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WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)  作者: 木村仁一
第6章 罠
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4話 どっちがどっち?

 赤西あかにしの乗るセダンを尾行するタケル

 コインパーキングを出てからだいぶ走り続けており、武はある不安を覚えていた。


沢又さわまたさん、もしかしたら俺たちドジ踏んでないですか?」

「どうして?」

「いやですよ。もしかしたら赤西が囮で、赤西が最初に乗っていたクーペ(あの車)の方で何かをやるんだったのでは、と思いまして……」


 あの時応援を呼んで赤西のクーペも見張るべきだったと後悔していた。

 しかし沢又は冷静に武の質問に返した。


「それは無いと思うよ。赤西が事務所から出るときは何も持っていなかったし、事前にあの車に何かを積んでいるなら、事務所を張り込んでいた一課イッカマルボウ(私の仲間)が見ているはずだ」


 言われてみればそうだ。塚元組の事務所は県警がずっと張り込んでいたのだから、妙な動きがあればすぐにわかるはずだ。

 だとすると、今の赤西の方が怪しい、と考えるのが筋だろう。

 しかし、赤西の車は何処まで行くのだろうか。このまま白摩署の管轄外へ向かいそうな感じさえ覚える。

 信号が青に変わり、車が流れだしたと思えば、その先の交差点の赤信号で再び停車した。

 すると――


「な、何だ⁉」


 突然、赤信号にもかかわらず赤西の車が発進したのだ。

 交差点を横切る車からはクラクションが鳴らされ、赤西の車を避けようとして大きく曲がり、中には信号機や標識に激突しそうな車も居た。


「気づかれた! 沢又さん」

「オッケー!」


 沢又はパトランプを屋根の上へ乗せ、サイレンを鳴らし、武は拡声器のマイクを取り、周りの車に警告を発した。


「すみません道を開けてください!」


 赤西の車と覆面車の間に居た一般車が動き、武は覆面車を発進させた。


 

 猛スピードで道路を走り抜ける赤西の車を武の覆面車は何とか追跡していた。

 赤西の無茶な運転によって一般車からはクラクションが鳴らされ、それだけでも追跡が 出来るのでは、と思ってしまうくらいだ。


「絶対に逃がすんじゃないぞ、大下君!」

「勿論です!」


 アクセルを踏み込み、赤西の車との距離を縮める武の覆面車。

 すると、赤西の車が交差点をウインカーも出さずに右折。


「あいつ!」


 武は慌ててパーキングペダルを踏んでハンドルを切り、覆面車を180度方向転換。さらにアクセルを踏み込んだ。

 それによる急加速で後輪はスリップし、耳を引き裂くような甲高い音と同時に白煙を上げながら、赤西の車が曲がった方へ向かった。

 赤西の車をなんとか視界に捉えたが、さっきの急な右折によって距離が開いている。


「だいぶ離されたな……」

「まだまだです!」


 なおも武たちを振り切ろうと、赤西の車は交差点を左折するが、流石に猛スピードで左折することは出来ず、その瞬間だけスピードが落ちた。

 しかし武は違った。

 巧みなハンドルさばきとアクセルワークで交差点をドリフトしながら左折。赤西の車との距離を一気に縮める。

 そんな武のドライビングテクニックを目の当たりにした沢又は目を皿にしていた。


「おいおい大下君、キミは一体何者だい⁉」

「ちょっと他に適正なものがありまして!」

「刑事辞めて、スタントマンになったらどうかな?」

()()になったら考えます」


 武と沢又がそんなやり取りをしているうちに、赤西の車は狭い道路へ入って行った。

 その時、武の目にある看板が目に入り、勝ち誇ったように笑みを浮かべた。


「ドジ踏んだな、この先は行き止まり!」


 そう、武が見たのは工事を知らせる看板。しかも「通行止め」と書かれていた。

 工事現場が見えると、赤西の車は急ブレーキで停車。

 武の覆面車も赤西の車の後ろに停車し、袋の鼠状態になった。

 それを見て武も「よっしゃ!」とガッツポーズをすると、覆面車を降りた。

 すると、赤西は車を降りて逃走を図るが、覆面車から降りた沢又が赤西を取り押さえ――ではなく、赤西の車の横に向けて赤西を背負い投げした。


「えぇ‼」


 沢又のまさかの行動に武は勿論、工事現場の作業員も声を上げた。


「大下君、奴の車を……!」

「は、はい!」


 沢又が赤西の胸倉を掴み、無理やり立たせると、今度は赤西の頭を掴んで車のボンネットに押さえつけた。

 その間に武は赤西の車の中を調べるが、車内には何も無いようだ。

 続けてトランクルームを開けると、そこには黒いアタッシェケースが入っていた。

 武がケースを開けると、中には金額にして、恐らく数千万円はあるだろう大量の札束が入っていた。


「ワオ!」


 今すぐにこのケースを持って逃げたい……という気持ちを抑え、武は沢又に報告をする。


「沢又さん、()()()()がたくさん居ます」


 それを聞いた沢又は赤西を睨みつけて訊いた。


「あの金は何だ?」

「宝くじが当たったんだよ……」

「ほう、そうか。よーし、質問を変えよう。上地を殺した奴に心当たりは?」

「知らねぇよ。俺――はー‼」


 沢又は赤西を一本背負いの形で投げ飛ばした後、赤西の胸倉を掴み無理やり立たせて訊いた。


「もう一度訊くぞ?」

刑事デカだからってこんなこと許されんのか⁉ ――あー‼」


 再び沢又は赤西を一本背負いで投げ飛ばした。


「ちょっと沢又さん、いくらなんでも乱暴ですよ」

「いいんだよ。さぁて上地を恨んでる奴を教えてもらおうか? じゃなきゃ黒富士組に武器を売っている奴とか⁉ あの金はその為なんだろ⁉」

「知らねえって言ってんだろうが‼」

「まだ言うかぁ⁉」

「痛ででででで……‼」


 赤西の両耳を引っ張り、意地でも吐かせるぞ、的な姿勢を崩さない。

 それを見ていた武は思った。


(どっちが暴力団これ……?)


 コントのような光景に一瞬武は唖然としていた。

 ひとまず武は、暴れ動く沢又を必死に抑えているうちに、武の脳裏にあることが浮かび、そのまま赤西に顔を向けて言った。


「おいアンタ、早く本当の事言った方がいいぞ! この刑事、前に痴漢の顔ボコボコにしてゾンビにしちまったんだから!」

「いや! ゾンビより酷い顔にしてホラー映画に出してやらー‼」


 沢又も武の意図が掴めたのか、ノリで武の話を繋げて赤西を脅し始めた。


「止めてください沢又さん。制作会社が嫌がりますから!」

矢野やのだ‼」


 武と沢又の茶番を真に受けたのか、赤西が口を割った。


チャカはそいつが調達するんだ!」

「じゃあ、あの金は武器を買うための⁉」

「そうだ!」


 武と沢又は互いの顔を見合わせて頷いた。


「どこで取引をする?」


 武と沢又が同時に赤西に訊く。

 しかし赤西は惚けた顔でそっぽを向く。


「言えねぇな」

「こいつまた!」

「ダメですよ沢又さん、乱暴なことは……」


 武は、沢又の両肩を抑えると、赤西に近づき、満面の笑顔で丁寧に訊いた。


「どこか教えてくれませんか?」

「言えねぇっつってんだろ! 言ったら俺が消されるわクソ刑事デカ‼」


 武の中で何か、ブチッ、となった。

 その後、息を吸い込んで、そして――


「――とっとと言えよチンピラ‼ じゃないと、ゾンビじゃなくてスプラッター映画に出させるぞ⁉」


 さっきまでの笑顔が般若のように――もしかしたら角でも生えるのではと思ってしまうほど――変わり、周りの窓ガラスが割れてしまうのではと思うほどの声量で赤西を怒鳴りつけた。

 これに比べたら、さっきの沢又の声の方が小さかったようにも思える程だ。

 武の怒号を受けた赤西はというと、よほど効いたのか、さっきまでの威勢とは打って変わって半ベソをかいている始末。


「さぁ、何処か教えてくれるかな……?」


 そんなことをお構いなしと、武は赤西にぐいぐい迫りながら圧を掛け、赤西は「ひぃー‼」と、怯えていた。


「廃屋のボートマリーナです……」

「よーし、じゃ案内してくれる?」

「も、勿論です……」


 ワタワタしながら赤西が承諾。


「だそうです。沢又さん」


 武は沢又に向けて満足層に笑顔を見せた。

 それを見ていた沢又が心に思ったことがある。


「……どっちが暴力団だ、これ?」

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