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WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)  作者: 木村仁一
第4章 ウィザード降臨
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1話 覚悟

 時間は遡り、町はずれの廃工場――

 タケルは今、谷の捜査を単独で行うかどうか以来の迷いに陥っていた。

 前尾がテロともいえる計画によって大勢の人が死ぬことを知るも、応援を呼んでも相手にしてもらえない可能性がある。

 目の前にいるホワイトウィッチを見逃せば、それを阻止できるかもしれない。

 しかしそれは本当に正しいことなのだろうか。

 自分はいったい何をすべきなのか分からない。


「谷さんの仇は必ず取るわ。貴方はこれ以上関わらないで」


 そう言ってホワイトウィッチはドアに手を掛け、ドアを閉めようとした。


(ダメだ‼)


 武は車の閉まるドアを抑えた。


「なによ。人の命より逮捕が大事なの!?」


 ホワイトウィッチが言うのも当然だ。人命が脅かされているのに自分事を優先するのは、あまりにも人間性を疑う行動だ。

 しかし、武の真意は違う。

 

「俺も連れていけ!」

「えぇ?」


 ホワイトウィッチは普段の印象からは似合わないような間抜けな声を上げた。


「俺も行く、犯罪者に手を貸すのはアレだけど、このまま泣き寝入りするくらいなら、何でもする‼」

「あなた、前尾を捕まえたからって、谷さんを殺した犯人にたどり着くとは限らないわよ。それにあんな奴ら生かしても……」


 確かに正論だ。前尾を抑えたとしても谷を殺した犯人にたどり着くという保証は全くない。

 それでも、このまま何もしないことに納得できないのも事実だ。


「お前が、奴らを恨んでいるのは知ってる。だけどな、俺はそれ以上にオヤッさんを殺した犯人ホシ逮捕パクりたいんだよ!」

「迷惑よ。悪いけど諦めて」

「警察の情報だって欲しいだろ、オヤッさんが死んだ今、俺しかお前に情報を流せる奴はいないぞ!」

「……」


 ホワイトウィッチが黙った。どうやら図星のようだ。


「……少し時間をちょうだい?」


 ホワイトウィッチはインカムに手を当て連絡を入れた。


「ジイ、例の物をお願い」

『かしこまりました』


(仲間居たんだ……)


 普通に考えれば分かることだ。この車といい、装備といい、とても1人で作れるとは思えない。他にも仲間がいるのが当然だろう。

 あの時ホワイトウィッチが孤独だと考えた自分の無能さに愛想が尽きる思いだ。


「とりあえず、作戦を話すからよく聞いて?」


 武は渋々だが頷いた。犯罪者の指示に従うなど刑事としては勿論だが、人間としても言語道断な行為だ。

 しかし今はそれしかできない。とにかく今は少しでも谷を殺した犯人に近づけるなら何でもする、と自分を誤魔化した。

 ホワイトウィッチは小型タブレットにモールのフロアガイドを映し、武に見せ説明を始める。

 作戦はこうだ。


「いい? しばらくは私とレッドスピーダーで奴らを片付けるから、私が合図するまで絶対にモールの中には入らないで」

「それはいいけど……ところでレッドスピーダーって?」

「この車」


(個体名があったのね……)


 ホワイトウィッチの愛車の名前についていたことはこの際置いておく。

 まず、無人のレッドスピーダーをモール内に入れ、敵の気を引きつけた後にホワイトウィッチが百貨店から潜入、組員を徐々に蹴散らし、前尾を抑える作戦だ。


「ところで、前尾はどうやって見つけるんだ?」


 武が尋ねた。

 前尾を抑えなければ爆弾のスイッチが入れられ全て終わりだ。


「簡単よ。奴らの無線機を見つけて周波数を割り出せば、前尾の居場所が分かるし、他にも組員の口を割らせればいいだけ。でも前尾の性格を考えれば恐らく――」


 タブレットの画面をタップし。3階の中央、ガイドには何も名称が掛かれていない、あるところを拡大した。


「――ここよ。オーナーのプライベートルーム。ここからならモールの監視カメラにもアクセスできるみたいだし、管理室よりも、ここの方が居心地いいから」

「監視カメラは分かるけど居心地がいいって、どういう理由わけ?」


 確かに管理室よりはオーナーのプライベートルームの方が居心地は良いだろう。しかし決定付ける理由としては信憑性がなさ過ぎる。

 理解できず難しい顔の武を察したのか、ホワイトウィッチは説明した。


()()()()()ってさっき言ったでしょ。あの男コンピューターヲタクのくせに機械がごちゃごちゃしたところは嫌いなんですって」

「ワガママな子供かよ……」

「大体暴力団の組長ってそういう奴らでしょ?」


 どういう解釈だよ、と突っ込みたかったが武も暴力団に詳しいわけではないので何も言わなかった。

 それでも多分、前尾みたいな人間が組長をしているのは黒富士組だけだろうとも思った。そもそもすべての暴力団がそんな奴らばかりなら、色んな意味で日本は終わっている。

 それよりも武が知りたいのは、自分が何をすればいいのかだ。話を聞く限りではこの作戦に武の必要性はない。


「ところで俺は何をやるの?」


 武がそう言うとホワイトウィッチはしばらく黙り込むとその重い口を開いた。


「恐らく私の作戦は読まれてる気がするの……」


 その言葉から普段の彼女のイメージとは違い、少々弱気を感じた。

 埠頭では前尾組の連中はホワイトウィッチが次に起こす行動を先読みしているように的確に動いていた。

 難を逃れることができたのは、想定外の武という存在があったからだ。

 つまり武はあくまで()()()だ。


「分かった。でもできれば殺さないでくれよ、いくら連中でも」


 やはり殺しを見過ごすことはできない。刑事としても人間としても、武はホワイトウィッチに殺しはやらないように呼びかけようとした。

 しかし……。


「あなた、これはるかられるかよ。刑事なのは分かるけど」

「そういうじゃない。これ以上殺しを続けても憎しみの連鎖が続くだけだっていいたいんだよ」

 

 ホワイトウィッチは武を睨みつけた。「この偽善者」と言うように。

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