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WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)  作者: 木村仁一
第6章 罠
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1話 塚元組の事務所

 日が傾き始めた頃。

 ビルが密集する白摩区の街中にあるビルの近くの駐車場に7台のセダン車が止まった。

 ビルの窓には「塚元興業」。

 そうここは塚元組の事務所だ。

 セダンからは県警の捜査一課イッカ組織犯罪対策部(マル暴)2班の刑事たちが降りる。

 その最後尾のセダンからは武が降りてきた。

 すると、ビルの階段を塚元組の組員が3人駆け下りてきた。


「おい、なんだお前ら⁉」


 組員の1人がそう怒鳴ると、マル暴の刑事の1人が警察手帳を見せる。


「警察だ!」

「け、警察⁉」

「塚元は居るな?」

「オヤジに何の用ですか?」

「聞きたいことがあるんだ!」


 刑事と組員の間に緊迫した空気が流れ、それを見ていた武も緊張が走った。


「どいてもらおうか?」


 刑事は強引に押しのけ階段を上がり、他の刑事たちもそれに続いて言った。


 さすが県警。


 武は組員を恐れない堂々とした態度の県警に感心した。

 事務所に入るやいなや組員の「なんだお前⁉」などの怒号がとんだが、刑事の1人が組員たちに印籠の如く警察手帳を見せつけ、無理やり組員たちをその場に止まらせた。

 出入口から神代に続き、鹿沼そして武が社長室と向かった。

 神代は社長室のドアをノックした。


「誰や?」

「警察だ!」


 神代はドスの利いた低い声で名乗る。

 それを聞いた武も仲間とはいえ神代の迫力に圧倒された。

 とはいえ相手は暴力団の組長。そう簡単には部屋に通すはずがない――


「――どうぞ~」


 ……あっさり招かれ、武も内心「ガクッ」と拍子抜けの声を上げた。

 神代がドアを開けると、塚元が組長の席に座り、その両脇には組員が2人立っている。

 その塚元と向い合う様に神代の横に鹿沼、その後ろに武が立っている。


「で、何の用や刑事はん?」


 神代は上地の写真を懐から取り出し塚元の机に置いた。


「この男を知っているな?」


 塚元は写真を手に取り写真を見た。


「ウチの上地や。あいつがどないしました?」

「今日の9時頃に殺された」

「なんやて?」


 塚元は眉を吊り上げ、神代を睨んだ。

 塚元の両脇に居る組員も少しだけ目を細めた。


「動機を知りたい?」

「はて?」


 首を傾げる塚元。

 それを見ていた武が何となくだが、塚元のリアクションが薄い様にも感じた。

 まるで知っていたかのように。


「おたくの人間が殺したんじゃないのかね?」


 神代も塚元の態度にやはり腑に落ちないものを感じたのか、思い切って訊いてみる。

 すると塚元はドン! と自分の足を机の上に叩きつけた。


「ウチのモンがられて、なんで疑われなあかんねん⁉」


 塚元が怒るのも無理はない。身内が殺されたのだから当然……と普通ならそうなるが、塚元組にとって都合の悪い情報を持っていたとなれば素直に塚元には同情できなかった。

 神代は更に続けた。


「おたくの上地を殺した凶器が、ある刑事を殺した物と同じものだったからだ!」


 塚元を疑う理由を答える。

 しかし塚元もそんなことでは動じない。


「そないなモンで、俺らを疑うんかい⁉」


 相変わらず惚けている。

 やはり決定的な証拠が無いとダメだ。


「それなら、何で上地は殺害されたんだ? それも分からないか?」

「さぁ……お前ら分かるぅ?」


 塚元が横に居る組員に訊くが、二人とも首を傾げて何も言わない。

 その態度が武にはふざけているようにも見えた。

 我慢の限界に来ていた武も少しだけカマを掛けてみることにした。


「上地はあんたらにとって困る情報を持っていた。だから殺したんじゃないのか⁉ うちの刑事を殺したようにな‼」


 すると塚元は立ち上がり武を睨む。


「何や小僧⁉」

「違うか⁉」

「よせ、大下……」


 鹿沼に制止され武は「すみません……」と言い、一礼した。

 それを見た鹿沼は、塚元に向き合った。


「じゃあ、誰が上地を殺した?」

「知るかぁ、それを調べんのも警察の仕事やないんかぁ? ――それと小僧? 俺を疑うんやったら令状持ってこい!」


 塚元は椅子に座ると武たちに背を向けた。

 武は舌打ちをし、神代はため息をついた。


「とにかく事情を聞きたい。白摩署まで来てもらおう」

「それ、任意同行ってヤツやろ? せやったら行かへん」

「何が『行かへん』だこの!」


 塚元の生意気な態度に武が再び食って掛かろうとして鹿沼に止められた。


「今日は引き上げよう」


 神代が武と鹿沼に向けて言ったあと、再び塚元へ向いた。


「いいか塚元。次に来るときは令状を持ってくるから、そのつもりでいたまえ」


 部屋を後にする神代に続いて鹿沼と武も出て行った。

 武と神代、鹿沼の三人が社長室を出ると、事務所内では県警の刑事たち――その中に居る松崎も――と組員たちが特に何もしゃべるわけでもなく睨み合っていた。


「引き上げるぞ」


 神代が言うと刑事たちは事務所を出て行った。



 事務所の階段を下りるマルボウの刑事。

 その最後には武と松崎が続いた。


「どうだった武?」

「組長さんが『令状持ってこい』だって生意気な……隆太は?」

「こっちも組員共が黙秘権なんてものをお使いになられてね。『俺らは何も話しません』って」

「なんなら口を溶接してやれば良かったのに」

「それじゃ、しゃべれないじゃん」

「少なくとも文句は言ってこないよ」

「そりゃそうだ……」


 などと冗談交じりに会話しながら駐車場へ向かった。

 武たちを含む刑事が覆面車の周りに集まると、その場で塚元組を監視するために配置を決め始めた。


「仕方がない。君たちは事務所を見張れ」

「了解」


 神代が県警刑事4人に命令を出した。


「残りは白摩署と組んで、上地の身辺を洗ってくれ」

「はい!」


 県警の刑事たちはそれぞれ鹿沼たちと話し合い、それぞれペアが決まっていった。

 

 さてと、俺は誰と……。


 武は周りを見渡すと、他の県警の刑事と話す飛馬の姿を発見。

 無表情ながらも、相手の刑事と仲が良さそうに話している。

 

 あいつは見つけたようだな。


 内心ホッとする武。

 その肩に、ポン、軽く叩かれ武はその方へ向いた。


「いいかな? ペアが居なくて」


 沢又だ。


「構いませんよ。よろしくお願いします」


 武が手を差し出し、沢又と軽く握手した。


「どうも。ホワイトウィッチの素顔を見た刑事なら上手く捜査が進む気がするよ」

「まぁ、偶然と言えば偶然なんですけどね、あの時は……何と言うか……その……」


 武は複雑そうな表情を浮かべ、視線を沢又から逸らした。

 本当は単独捜査で偶然出会えただけとなかなか言えなかった。

 さらに考えれば、自分のせいでレイの似顔絵が出回っている為、レイの活動が制限されていることが、武自身にとっても都合が悪い状況になっているという皮肉な状況に、自分の運の無さを呪いたくなるような気持ちだった。


「大下君どうした?」

「あっ、いえ何でもないです。ハハハ……」


 とりあえず武は笑って誤魔化すことにした。


「ところで沢又さん。どこから調べますか?」

「実は一つ心当たりがあってね。よかったら付いて来てくれるか?」

「了解です」


 武と沢又は覆面車に乗り込んだ。


 駐車場から離れたところに止まる、1台のSUV車が、武たちの様子を窺っているとも気づかずに。


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