5話 強敵
オーナー室――
前尾のパソコン画面に映し出されたカメラ映像には横たわる組員の姿が映し出されている。
「一体どうなっている⁉」
前尾は両手でキーボードを叩いた。
すると、今までパソコン画面に映し出されていた監視カメラの映像が「OFF-LINE」と表示され真っ黒に。
前尾は直感した。
「おい、奴が来るぞ!」
ドアの近くに居た組員2人がドアに向け銃を構える。
前尾もジッとドアを睨みつけた。
すると突然、2発の銃声と共に組員2人の銃が弾き飛んだ。
前尾が背後にあるガラス壁の方へ振り返ると、ガラス壁には穴が2つ、その向こうには武の姿があった。グラッピングフックガンのワイヤーを天井へ伸ばし、ぶら下がる形で。
武に気を取られている前尾と組員2人。その隙にホワイトウィッチがドアを開けて中に入り、同時に組員2人を拳銃で撃ち殺した。
生かしておいた甲斐もなく。
武は勢いをつけてガラス壁を蹴破り、拳銃を向けながら前尾の左横へ着地した。
ホワイトウィッチは直ちに前尾の右横に立った。
「もう終わりよ」
ホワイトウィッチは拳銃を前尾に突きつけながら言った。
「ちょっと待てよ、こいつには吐いてもらうことがいっぱいあるんだ」
「じゃあ、早く済ませてくれる? 無駄だと思うけど」
「おまえなぁ……」
前尾に向き直した。
「昨日、あんたの幹部が護送された時に白摩署の刑事が殺された……犯人は誰だ?」
「知らないですね。私は一切関係ないですから……それに刑事1人が死んだところであなたに何の関係が?」
「あるから訊いてんだよ。吐かないと……」
「いいでしょう。撃ってください。貴方にそんな度胸が――」
バンッ!
「ひぃ!」
武の放った弾は机に置かれていた前尾の左手の近くに被弾し、前尾が咄嗟に手を引っ込めた。
「それさっきも聞いたから! 次は本気で当てるぞ!」
「ああ殺ってください!」
(木崎みたいにはいかないか……)
その根性はさすが暴力団の組長と内心感心してしまうが、それよりも早く前尾を落としたい理由が武にあった。
それは――
「だから無駄だって、言ったでしょ」
そう、ホワイトウィッチが今にも前尾を撃ち殺そうとしているからだ。
「おいっ!」
武はホワイトウィッチと前尾の間に割って入った。
「お前な! 話はまだ終わってないぞ!」
「いい加減にして! こんな奴らが正直に話すはずないじゃない!」
「だからってすぐに殺そうと――」
「ちょっと‼」
ホワイトウィッチが前尾に拳銃を向けた。武と口論する最中に前尾がノートパソコンにキーを入力していたのだ。
「待てっ‼」
武が咄嗟にホワイトウィッチの拳銃を前尾から逸らした。
その時にホワイトウィッチの拳銃が暴発。ノートパソコンのキーボードに被弾した。
そして、前尾は割れたガラス壁へ走り、下へ飛び降りた。
「逃げられちゃったじゃない!」
「追えばいいだろ!」
そう言って立ち上がった武は割れたガラス壁に近寄った。
「ヤベッ!」
武は突然ガラス壁の前で倒れるような形で床に伏せた。
すると、下から武に向かって銃弾が飛んで来た。組員達が銃撃してきたのだ。
武は転がりながらガラス壁から離れていった。
「ちょっとこれ見て‼」
叫ぶようなホワイトウィッチの声に武はパソコンを見るホワイトウィッチに駆け寄る。
「なんだよ⁉」
「タイマーが!」
武がノートパソコンの画面を覗くと、爆弾のタイマーが作動しており「9:44」からカウントがどんどん減っている。
「解除できないか⁉」
ホワイトウィッチがノートパソコンのキーボードをいじるが、全く応答はない。
「ダメよ、直接解除するしかないわ!」
「場所は?」
幸い画面には、爆弾の位置を示す赤い点滅が表示されていた。
「ここは……1階の倉庫」
「よし! それじゃ――」
武が言いかけた時、オーナー室のドアが開いた。
ドアを潜って来たのは、鉄仮面に全身にボディーアーマーを着けた組員だ。一見するとアイスホッケーの選手のような見た目だが、決定的に違うのはその手にはポンプアクションのショットガンが握られていることだ。
武とホワイトウィッチは咄嗟に机の陰に隠れた。
すると、大砲のような轟音と共に机の上に置かれていたパソコンが吹っ飛んだ。アーマーを着た組員のショットガンは次々火を噴くたびに机の原型を失っていく。
ホワイトウィッチは机の陰からアーマーの組員に向けて拳銃の銃弾を放つ。狙いはアーマーの組員の頭だ。
そして銃弾は狙い通り頭に命中した。
しかし、鈍い金属音と共に銃弾は床に転がった。鉄仮面に阻まれたのだ――当たった相手は少し痛そうだが……。
ホワイトウィッチは狙いを変え、胴体に向けて銃弾を放つが、やはりアーマーに銃弾は阻まれてしまう。
そう前尾の切り札の1つが、このアーマーだった。
仕方なくホワイトウィッチは再び机の陰に隠れた。
「完全に武器を知られてるな……」
「じゃあ、あなたが何とかしなさいよ!」
さすがのホワイトウィッチもいつもより強めの口調で言った。同じく追い詰められているはずなのに余裕を見せる武にイラッとしたのだろう。
「やってみよう」
武は気楽そうに言って机の陰から顔を出して様子を窺う。
変わらずアーマーを着けた組員のショットガンが容赦なく火を噴き、武も顔を再び机の陰に引っ込めた。
よく見るとアーマーを着けた組員の後ろに3人の組員が続いているようだ。
武は自分の右脇のホルスターからもう1挺の拳銃を取り出した。武のホルスターは両脇に1挺ずつ入れられるダブルタイプのホルスターだった。つまり2挺拳銃である。
そして武は机の陰から横へスライディングする形で飛び出ると、両手に握るファイブセブンの銃弾を同時に放った。銃弾はそれぞれアーマーの組員の両足へ飛んで行く。
さっきのホワイトウィッチのP99の銃弾を弾いたアーマーを着ているだけあって組員も余裕がある。
すると、武が放った銃弾が両足のアーマーに被弾、そこから出血しアーマーの組員は膝をついた。弾が貫通したのだ。
「うわっ‼ バカな……」
右へ左へとのたうち回るアーマーの組員。
武のファイブセブンは拳銃弾を防ぐ程度のアーマーなら撃ち抜ける程の貫通力を持っている。
武が立ち上がると、アーマーの組員の後ろにいた組員3人が武に向けて拳銃を撃った。
容赦なく武へ飛んで行く銃弾だが、勿論武に通用するはずがない。武は能力を発動し、飛んでくる銃弾をアクロバティックな動きで避けると同時に銃弾を放つ、それを繰り返した。
弾は組員の足や肩に当たり床に倒れた。それぞれ撃たれた場所を手で押さえ悶えている。
当然武は無傷だ。
「2挺はオーバーだったかな?」
ホワイトウィッチが机の陰から立ち上がった。その目は点になっている。
「何回見てもすごいわね。どうやったら、そんなことできるの?」
「さぁね? 親父の遺伝で銃を持って的に集中するとできるんだ。でも1日1分位しか使えない」
「それ以上使ったらどうなるの?」
「孫悟空の気持ちが分かるくらいの酷い頭痛に襲われる……」
「あぁ……」
サングラスとネックウォーマーで武の表情は分からないが、どんよりとしたような声と例えを聞いて何となくだが辛さを理解した。思い返せば襲撃現場で急に武が苦しみだしたのもそのせいだろう、と。




