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WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)  作者: 木村仁一
第3章 接触
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1話 目的のために

 白摩署の刑事部屋――

 宮元を含む他の課員は、それぞれ自分の席に座り捜査資料に目を通している。全て黒富士組に関する資料だ。

 ただ1人、タケルだけは競馬場の件など勝手な行動を取ったとして始末書を書いていた。

 今回のことで、よりたにに関する事件から外されたのだ。

 とはいえ、谷を撃った犯人が憎いことには変わりない。


(ん!)


 武はあることが気になり始末書を書く手を止めた。

 襲撃時、運河の橋に停まっていた1台の黒いセダンから谷を狙撃したのは間違いないだろう。

 だが冷静に考えてみれば、谷の体内から出たのは近距離用の拳銃弾だ。

 黒いセダンと谷までの距離はおよそ30メートル、拳銃弾でも決して届かない距離ではないが、先が窪んでいる弾頭「レンジャータロン」なら、遠ければ遠いほど空気抵抗の影響を受けるので正確さが失われやすい。

 狙撃するならライフルのように遠距離用の銃を使うのが普通だろう。

 そこでも気になるのが、何故ホワイトウィッチが使う弾頭と同じ物を使かったのかだ。

 黒富士組が邪魔なホワイトウィッチに仕返しするつもりでレンジャータロンを選んだとしても、わざわざ外れるリスクの大きい遠い距離から撃つのはあまりにも非常識だ。

 谷を最初から狙って、ホワイトウィッチに「警官殺し」の罪を擦り付けようとしたのだろうか。

 それでもライフルマークを調べれば、彼女が犯人ではないことはすぐに分かる。

 ならば一時的にでもホワイトウィッチの仕業に見せかけなければならない理由があったのだろうか。

 自問自答を繰り返すうちに、段々と自分が嫌になって来る。


「大下! 手が止まっているぞ!」

「は、はい‼」


 宮元に注意され、渋々始末書の続きを書き始めた。

 それでも武の中に消えないものがあった。


 〝役に立てなくてすまないと伝えてくれ〟


 谷の手紙に書いてあったこれだ。

 この言葉が唐突に頭を過ると、競馬場で見たホワイトウィッチの谷を悲しむ表情を思い出した。


(あいつは1人なのか?)


 そんなことを考えてしまった。

 何時もなら犯罪者のことを気にしない武が、何故かホワイトウィッチのことは気になった。


 やっぱり埠頭へ行かないと。


 谷の言葉を伝えたいという使命感からか。あるいは共通する人物を失った、というシンパシーなのか。

 とにかく彼女に会わなくては、という気持ちが抑えられなかった。まるで誰かにかされるような、そんな気がして。

 始末書も書き終わり、それを持って宮元の席に行った。


「すみませんでした。ちょっとトイレに行ってきます」

「んっ」


 宮元は頷き、武は刑事部屋から出ていった。


                   〇 


 トイレの個室に入ると、早速携帯を手取り出し、谷の情報屋だった日下くさかと連絡を取っていた。日下なら何か情報があるかもしれないと思ったからだ。


「――そう、白摩埠頭に運ばれるやつだ」

『ああ、確かに何かを入れるって聞いたな……』

「そう、それ。ちなみにそれを使って何をやるか分からないか?」

『無茶言わないでくれよ、アンちゃん。こっちは超能力者じゃないんだから』


 それもそうだ。

 どの道、埠頭へ向かえば、ホワイトウィッチにコンタクトを取ることも、前尾の計画を知ることもできるかもしれない。


「そりゃそうだよな……それと昨日のネタは本物だったよ。女に会うことができた」

『そうか、それは良かった』

「それじゃ、また何か情報が入ったら教えてくれ」


 コン、コン!


 武が携帯を切ると、個室のドアがノックされた。


「入ってます!」

「おお、すまん大下」


 ノックしたのは宮元だ。また勝手に出歩かないように確認しに来たのだろう。

 足音が遠ざかるのを確認し、武は個室からトイレの出入口へと移動、顔を少し出して周りを見わたした。

 どうらや引っ掛け(フェイント)で宮元が隠れている様子は無いようだ。

 あとは埠頭に向かうだけだが、それには車が要る。

 覆面車の鍵は宮元に取り上げられているため使えない。他の車を使うにしても車両係が宮元に報告するため結果は同じだ。

 仕方なくズボンのポケットから財布を出して中身を確認する。財布の中身は極めて少ない。

 自分の稼ぎの少なさに自然とため息をついたが、それでも白摩埠頭に向かうには十分な金額は持っていた。

 

                 〇


 刑事部屋では、宮元が自分の腕時計を見ている。


「ずいぶん長いな、大下の奴……」


 武がトイレに入ってから20分以上も経っている。よほど具合が悪いなら話は分かるが、席を立ったときの武は特に体調が悪いようには見えなかった。

 宮元は武の席へ目を向けた。椅子の背もたれには上着が掛けられている。

まさか上着おいてどこかに行くってことはないよな、と思ったが、どうも嫌な予感がしてしまう。

 


 宮元は、さっきまで武がいた個室をドンドンとノックした。


「大下⁉」


 個室から返事はない。

 宮元はドアに手を掛けると、簡単にドアは開き、武の姿は消えていた。


「まさか‼」


 やはり抜け出した。

 宮元は、武に対する苛立ちと同時に呆れてため息をついた。

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