避けられてしまう。


「弱い、弱いで刑事さん」

「うるせぇ!」


 武が塚元の顔目掛けてパンチを打ち込もうとするが再び塚元は、武のパンチをかわし、逆に武の腹にパンチをお見舞いされた。

 腹を抑えて前に屈んだ武に、塚元はとどめと回し蹴りを武の顔に入れた。

 それを受けた武は完全にノックダウン、その場に倒れ込んでしまった。


「なんや? 白摩署の刑事の実力はそないなもんか? ――おい、マイちゃん持ってきてぇ」


 塚元が組員に向けてそう言うと、組員は黒いアタッシェケースをカウンターの陰から取り出し、それを持って塚元の前に行くと、ケースを開けた。

 ケースの中にはマイクロUZI(ウージー)。イスラエル製の小型サブマシンガンが入っていた。

 塚元がマイクロUZIを手に取ると、ボルトハンドルを引いて弾を装填する。


(くそ……)


 武は自分の無力感と同時に後悔する思いが押し寄せる、レイの警告をちゃんと聞けばよかったと。


「これで終わりや。呆気なかったでぇ」


 塚元は武にマイクロUZIを向け、引き金に指を置いた。


(すまない、オヤッさん、レイ……)


 どうすることも出来ない武は、全てを諦めたように目を瞑る。

 そして塚元が引き金を徐々に引き。

 そして――


 パンッ!


 銃声の後に、ドサッ、という倒れた音が響いた。

 それは武のものではない。既に倒れている武がそんな音を出すはずがない。もっと言えば、銃声も小さく外から聞こえた。

 武が倒れた音の方へ向くと、そこにはこめかみの部分に風穴が開いた組員が横たわっていた。

 バルコニーへ続くガラス戸には銃弾の跡がしっかり残っている。


「狙撃です‼」


 組員の1人が叫ぶと、塚元たちが一斉に物陰に隠れる。


「一体誰なんや⁉」


 ガラス戸の横の壁に沢又と隠れた塚元が叫んだ。

 他の組員たちも壁の陰に隠れ、武の周りには誰も居なくなった。逃げるなら今しかない。

 誰が狙撃しているかは分からない――いや、大体想像ついた。

 幸いといっていいのか、ガラス戸は劣化が進んでおり、さっきの狙撃によってさらに脆くなっている。

 武はクラクラする頭を左右に振って、少しでも正気に戻すと、力を振り絞ってガラス戸へ向かった。

 チンピラの1人が武に気づき、武に飛びかかろうと壁の陰から出た瞬間、外から飛んで来た銃弾に頭を撃ち抜かれてしまった。

 それにより更に脆くなったガラス戸に武は体当たり。ガラス戸を破ってバルコニーに出ると武は今出せる力をフルに使って走りバルコニーの手すりに手を掛けて跳び越えようとした。


「待てぃ‼」

「うっ‼」


 塚元は壁の陰から武に向けてマイクロUZIの弾を放ち、それが武の左腕をかすめた。

 それによりバランスを崩した武は川に落ちてしまった。

 塚元たちは武を追いかけたかったが、スナイパーがいる以上うかつに外に出られなかった。

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