3話 白摩埠頭
白摩署を抜け出した武は、白摩埠頭の南側ゲートに着いた。
白摩埠頭は、海を埋め立て造られており、埠頭自体が海に出ているような形になっている。
停泊場は750メートル程で埠頭としては比較的小さい規模だ。
道路に面する所は高い塀で囲まれ、埠頭を出入りできるゲートは埠頭の両端と真ん中の3ヵ所だ。
武は運転手に代金を払うと、タクシーを降りた。
時計を見ると時間は18時に迫っている。
すぐに武はゲートの守衛所に居る中年の警備員に近づいた。
「何でしょうか?」
警備員が武に尋ねた。
武はズボンのポケットから警察手帳を取り出し警備員に見せた。
「白摩署です」
「えっ刑事さん?」
警備員は如何にも、疑っています、と言うように目を細めて武を見ている。
刑事には見えない少々不良のような雰囲気と、上着を着ていないワイシャツ姿のせいで、武が刑事に見えないのだ。
「ちょっと確認したいんですけど、ここに暴力団の団体みたいなのが来ませんでしたか?」
「暴力団? そんなもん来てないよ」
「じゃ、暴力団じゃなくても誰か来ませんでしたか? 大事なことなんです?」
「あぁ、それなら荷物を取りに前尾商会が――」
「――それぇ‼」
武の大声に、文字通り圧倒された警備員は驚いて尻餅を着いた。
「ああ、すみません……」
武は一列に並ぶ倉庫群と並行するようにコンテナが並べられたコンテナヤードの間の通りを走っていた。通路といっても大型のトレーラーが容易にすれ違うことができる程広い。
大きな貨物用のコンテナが並ぶコンテナヤードは、まるで要塞の防御壁のようにも見える。
警備員の話だと、この時間に入港する船は1つだけ、前尾たちが居るのは、中央のバースらしく、武が入った南側ゲートからはおよそ200メートル近く距離がある。
流石に前尾たちが居るバースに近づく頃には少し息が上がってしまっていた。
中央のバースに近づくとコンテナからコンテナへと慎重に移動して行き、やがて岸壁近くに出た。
岸壁にはRO―RO船と呼ばれる貨物船が横向きに停泊しており、船の前後からはランプウェイと呼ばれる橋が船から岸壁へ伸びていた。
そのランプウェイの上を大型トラックが次々降りて、埠頭の出口へ向かって行った。
貨物船の後部のランプウェイの近くには、黒塗りの高級セダンと普通乗用車数台、その周りには組員らしき男たちがいた。
その中には前尾の姿もある。
武は慎重にコンテナの間を移動し、前尾たちに近づくが、前尾が居る場所の周りは広く取り払われており、隠れられそうな物は全く見つからない。
仕方なく前尾たちの近くのコンテナの陰――といっても数十メートルは離れていて声を聞くのもやっとの距離――から様子を窺った。