10話 秘密 第4章END
葬儀場では谷の通夜が行われた。
普段はネクタイをしない武も今日はしっかり絞め、喪服をきちんと着ている。
通夜が終わり、武はホールにいる列席者に挨拶をしていた。殆どが警察関係者や谷の近所の住人、中には武の面識のない人が何人かいるが、話を聞くと生前谷にお世話になった人たちのようだ。
すると、ホールの中でベール付きの帽子を被る黒髪を後ろにまとめた女性を見つける。
「ちょっとすみません」
武は女性に近づき話しかけると、女性はピタッと立ち止まった。
「……黒髪だと本当に魔女みたい」
武は女性に聞こえる程の声で言うと、女性は武に振り返り、顔を見せた。
黒髪の影響か印象は違って見えるがホワイトウィッチに間違いない。
「大変なのよ。これ染めるの……」
武とホワイトウィッチは葬儀場の近くの小さな公園に移動した。
遊具などは無く、夜ということもあるが、ベンチに座る武とホワイトウィッチ以外誰も居ない。
明かりも寂しい街灯が一つある程度だ。
「気づかれてないのね。共犯のこと」
「ああ、あんたの作戦のお陰でね。あのままじゃ工場から後のことが言い訳できなかったよ」
〇
時間は遡りダークスピーダー内――
武は署から出た時の服装で助手席に座っている。
ダークスピーダーは遠隔操作で運転されているため誰も乗っていない。
『いい? ドアにできるだけ寄りかかって。それと他の刑事には指示した通りに話すのよ』
スピーカーからのホワイトウィッチの指示に従い、武はドアに体を寄り掛け、目を閉じた。気絶していることになっているからだ。
ショッピングモールが見える高台に着いた。
高台には既にパトカーが止まっており、その近くにダークスピーダーが停まった。
『開けるわよ?』
「……OK」
ダークスピーダーのドアが開き、武は外に転がる形で出るのだが、顔面から地面に着地してしまったため、顔に擦り傷を作ってしまう。
「…………思ったより痛てぇ」
ドアが閉まるとダークスピーダーだけ走り去った。
警官2人が横たわる武に近づき声を掛ける。
「大丈夫ですか⁉」
武はヨロヨロと――演技だが――立ち上がった。
「ああ、何とか……」
「ところであなたは?」
武は警察手帳を取り出し警官に見せる。
「信じられないと思うけど、刑事だ。ところでここは?」
「第三団地です。人が倒れていると通報がありまして……あなたは?」
「それが……かっこ悪い話なんだけど――」
武は埠頭での出来事や廃工場でのことを警官に話した。
勿論モールのことは内緒だ。
「ところで、人が倒れてる、って?」
「ええ……イタズラなら良かったんですが……」
警官はそう言って前尾の遺体に目を向けた。
武は横たわる遺体に近づいた。
前尾だと分かっているが……。
「前尾⁉」
「知り合いですか?」
「知り合いも何も、暴力団、黒富士組系前尾組の組長だよ!」
「なんですって⁉」
武は携帯電話を取り出し白摩署へ電話を掛けた。
『はい刑事課』
「トシさん? 俺だ」
これがことの顛末だった。
〇
「たまたま警官が見つけてくれたから、それらしくなったよ。あれも計算?」
「そう。予め呼んでおいたの。その方が変に疑われないと思って。まぁ、上手く行って良かった」
「なるほど……」
武はポケットからメモ書きを取り出し、ホワイトウィッチに渡した。
「いいか? 今度奴らを襲撃する時は、必ず俺に連絡しろ」
「本当にいいの? 谷さんは、あなたを巻き込みたくなかったみたいだけど」
「オヤッさんには悪いと思ってるけど、俺はオヤッさんを殺した犯人を野放しにはできない」
ホワイトウィッチはベンチから立ち上がると、スマフォを取り出しメモを見ながら番号を入力した。
すると武の携帯が鳴り、武は携帯を操作するとすぐにそれ仕舞った。
「1つ聞かせて。どうしてそこまでして谷さんを殺した犯人を自分で捕まえたいの?」
武はベンチから立ち上がる。
「それを言うなら、そっちはどうなんだ? 病気持ちで死ぬかもしれないのに、なぜ自分で奴らを手にかける?」
「病気?」
「あの注射。どこか悪いんだろ?」
「あなたには関係ないことよ……一応言っておくけど、私と本気で手を組むなら、半端な覚悟は許さないから……」
そう言ってホワイトウィッチは武に背を向け、闇夜に消えて行った。
「そのつもりだよ……」
武もホワイトウィッチの消えて行った方へ向けて言った。
こうして武の誰にも言えない秘密が誕生した。
第4章「ウィザード降臨」END