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WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)  作者: 木村仁一
第3章 接触
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14話 切り札 第3章END

木崎きざきはお茶の専門店――伊坂園のカウンターからホワイトウィッチが隠れている百貨店の柱にサブマシンガン・UZIを構えていた。

 いつ柱の陰からホワイトウィッチが現れるか、もしかしたら飛び出して撃ち返してくるか爆弾でも使うかもしれない、という不安からだろうか脇の下は冷や汗で濡れている。

 ホワイトウィッチが出て来るまでその場を動くな、としか言われていないが、いつ出て来るかが分からないからこそ余計に怖い。

 きざきの近くにいる2人の組員も同じ気持ちなのか、表情は硬かった。


『無駄ですよ。あなたの行動は全てお見通しです。大人しく降参するか、殺されるか、どのみち今日があなたの最期です』


 スピーカーから聞こえる前尾の声。勝利を確信しているのだろう自信にあふれているのは聞いて分かる。

 しかし、目の前に敵がいる木崎たちにそんな余裕はない。プログラムの予想では、これでホワイトウィッチは詰みとなるはず、1秒でも早くこの緊張から解放されたい、という思いからUZIを持つ手にも自然と力が入った。

 あとは柱の陰からホワイトウィッチが姿を現したところで銃撃すれば――

 

「これでもお見通しかしら?」

 

 ホワイトウィッチの声が聞こえた。その後もひそひそと何かを言っていたようだが、木崎が聞き取ることはできなかった。当然だが、ホワイトウィッチが言ったことは、前尾には届いていない。

 恐らくプログラムが予想した通り、無人車を入れて陽動を行うつもりなのだろうか。

 専門店に隠れてからメインコートの入り口に車が来た気配は全くない。プログラムの予想が外れたのだろう、と木崎が考えた。

 その時だ。

 

 ドーン‼

 

 突然、ガラス張りのメインコートの入口が爆発。爆炎はあまり上がらなかったが、それでも飛び散った扉の枠やガラス片が容赦なく木崎たちを襲った。

 木崎たちはそれぞれ腕で顔をガードしたり、しゃがんで頭を抑えたりする姿勢を取った。

 すると、車のエンジン音が木崎たちの耳に入った。ホワイトウィッチの車とは全く違う爆音だ。

 その爆音につられて木崎たちは爆破された入口へ顔を向けると、突然外から光が差し込み、木崎たちを照らした。


「まさか!?」


 光の正体は車のヘッドライトで間違いない。だがさっきまであそこに車は無かった。むしろこの爆音なら気づくはずだ。勿論専門店に隠れている間、こんな爆音はこの時まで聞いていない。

 ならどこから現れたのか。

 その答えを導き出す前に、爆音をあげる車が爆破されたメインコートの入り口を潜り、メインコートの中へ入ると、木崎たちから見て右へ横滑りする形で停車した。

 すると、フロントバンパーの本来ウインカーランプがある場所から突き出た赤い頭のロケット弾が引っ込み、さらにロケット弾を覆い隠すようにオレンジ色のウインカーランプが内側から外側へスライドした。

 車は少々クラシックな2ドアのクーペタイプ。木崎は車に詳しくないため分からないが恐らく外車だろう。

 車高も低く、ボディの色は漆黒という言葉が相応しいほどメタリックな黒で統一されている。窓ガラスは全てスモークガラスになっており、車内の様子は窺えなかった。

 ただしそれだけだ。クーペから誰かが降りる様子がない。

 やはりプログラムの予想通り無人車だったのだろうか。


「お前ら動くな。これは陽動だ!」


 木崎の言葉に組員2人はその場を動かずホワイトウィッチが隠れる柱に全神経を集中した。

 木崎は監視カメラで見ているはずだが、念のため無線で前尾に連絡を入れた。


前尾オヤジ。なんか車が現れたんですけど、これが例のアレですか?」


 前尾の返事はない。恐らく今の状況を確認しているのだろう。しばらくしてから木崎の無線から前尾の声が聞こえた。


『ああ、間違いない。無視して構わないぞ』


 やはり陽動か。

 予定外の相手がいたとはいえ、あんなプロクラム頼る前尾は馬鹿だと言いたかったが、確かにプログラムの予想は驚くほど的中している。

 ただ、あの車がメインコートの入り口まで誰にも気づかれなかった方法が分からないことが唯一の引っかかりだ。

 そこへ。


「どうしました木崎さん?」


 中央出入口でホワイトウィッチの車を攻撃することになっていた2人組が現れた。


「お前ら良いところに来た。女があの柱に隠れている。連れてこい」

「分かりました」


 2人揃って木崎に返事を返すと、百貨店のエントランスのへ足を向けた。

 すると――


「ん、何の音だ?」


 ウィーン、という機械音が木崎の耳に入った。その音は4秒程で消えたが、一体何の音なのだろうか。

 音が聞こえた方へ木崎は目を向けると、そこにはクーペが変わらず停まっている。        

 ただ1つだけ、さっきと違うのは、運転席のドアが、開いていることだ。

 クーペのドアはガルウィングと呼ばれるドアが上へ向けて開くユニークなデザインになっている。まさにスーパーカーの印象のそれだ。

 そして運転席から人が降りてきた。体系から恐らく男だろう。

 レンズが目の横まで覆う、まるでゴーグルのような黒のサングラスと鼻の頭が隠れる程の太いネックウォーマーで顔を隠し、ロングコートにTシャツまで黒で統一された格好をしている。

 無人だと言われたクーペに人が乗っていたのだ。


「オヤジ、車から男が降りてきましたが……」

『オトコォ?』


 前尾の間の抜けた声が無線から聞こえた。

 当然だ。プログラムの予想では無人と言われていた車から人が現れたのだから。


『構わん撃ち殺せ!』

「了解」


 木崎は男へ向けUZIを構えると、男は一度クーペの中へ戻った。

 容赦なく木崎はクーペに向けて銃弾を放つ。

 そしてそれが全くの無意味なこと理解した。

 クーペのボディもガラスも銃弾によるダメージを受けている様子はない。弾かれた銃弾は虚しく床に転がる始末だ。

 クーペは完全な防弾車だった。

 UZIの弾が切れ、マガジンを取り替えようとしたが、既に弾は使い果たしてしまった。

 それを察したのか、再び男がクーペから降りる。


「おい、突っ立ってねぇで撃て‼」

「い、いや俺たち人を撃つなんて――」

「――れ‼」

「は、はい‼」


 木崎が2人組に向けて怒鳴ると、2人組が男に向けて銃を構えた。


「すみません‼」


 情けない……。


 撃つ前に謝るなんてギャグマンガでも見ないぞ、と木崎は内心呆れてしまう。

 そして2人組が一斉に男に向けて銃を構えると、2発銃声がメインコートに響き渡った。銃声の出所は男の持っていた拳銃からだ。

 すると、地面に2人組がそれぞれ掛けていた眼鏡が落ちたあと、二人も床に倒れた……というより、尻餅を着いたが正しい。

 男に撃たれたのだろうか。


「……」


 何かが変だ。

 男に撃たれたはずの2人組に負傷した様子はない、なのに2人は尻餅を着いた状態から石像のように固まって動かないのは何故だ。

 すると――


「うぇーあああー‼」


 何かのスイッチが入ったのだろうか、聞いたこともないような悲鳴を上げて2人組はその場から逃げる。途中、視力が弱いせいか、よほど慌てていたのか、互いがぶつかり、地面に転んだが、すぐに立ち上がってその場を去った。その後ろ姿はまるで怪物か凶悪な殺人鬼から逃げるように必死だ。

 あそこまで必死に逃げる理由は木崎には分からなかったが、床に落ちが眼鏡の残骸に目を向けたことによって――恐らくだが――理解した。

 眼鏡は2つとも、テンプル(耳にかける部分)と、リム(レンズを保持する部分)をネジで繋ぐヨロイの部分が破壊されていたのだ。

 非常に小さい部分を正確に撃ち抜くという、まさに神業と言ってもいいほどの腕。

 真意は分からないが、それが「その気になれば殺せるぞ」という男の警告と悟ったなら、悲鳴を上げて逃げ出したことも理解できる。あるいはただビビって逃げただけか……。


「使えねぇな!」


 木崎は2人組が落とした拳銃を拾い男に向けた。


「よしなよ」

「うるせぇ!」


 警告する男に向けて木崎は銃弾を放った。銃弾は真っすぐに男へ飛んで行く。


「どこ撃ってんだよオッサン?」


 男に銃弾が当たることはなかった。

 改造拳銃でしかも簡易で作ったサイレンサーを付きだったため命中精度が悪いのだろうか。

 その後も銃弾を放ちそれは間違いだったと理解した。外したのではない、当たらないのだ。現実ではありえない動きで男は銃弾を避けている。


「どうなってんだ⁉」


 やがて拳銃も弾が切れた。

 焦った木崎は、サブマシンガン・イングラムを持つ組員を呼び出そうと男を背にした。


「おい、お前らっ――」

「お休みっ!」


 その隙に男が木崎を銃のグリップで殴り、それを遮った。

 それでも木崎の声を聞いた組員2人が事態を察し、男に向けてイングラムを構え――


 バン! バン!


 ――それよりも早く男の銃が火を噴き組員のイングラムが弾き飛んだ。その衝撃で手を抑える組員2人。

 男は得意げに――サングラスとネックウォーマーで表情は見えないが――笑うと、耳に付けたインカムに手を添え言った。


「クリアだ」


                            第3章「接触」END

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