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WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)  作者: 木村仁一
第2章 単独
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7話 迷い

 競馬場の一件の後、タケルは白摩署の刑事部屋で宮元みやもとの席の前に立っていた。


「大下‼ 勝手なことしおって‼」


 宮元は立ち上がり窓ガラスが割れるのでは、と思ってしまうほどの声量で武に説教した。


「……すみません」

「『すみません』で済むか‼」


 深々と頭を下げる武を無視して宮元の自分の椅子にドッと深々と座り武に背を向ける。お前とは何も話したくない、と背中越しでそう言っているようだ。

 それぞれ自分の席に座る課員のみんなも、本当なら武を慰める言葉の1つでもかけてあげたいところだが、武の行為は刑事として相応しくないことを理解している為、宮元とのやり取りも黙って見ているしかなかった。

 すると、鹿沼かぬまが資料を手にして部屋に入って来た。


「課長、競馬場の死体ですが。全員、前尾組の人間です。それと使われた凶器からしてホワイトウィッチの仕業で間違いないですね」


 資料を宮元の席に置くと、宮元は座りながら席に向き、資料に目を通し始めた。


「……トシさん、あの女と話していた男は?」


 武が鹿沼に訊くと、鹿沼は首を横に振った。


「残念だが死亡が確認されたよ。奴も前尾組の1人だった」

「あいつが生きていたら前尾の企みが分かったのに――あの女のことも……」

「前尾が何か企んでいるのか?」

「そうじゃなかったら、あんな所でこそこそ女と会ったりしませんよ、トシさん」


 鹿沼は「それもそうだ」と頷いた。

 それを言った直後、武の中ではホワイトウィッチが話していたことが蘇る。谷とホワイトウィッチとの関係だ。

 宮元に報告するべきなのだが、裏で谷がホワイトウィッチに情報を流していたとなれば、刑事と暗殺者が共犯ということになり、谷だけでなく、日本の警察全体の信用問題になりかねない。

 話すべきかどうか武は迷った。


「とにかくだ。県警にも報告しないと」

「それよりも課長。前尾組あいつらを洗いましょう。組員が殺しをしてるし、加藤だってまだ行方不明なんですから」

「大下! 前尾組は県警が捜査している黒富士組の暴力団なんだ。こっちが勝手に動いたら迷惑になるだろ!」


 また始まった。課長の県警復讐症が!


 武だけじゃなく、課員のみんなが思っていることだが、前尾組は白摩署の管轄、事件を捜査したところで全く問題はない。

 県警に媚びを売る宮元の姿勢にはほとほと愛想が尽きる思いだ。

 宮元の態度に武は、谷とホワイトウィッチについては黙っていることにした。

 というより宮元に言っても名誉を守ろうと、「証拠はあるのか?」とか言い訳をして聞き入ってくれないに違いないと自分の中で納得させた、が正しいだろ。

 本音は嘘だと思い込みたい武の我がままなのだが。



 宮元が県警へ報告を終え、受話器を置いた。


「大下。5時頃に県警が来る。競馬場のことで事情を聴きたいそうだ」

「分かりました」


 武が時計を見ると、時間は4時24分を指している。

 鹿沼も時計を見て宮元に尋ねた。


「あの課長。大下を谷さんの所に行かせてもいいですか?」


 谷の遺体は既に司法解剖が済み、谷の自宅に安置されていた。課員のみんなも交代で挨拶を済ませており、残りは武のみだった。


「いいだろう。ただ県警を待たせないように、すぐ帰って来るんだぞ?」


 宮元は無表情のまま答えた。

 武は鹿沼に付いて行くように刑事部屋を出て行った。

 残った課員が2人を見送ると、菅原すがわらは何か気になったことがあるのか、顎に手を当て、何かを一瞬考えると、席を立ち宮本の前に立った。


「課長。オヤッさんについて前から気になっていたことがあったので、ちょっと出てもいいですか?」

「今回の件に何か関係あるのか?」


 宮元は静かに尋ねた。平常心を保とうとしているようだが、逆にその静かな声から怒りを抑えていることが分かる。

 武が勝手な行動を取ったせいで、部下の行動に敏感になっている宮元は菅原の行動にも慎重になっていた。


「それを確かめたいんです」


 菅原がきっぱりと答えた。

 どいつも勝手ばかりだ、と内心思っている宮元だったが、刑事としてそれなりに経験がある菅原が言うのだから、勝手なことはしないだろうと決断が出た。


「分かった」

「ありがとうございます。タク、行くぞ」


 菅原は安藤あんどうを連れて刑事部屋を出て行った。


 安藤あんどう タクは、武や松崎まつざきと同じ20代半ばの刑事で、菅原ほどではないが、こちらも少し色黒の肌。身長も高く、180cmを超える。

 髪は短い七三分けで、少し濃い顔つきをしており、体は大きく、体育会系の印象のそれだ。

 

 2人が出て行ったあと、ただ1人、宮元と刑事部屋に残された松崎は、不機嫌な上司と2人きりという重苦しい空気が漂う空間から今すぐにでも逃げたい気持ちで満ちていた。

 何とかここから抜け出す方法はないものかと考えていると。


「松崎」

「はい!」

「お前は何処にも行くな」


 まるで心を読まれたかのように宮元が松崎に念を押した。


「分かりました……ですが――」


 返事をすると松崎は席から立ち上がった。そして松崎がどうしても宮元にお願いしたかったことを言う。


「――トイレくらいは行かせてください!」

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