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WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)  作者: 木村仁一
第3章 接触
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5話 再会

 たけるもコンテナの陰から荷台のタンクを見ていた。

 中身までは皆目かいもく見当がつかなかったが、何か危険な物には間違いないだろう。

 応援を呼ぼうと携帯電話が仕舞ってあるポケットへ手を入れ――


 ……!


 ――武は後頭部に何かがあてられた感覚を覚えた。冷たくて硬い物。


(しまった‼)


 ゆっくり振り返ると、そこには武に拳銃を向ける組員が立っていた。

 最悪なことに武は丸腰だ。このままでは前尾の下に連れていかれるか、その場で撃たれる以外にない。武はそう思った。

 

 ……。


「……んっ?」


 武は思わず間が抜けたような声を上げた。

 それもそのはずだ。銃を突きつけた組員は、武を前尾まえおの下へ突き出すことも、銃を撃つこともしない。

 状況が分からず武が固まっていると、突然組員は銃を向けた状態から、まるで人形のように武に向かって倒れた。

 組員を避けると、その背中には金属の杭が刺さっている。

 今まで組員がいた方へ目を向けると、そこには右手に発射銃を握る女。

 

 ホワイトウィッチだ。


 彼女は無言のまま、武に背を向けて立ち去ろうとした。特に何かをする様子はないようだ。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 訊きたいことがあるんだ!」


 武はホワイトウィッチを呼び止めた。


「どっか行って」

「頼む、行かないでくれ! オヤッさんのことで、どうしても訊きたいんだ!」

「だから、私は殺してない」

「分かってる。俺が訊きたいのは――」


 武が本題を話そうとした時だ。巡回していた組員の1人が武とホワイトウィッチに気づいた。


「おい!」


 組員が拳銃を出すが、先にホワイトウィッチが発射銃で組員に杭を飛ばした。

 すると組員の悲鳴が響き渡った。


「見つかったじゃない!」

「俺のせい? あいつったの、アンタで――」


 言い切る前に大勢の足音がこっちに向かって来ることに気づき、ホワイトウィッチは先にその場から離れようとして走りだした。


「待てよ!」


 武はホワイトウィッチについて行こうとしたのだが。


「動くな!」


 組員の一言に武は足を止めた。振り返ると、既に拳銃を持った組員5人が立っている。


「……参ったな」


 丸腰では何もできない自分を呪いたい気持ちでいっぱいの武に対し、ホワイトウィッチは間一髪、隠れることのできた近くのコンテナの陰から様子を窺っていた。


「……しょうがないわね」


 インカムで連絡を入れた。


「ジイ、レッドスピーダーをお願い」


 ホワイトウィッチは懐から小型タブレットを取り出すと、画面をタップしてアプリを起動した。

 画面にワイヤーフレーム状のレッドスピーダーが映し出された。



 埠頭・南側ゲート――

 守衛所の前に、先ほどの武の大声で尻餅を着いた警備員が自分のお尻を摩っている。

 すると、車のエンジン音が警備員の耳に入って来た。

 爆音ともいえるその音は、乗用車のマフラーを改造したような音ではなく、パワフルなエンジンによるものだ。

 警備員が音の方へ顔を向ける――頃には、赤い車――レッドスピーダーが、もうスピードで警備員の横を通り過ぎ、埠頭の中へ入って行った。

 あまりにもいきなりだったため、警備員は再び尻餅をしてしまう。


「……たた、な、何だ、今のは?」


 思わず間の抜けたことを口にしたが、すぐにハッと我に返り、尻餅をついた状態のまま無線を入れた。


「侵入者だ!」

 


 武と組員たちが睨み合う中、突然のエンジン音に、武は勿論、組員も音が聞こえる方へ顔を向けた。

 佇む武の後方からは、ドリフトをする形でレッドスピーダーが現れ、武へ向かって猛スピードで迫って来る。


「え、ちょっと待って!」


 武は咄嗟に横にダイブする形でレッドスピーダーを避けた。

 レッドスピーダーは急ブレーキを掛け甲高い音と共に、ちょうど武の右隣りに停車した。

 組員たちはレッドスピーダーへ向け銃を撃つ。

 ホワイトウィッチはタブレットに映し出されたレッドスピーダーのフロント部分をタップした。

 すると、レッドスピーダーのフロントグリルが上へスライドし、ロケット弾が顔を出した。

 レッドスピーダーと向き合うように立っていた組員たちもロケット弾を見て慌て我先にとその場から逃げ出した。


「え、まさか……」


 武は逃げ惑う組員たちを見て、これから何が起こるかを察し、組員たちを背にする形で両耳を塞ぎ蹲った。

 ホワイトウィッチはタブレット画面の下に表示されている「AIR BURST(エアバースト)」をタップすると、続いて距離設定画面が現れ、指をスライドさせて距離を設定、下に表示されていた「SHOT」をタップした。

 すると、レッドスピーダーのロケット弾は発射され、逃げる組員たちの近くで爆発した。


 レッドスピーダーのロケット弾は、「エアバースト」という着弾しなくても設定した距離で爆発する機能が付いており、これによって例え障害物の陰に隠れた敵も爆風によってダメージを与えることができる。


 両耳を塞ぎながら武が振り返ると、さっきまで組員たちが立っていた場所に目を見て大口を開けた状態で固まった。

 それはロケット弾の威力に呆然としているのもそうだが、同時にロケット弾の爆発によって倒れた組員たちの惨劇を見たことによるものだ。

 組員たちは全員、全身が血まみれになって倒れていた。何人かはまだ息があるようだが、その生命が消えるもの時間の問題だろうと分かる程の重傷を負っている。


「……おいおい――ここまでやることはないだろ⁉」


 武は立ち上がると、コンテナの陰にいるホワイトウィッチに向けて文句を言った。相手が暴力団でも生身の人間、殺すことはなかったのではと。

 しかし、コンテナの陰から現れたホワイトウィッチは、どこ吹く風、とレッドスピーダーの運転席のドアを開けて乗ろうとしていた。


「ちょっと待てって――」


 逃がすまいと武はレッドスピーダーの助手席のドアを勝手に開け、そして止まった。

 武の視線の先には何の変哲もない助手席、それ自体は何も驚くことではない。武が驚いたのは誰かがレッドスピーダーを運転しており、助手席に移動したと思っていたからだ。


「さらにちょっと待て、誰が運転を⁉ ――うわっ!」


 武が尋ねた直後、レッドスピーダーの屋根の部分で銃弾が跳ねた。

 新たに組員が集まり武たちに向けて銃を撃っている。


「――乗るなら早く乗って!」


 理解が追いつかない状況のまま、武はレッドスピーダーの助手席に乗り込んだ。

 

 レッドスピーダーの車内は、パッと見たら普通だが、灰皿付近にあるボディ関係の装備の5のボタンの他に、シフトレバーの横にもボタンがあった。

 「M―GUN(マシンガン)

 「ROCKET(ロケット)

 「DOUBLE―R(ダブルロケット)

 「SMOKE(スモーク)(煙幕)」

 「OIL(オイル)

 ――の順に縦に並び、「ROCKET」「DOUBLE―R」の右隣には白い正方形のボタンがある。

 後部座席は取り外され、黒く塗られた何かのタンクが横に2つ並び、運転席側の後ろのタンクの上にはポンプ式のショットガンが置かれていた。

 

 へぇー、中はこうなっているのか……。


 武がレッドスピーダーの内部に興味深々の隙に、ホワイトウィッチはシフトレバーを(ニュートラル)から(ドライブ)へ入れ、アクセルを踏み込んだ。

 後輪をスリップさせ急発進するレッドスピーダーによって、武はシートに頭を押し付けられ「んが!」と声を上げた。

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