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WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)  作者: 木村仁一
第4章 ウィザード降臨
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8話 帰還

 ホワイトウィッチは落した注射器に手を伸ばすが、震える手で指先に触れてしまい、さらに注射器が転がり、離れて行ってしまう。

 息が荒くなるホワイトウィッチは最後の力を振り絞るように手を伸ばすと、タケルが注射器を拾い、ホワイトウィッチを仰向けにした。


「いくぞ」


 武はホワイトウィッチの首に注射器を当てると。注射器の青い液体が押し流される。注射器から「ピー」という確認音が鳴り、武はホワイトウィッチの首から注射器を離した。


「大丈夫か?」


 ホワイトウィッチは徐々に呼吸も安定し、表情も柔らかくなっていく。


「うまくいったようね……」


 弱々しい声でホワイトウィッチが言った。


「あぁ、あぶなかったっ‼ ――」

「え?」


 突然ホワイトウィッチの視界から武が消えた。

 狩谷かりやだ。

 目覚めた狩谷は武を捕まえ、地面に押し倒すと武の首を両手で絞める。絞めるというよりは握りつぶしそうな程の力だ。

 呼吸ができなくなり武の視界が真っ白へ変わる。

 バンッ!

 狩谷の頭が撃ち抜かれ、武の横に倒れた。

 武はむせながら起き上がると、ホワイトウィッチの方へ向いた。

 ホワイトウィッチは息を切らせながら、よろよろと拳銃(P99)を構えている。


「大丈夫?」

「『大丈夫?』だ⁉ どうして殺すんだ⁉」

「助けたんだから感謝してよ!」

「それは感謝するけどな、もしオヤッさん殺しのホシだったら⁉ もしかしたら前尾まえおをパクれたかも――忘れてた!」


 武はあたふたし始めた。爆弾を優先していたため前尾を追跡する術を考えていなかった。


「これを見て」


 ホワイトウィッチは、小型タブレットを取り出し武に見せる。画面にはレーダーディスプレイが映し出されており、円の左端が赤く点滅していた。

 実はオーナー室で前尾のポケットに小型発信機を入れていたのだ。


「良い周到だね……」


 ホワイトウィッチの手際の良さに武も感心した――刑事という自分の立場を忘れて。

 すると、ドンドンと何かを音が聞こえた。

 武とホワイトウィッチが音を辿ると、その先には部屋があった。

 ドアをゆっくり開けると、部屋にいたのは数人の警備員と、モールの関係者数人が両手を後ろでガムテープを巻かれており、口もガムテープでふさがれていた。中には負傷した者も居る。

 恐らく爆弾で一気に口封じを図ったのだろう。

 武が警備員の1人の口に張り付けられたガムテープを剥がした。


「大丈夫ですか?」

「はい……」


 武は続いて警備員の腕に巻かれたガムテープを剥がした。


「警察を呼んで。あと爆弾には絶対に触るなよ」

「分かりました……」


 警備員のガムテープを剥がし終えると、武はホワイトウィッチと一緒にその場を後にした。


 モールが見える高台――

 発信器の電波を辿ってレッドスピーダーに続いてダークスピーダーがこの高台へ到着、既に止まっていた高級車の近くに止まった。

 それぞれの車からホワイトウィッチと武が手に拳銃を持ちながら降りて、高級車へ近づくと、目に飛び込んできたのは、高級車の近くに横たわる一体の死体。額を撃ち抜かれ横たわる前尾だ。


「くそっ‼ ここまで来て‼」


 武は前尾の死体を見るなり地面を思い切り蹴った。


「これが奴らのやり方よ……ところであなた」

「なんだよ⁉」

「戻る方法考えてる?」

「普通に帰ればいいだろ……?」

「あなた馬鹿? そのまま帰ればあなたは捕まるじゃない! モールの中は変装しているから大丈夫だと思うけど、埠頭のことはどう説明するつもり?」

「あ……」


 モール内での武は正体を隠してホワイトウィッチと行動しているため、ある程度は誤魔化せるだろう。

 しかし白摩埠頭では、前尾組の人間は勿論、埠頭の警備員にホワイトウィッチと一緒に逃げるところまでも見られている。

 そうなるとホワイトウィッチと共謀したことになり刑事をクビに。


「どうするかな……?」

「私に考えがあるけど?」


 ノープランの武にホワイトウィッチが助言し、武はそれを承諾した。


                〇


 白摩署・刑事部屋――

 電話が鳴ると、宿直だった鹿沼かぬまが電話に出た。


「はい刑事課」

『トシさん? 俺だ』

「……大下!」


 電話の相手は武だ。


「お前何処にいるんだ⁉」

『モール白摩付近の第三団地の高台。それよりトシさん聞いてくれ……前尾が死体で見つかった……』

「前尾って前尾組のか?」

『そう!』

「……なにっ⁉」


                 〇


 モールが見える高台――

 覆面車が数台止まり、それぞれ鹿沼、松崎まつざき安藤あんどう菅原すがわらが降りると、顔に擦り傷をつけた武に駆け寄る。

 すでに武は変装を解いており、署から出た時と同じ格好になっていた。

 更に武の近くには警官が2人立っている。


「本当なのか前尾が死んでいるって⁉」


 鹿沼の質問に武が横たわる前尾を親指で指差した。


「額に一発。ほぼ即死だよ……」

「それよりどうしてここに?」

「それがな、隆太……情けない話なんだけど、気がついた時にはここに居た」


 すると今度は1台の覆面車が止まった。降りてきたのは宮元だ。


「大下‼ お前ってやつは……」


 宮元は降りるとすぐに武を睨みつけ憤怒を露わにした。


「本当にすみません‼ ただ……」

「その話は後だ。それで、何があった?」

「ホワイトウィッチを見つけたんですが、前尾組の連中に攻撃されて、廃工場まで一緒に逃げたんです。でも気絶させられて、気づいたらここに……」


 武はそう言って自分の後頭部をなでた。


「……。それで君達は?」


 宮元は武の近くにいた警官2人に訊いた。


「はい。この辺りで人が倒れていると通報がありまして」


 警官の話はこうだ。

 通報を受けて、この高台の団地へ来ると、高級車の近くで横たわる前尾の死体を発見。

その直後に1台の黒いクーペ(ダークスピーダー)がパトカー後部から少し離れた場所に停まり、クーペの助手席のドアが開くと、武が外へ転がり落ちると、そのまま走り去って行った、と言うことだ。


「ドライバーの顔は見なかったか?」

「スモークガラスで、中までは……」

「ちなみに俺をここに放置した車種は分かりますか?」


 武の質問に警官が答える。


「暗くてはっきりとは分からないんですけど、恐らくデロリアンだと思います」

「デロリアンってあのガルウィングの?」


 武が右手でガルウィングドアのようなジェスチャーをした。


「はい、そうです。あなたが車の右側から出てきたので、恐らくあの車は左ハンドルで間違いないと思いますから」

「そうですか。どうも」


 武は2人の警官に軽く頭を下げた。


「一体前尾はここで何を?」

「そりゃモールの爆破を見物してたんでしょ」

「え?」


 鹿沼の疑問にうっかり武が答えてしまい、ヤバイ、と武身震いした。


(マズい‼)


 周りの視線が武に集中する。


「何だ、モールの爆破って?」


 宮元が武に圧を掛けるように言う。


「あ、えーと……言ってたんですよ……」

「誰が……?」

「ホワイトウィッチですよ……ほら、密輸の話をしたら……前尾が密輸したのは爆薬だったらしくて、それで……モールの爆破計画を聞いたんです」

「なるほど」


(あぶねぇ……)


 何とか話が繋がりホッとした武。

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