4話 届いた物
貨物船から降りるトラックを眺める前尾。
その側にはもう1人男が立っていた。名前は木崎。前尾が信頼するもう1人の男だ。
やがて、最後尾のトラックがフェリーから降りると、前尾たちの近くに止まった。
そのトラックは4トンクラスの大きさだ。
それこそが前尾の目的の物が積まれたトラックだった。
「前尾、大丈夫でしょうか? 競馬場に行った俊山の兄貴たちがバラされたので、もしかしたらあの女もここに……」
「現れるだろうね」
俊山が殺されたことでホワイトウィッチが現れるという不安から表情はとても硬い木崎に対し、前尾の顔には不安の色は窺えない。
「だが心配はない」
前尾は高級セダンの後部座席からジュラルミンケースを取り出し、車の屋根に置くとケースを開いた。
中身はノートパソコンと無線機だ。
前尾はスリープ状態から立ち上げ、キーを打ち込んだ。
すると、パソコン画面に映し出されたのは、この埠頭のマップだ。
マップはCGによって立体になっており、現在、前尾たちがいる位置、及びトラックが出ていた。
画面の人物や建造物、トラックの3Dモデルは少々雑だが、説明をするには十分の出来だ。
すると画面の右側――実際の方角では南側に位置する――のコンテナヤードから、白い点滅した物が二つ飛んで来て、トラックや今前尾たちがいる場所の近くに落ちると、それが爆発し、周りにいた人物モデルは消滅した。
投げられた物は釘爆弾だ。
すると白い人型のモデルが釘爆弾が投げられた方から現れた。この白い人型モデルはホワイトウィッチを表している。
〈Wは釘爆弾を使用。防御壁を使い回避せよ〉
パソコン画面の下の部分に、こう文章が表示された。このプログラムは、ホワイトウィッチの行動を予測し、対処法を指示するものだ。
「奴の資料とAIを駆使したこのプログラムさえあれば何の問題もない。次に現れた時が魔女の最期だ。そう事務所でも説明しただろう? 命令通りに動いていれば問題ない。何と言っても私の自信作なんだからな」
そう言うと前尾は不敵な笑みを浮かべた。
だが、木崎は前尾とは対照的に表情は強ばったままだ。
木崎の表情を見て前尾は察した。
「このプログラムの通りにあの女が現れるかどうか不安なんだな?」
前尾の問いに、木崎は「はい」と頷いた。
「心配ない。プログラムの信頼性は非常に高い。万が一の事態にならない限りはね」
その「万が一」になったらどうするんだというのが木崎の本音だが、前尾はこのプログラムに絶対の自信を持っている。必ずこのプログラムの通りに彼女は現れる、と。
それ以外にも計画のカモフラージュのため、埠頭の守衛に「映画の新しい機材や装置を試すから、マシンガンとか爆発音が出る」と嘘をついているが、それがどこまで誤魔化し通せるかということも木崎は腑に落ちていなかった――警備員たちはあっさり信じていたが。
「分かったら持ち場に付け。お前が一番重要な役だからな」
「分かりました……」
木崎は前尾に頭を下げ、その場から離れる。自信を持って言っているのなら間違いないのだろうと自分に言い聞かせたが、それでもやはり心配だ。
プログラムの予想を見ても、明らかに打つ手はいくらでもあるように思えたからだ。前尾は機械を信じ込んでいるため、自分が何を言っても考えを変えないだろう。
そんな木崎の気持ちをよそに、前尾は指をパチンと鳴らし、組員へ合図を出した。
「おい、中身を確認しろ」
組員は頷き、トラックの横に立ちスイッチを押すと、すると荷台の側面が上へ開いた。
トラックの荷台は側板と天井の一部が上へ跳ね上がるウイングタイプになっている。
そこに積まれていた物は、1000リットルは入るくらいの銀色の丸タンク。前尾はそれを見て満足げに笑みを浮かべていた。