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WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)  作者: 木村仁一
第3章 接触
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9話 報告

 木崎きざきからの連絡を待つ前尾まえお

 すると、前尾の電話が鳴った。


「はい」

『すみません前尾さん――』


 電話の相手は埠頭の守衛からだ。

 大きな音がしたので確認のための電話してきたのだ。


『――なんか凄い音が鳴っていますけど、例のやつですか?』

「ええ、そうです。かなり大きな音でしょう? ハリウッドでも使われる特殊効果によるものなんですよ。あとプロップガンという映画で使う銃のテストをするので、またうるさくなります」

『そうですか。それと赤い車がそっちへ行きましたが、お知合いですか?』


 すると、前尾の耳に轟音が入った。恐らくホワイトウィッチの車からフォークリフトのコンテナへ向けて放たれたロケット弾の音だろう。


「それは知りません」

『分かりました』


 前尾は電話を切った。

 誤魔化しているとはいえ、あれだけ派手に――前尾もホワイトウィッチが車で現れることは予想外だが――爆発音が響いても、「映画の機材」ということで真かに通ってしまうことに、守衛のアホさが窺える。

 それよりも――


 まずい。警察が来る。早くホワイトウィッチとあの刑事を始末して、この場を離れなければ……


 前尾は木崎の連絡を待った。

 しばらくすると、けたたましい銃声が聞こえくる。

 こっちもプログラムの予想通り、組員が銃撃しているに違いない。あとは木崎がとどめをさすだけだ。

 だが、しばらくして前尾の耳に入って来たのは爆発音。木崎のロケットランチャーによるものだろうかと考えたが、続いて耳に入って来たのは轟音だ。

 しかもその音は大きく、まるでエンジンが唸りを上げているようにも聞こえた。

 そして次に聞こえたのはタイヤのスリップする音。これもハッキリと前尾の耳に届いた。


 ホワイトウィッチの最後の抵抗なのか?


 そんなことを考えていると、乾いた音と、その直後に猛烈な爆発音が響いた。

 これは間違いなく木崎の放ったロケット弾の音だろう。

 ホワイトウィッチの最期だと確信し、満足そうに笑みを浮かべた。

 あとは無線から木崎が「終わりました」という連絡を受けるだけだ。今か今かと内心有頂天待っていると、無線の呼び出し音が鳴った。


 来た!


 前尾は無線機と手に取った。


「作戦は上手くいったみたいですね」

『いいえ、()()()()()‼』

「そうか」


 外しました‼


 前尾は耳を疑った。

 そして聞こえるはずのないホワイトウィッチの車の爆音が続けて耳に入ってきた。


「何、外した⁉」


 前尾が声を上げた。怒りと同時に驚きも合わせてだ。


『すみません、しかし――』

「――言い訳するな、いいか絶対に逃がすな‼」


 本来聞かされるはずだった報告と全く違う、本当ならここでホワイトウィッチは詰んだはずだ。

 怒りによって無線を握る手に自然と力が入る。無線機が潰れるのではと思う程だ。


「アイツを使うんじゃなかった‼」


 完璧なプランだったはずなのに、と前尾は木崎を恨んだ。

 それと同時に前尾にはどうしても腑に落ちないものがある。


「あの場をどうやって切り抜けたんだ?」


                   〇


 時間は遡る――

 木崎がロケットランチャーを組み立てていると、ホワイトウィッチの車の助手席から何かが投げられ、そして猛スピードでバックして行った。

 投げられた物が転がる場所へ目をむけるとそこには、陥没した地面にある黒いコーラのアルミ缶サイズの何か。

 ホワイトウィッチの車猛スピードでバックしたことを考え木崎は直感した。


「爆弾だ!」


 木崎の声に銃撃していた他の組員たちもそれぞれセダンの車内へ身を隠した。

 そして爆弾が爆発し埃を上げた。

 それなりに離れているとはいえ、凄まじい音だ。

 よろよろとサンルーフから顔を出す木崎。

 爆発で地面に穴が開いているが、幸い被害は無いようだ。

 しかし、あんなところを何故爆破したのだろうか。

 そんなことを考えていると、ホワイトウィッチの車から突然けたたましい爆音と共に、後部から凄まじい白煙を吹かし始めた。

 そのエンジンを吹かす爆音は、まるで猛獣が雄叫びを上げているかようだ。

 だが何故、エンジンを吹かしているのか。

 状況が理解できないまま、木崎はロケットランチャーをホワイトウィッチの車に向けた。

 すると今度は、ホワイトウィッチの車の後輪がスリップし、そこからも白煙が上がった。吹かしている強力なエンジンと突然ギアが繋がれば、タイヤはそうなるだろう。

 ホワイトウィッチの車は急加速してこちらに向かって来る。

 木崎はロケットランチャーを、迫るホワイトウィッチの車に狙いを定め、発射ボタンを押した。

 やがてホワイトウィッチの車が木っ端微塵に吹っ飛ぶ。木崎を含む組員、誰もがそう思っていただろう。

 いや、それ以外に考えられなかった。


 なのに。

 

 今の目の前の光景がそれをすべて否定したのだ。

 木崎がロケットランチャーの発射ボタンを押したと同時にホワイトウィッチの車の助手席側が急に跳ね上がり、片輪走行を始めたのだ。

 それによって本来命中したはずのロケット弾はホワイトウィッチの車を通り過ぎ、その後ろの大型フォークリフトが抱えていたコンテナに着弾。轟音と同時に爆風が周りを駆け抜けた。

 爆弾を使って溝を深くしたのは、タイヤを跳ね上げるためだったのだ。

 絶妙なバランスを取りながらセダンたちの間をすり抜けたホワイトウィッチの車は、通常の走行に戻ると、中央ゲートへ向かっていった。

 すぐに次弾を装填すればいいと考えるだろうが、木崎のロケットランチャーは1発きりの使い捨てだ。しかも予備は用意されていない。

 最悪の誤算だ。

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