地下室
彼女が向かったのは、1階のオープンキッチンのすぐ側にある、本来ならちょっとした休憩場所として設けられていた空間。そこにある2メートルは超える大きな食器棚の前だ。
食器棚の右側の扉を開けると、一番下の段にあるティーカップなどの食器を退かすと、奥へ手を伸ばした。そこには小さなボタンがある。
それを押した後、中の食器を元に戻して扉を閉めると、ホワイトウィッチは食器棚を軽く押した。
すると、食器棚はまるでドアのように奥へ開いた。食器棚は隠し扉になっているのだ。
隠し扉の先はすぐ壁になっているが、すぐ左側に地下へ通じる階段がある。
下りた階段の先は廊下になっている。
廊下には、左に3つ、右に2つ、正面突き当りに1つの計6つのドアがある。
左側は、手前からスポーツジム、研究所兼医務室、その隣に野々原がホワイトウィッチをサポートする為のサポート部屋。
ホワイトウィッチが向かったのは右側の奥のドアだ。それを潜ると、そこには彼女の愛車・レッドスピーダーが止められていた。
車庫の広さは大きな戦車が2台入ってもまだ余裕があり、天井の高さも4メートル半はあるだろう。その天井には左右にスライドするクレーンが備え付けられていた。
車庫の一番右側には、車の整備及び改造するためのピットスペースがある。
ピットスペースの前に止められたレッドスピーダーの隣、ちょうど車庫の中央の位置には、もう1台黒いクーペタイプの車があり、2台ともホワイトウィッチが入って来たドアを背に止められている。
その中で野々原は、手にスマートフォンサイズの小型タブレットを持ちながらレッドスピーダーの前に立っていた。
野々原が持つタブレットの画面には、ワイヤーフレーム状のレッドスピーダーが表示されており、野々原が画面のレッドスピーダーのフロントグリルの部分をタップした。
すると、レッドスピーダーのフロントグリルが開き、ロケット弾が顔を出した。
もう一度同じように画面をタップすると、今度はロケット弾が格納された。
このタブレットは戦闘時に持ち歩く物で、自作のアプリによってレッドスピーダーを遠隔操作できるように改造された。これはそのテストだ。
「ジイ?」
「はい、お嬢様」
ホワイトウィッチの呼びかけに野々原はそっちへ向いた。
「あれの準備は?」
「はい。レッドスピーダーのロケット弾にエアバースト機能を――」
「――そっちじゃなくて」
「ああ、あちらの準備でしたら何時でも」
「用意しておいて、今夜使うかもしれないから」
「かしこまりました」
野々原は一礼した。
ホワイトウィッチは車庫を出て、右隣り――階段の正面の突き当り――の部屋に入った。
部屋には、武器開発に使う様々な道具や資材、銃の弾薬を制作する為のリロードマシンなどが置かれていた。
彼女が向かったのは、正面に見える小さな部屋の前だ。
ドアノブの上にあるテンキーに4桁のパスワードを入力すると、〝ビー〟という音と共にドアのロックが解除された。
ドアを開けると、そこには数々の銃や装備品が保管されていた。
ここは武器庫だ。
この部屋の左側には何もないが、右側にはスチール製の組み立てラックがあり、その上には専用のスタンドに置かれた拳銃が何挺も並べられている。
普通のオートマチック拳銃――その中には、彼女の愛銃・ワルサーP99の予備が数挺――は勿論、海外なら護身用として使われるような小型の拳銃の他、強力な破壊力を持つマグナムハンドガンなどの種類があり、その下の段には様々な弾薬の入った箱や煙幕や釘爆弾などの予備の装備品などが置かれていた。
ラックの上の壁には、数は拳銃より少ないが、様々なスナイパーライフルやショットガンなどの長物の銃が壁に掛けられている。
ホワイトウィッチはラックの上にある拳銃を一通り見ながらあることを考えた。
(谷さんの言う通りになりそうね……)
かつて谷は、「自分にもしものことがあれば、武がコンタクトを取るだろう」とホワイトウィッチに話していた。
自分と同じように捜査から外される立場になり、そうなれば正義感と仲間思いの強い武は単独で行動を起こすだろうと谷は予想していたからだ。
今はホワイトウィッチが谷を撃ったと警察が見ているようだが、警察もそこまで馬鹿ではない、自分の無実が証明されるのも、黒富士組の関係性が証明されるのも、そう時間は掛からないはずだ。
そうなれば武はもう一度自分に接触を図るだろう。その時に武を試せばいい。
本当に使える人材かどうかを。