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WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)  作者: 木村仁一
第13章「黒歴史仲間」
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9話 フラグ

 すっかり周りが暗くなった頃。タケル松崎まつざきは帰路についていた。


「考えられるとしたら、勝田かつただけなんだよなぁ」

「どうやって証明すんだよ、武?」

「こっちが訊きたい。とにかく明日、勝田が居る刑務所ムショに行って、勝田を調べるしかないだろう」

「何を調べるんだよ?」

「勝田が誰かに直人ナオトを撃たせたなら、外部の人間と接触しているはずだ。それが証明できれば……」


 そう意気込みを見せる武。


「でも勝田が復讐で片平ガイシャを殺害したのなら、お前も狙われる可能性も有ったりして?」

「……。確かに。というより今思い出したんだけど、むしろ俺は狙われる理由があるかも」

「そうなのか?」

「うん。あの時にちょっとね……」


 実は8年前の出来事で、武は勝田に()()()()していた。

 それを考えると、もし勝田が犯人なら、武を狙う可能性は十分考えられる。


「大変だー。彼女とのデートができなくなるなー」

「なっ!」


 確かに武は明々後日に有休をとっている。

 勿論、レイと出かける約束をしているのは事実だが、それだけではない。

 前にレイの手料理を振る舞われたこともそうだが、そうでなくても色々陰ながら助けてもらっている。

 そのお返しが出来ればと、武なりにある計画を考えていた。

 レイが喜んでくれるかは微妙だが、既に野々原(ののはら)と相談済みなので、あとは実行あるのみだ。


「で、今度は何処にデートだよ?」


 何故か行先を訊いて来る松崎の顔は、悪だくみでも思いついたような笑みを浮かべていた。


(まさかお前、邪魔しにでも来る気か?)


 そんな2人の後ろを、1台のセダン車がゆっくり近づいて来る。

 武と松崎は話に夢中で車に気づいていない。

 すると、車の運転席の窓が下がった。

 それでも武と松崎は気づかない。


「――いずれにしろ、早く解決しないとな」

「そりゃそうだ」

「もしかしたら、この時点で狙われてるかもな?」

「おい……フラグ立てんじゃねぇよ!」

「なにがフラグだよ。マンガじゃあるまいし……」

 

 松崎が言った後、武の横を車が通り過ぎようとしていることに気づいた。

 街灯の光に照らされ、その窓から伸びる手が見えた。

 その手に握られている物が目に入り、松崎は咄嗟に武の服を掴んだ。


「武っ‼」

「うおっ‼」


 バンッ‼


 地面に伏せた瞬間、1発の銃声が響く。拳銃だ。

 その後もセダン車から3発発砲し、そのまま急加速して走り去ってしまった。


「ニャローっ!」


 起き上がった武は車を追いかけようとしたが、うめき声が耳に入り、松崎の方へ向いた。

 松崎は左肩を抑えており、そこから血が出ていた。弾が当たったのだ。


隆太リュウタ‼」


 武は慌てて携帯電話を取り出し、救急車を呼んだ。


                 〇


 救急車で運ばれた松崎を見送る武。

 そこに鹿沼かぬまが近づいた。


「大下、お前は平気か?」

「平気ですよ。だけど隆太が……」

「今は救急隊に任せよう。それで、犯人ホシは見たか?」

「いいえ……。あっという間だったので……」


 鑑識官は、先ほど撃ち込まれた弾と近くに落ちていた薬莢を採取していた。


「弾の種類は分かりました?」


 武が鑑識官に訊いた。


「ええ、弾丸と薬莢から、45口径で間違いないですね」


 また45口径。

 それを聞いて、武は自分の顎に手を添えて考えた。


(これで直人を撃った銃と一致すれば……)


「大下、病院に行くぞ」

「はい」


 鹿沼に呼ばれて、武は覆面車に乗り込んだ。


                 〇


 病院のロビーに着いた武と鹿沼。

 武は責任を感じているのか、表情は暗い。谷が撃たれた日のことのようで不安が拭えないのだ。


「落ち込むな、大下」

「だけど、トシさん……」

「アイツなら大丈夫だ」


 すると、1人の女性看護師が武と鹿沼に近づいて来た。


「あの、白摩署の方でしょうか?」

「そうです」


 武が返事をすると、看護師が「こちらです」と2人を松崎が居るところに案内した。

 2人が連れてこられたのは、手術室前――ではなく、普通の治療室。

 それを見た瞬間「あれ?」と間の抜けた声を出す武と鹿沼。

 しばらくすると、治療室のドアが開き、中から松崎が出てきた。


「どうも……」


 大事を取ってか、左腕は三角巾で吊るされているが、医者に言われるまでもなく命に別状は無いようだ。

 医師も一緒に出て来ると、武と鹿沼に松崎の容態について説明を始めた。


「弾は左肩をかすめただけで、命に別状はありません」

「……」


 撃たれた瞬間の松崎の様子から見て、重症かも、と思っていたのだが、完全に違った。


「お世話様でした」


 武は医者に一礼をした。


「なんか、心配してた俺が馬鹿みたい……」


 ガックリと肩を落とす武に鹿沼が声をかけた。


「だから大丈夫だ、って言っただろ?」

「……はい」


 どうも谷のことで、目の前で誰かが撃たれると、死んでしまうのでは、と不安になってしまう。

 レイが塚元にやられた時もそうだった。どうも過敏になってしまうのだ。

 しかし、武の態度を見て面白くないのが松崎だ。


「何だよ! 人が九死に一生を得た、ってのに!」

「何が『九死に一生』だぁ‼ 心配かけやがってっ‼」


 武は病院だということを忘れ、般若のような顔になって松崎を怒鳴りつけた。


                 〇

 

 翌日のレイの隠れ家――

 ヘッドボードに置かれた目覚まし時計の音で目が覚めたレイ。

 それを止め、レイはベッドから起き上がると、軽く上半身のストレッチをすると、今度は目覚まし時計の隣に置かれた腕時計のアラームが鳴った。安定剤の時間だ。

 更に腕時計の近くに置かれた、安定剤の注射器を手に取る。


「ハァー……」


 レイはため息をついた。

 やはり毎日安定剤を摂取する生活は、正直憂鬱だ。

 やがて軽い痺れが現れたタイミングで、レイは自分の首元に安定剤を注射。痺れが消えたことを実感し、ヘッドボードに置かれたキットを使って、注射器の針を消毒、予備の安定剤をセットすると、スマートフォンをチェックした。


「……どうしたの?」


 電話する、と言っておきながら、武からの連絡は無い。

 昨日の銃撃事件に関係することなのか、はたまた突然の事件で忙しくなったのか?

 どっちにしても、すっぽかされた気分だ。



 着替えを終えたレイは、ダイニングルームに来た。


「おはようございます、お嬢様」

「おはよう、ジイ……」


 少し不機嫌そうな態度で野々原との挨拶を済ませると、レイは席に座った。テーブルの上には、既に朝食が並べられている。


「どうなさいましたか、お嬢様?」

「ちょっとね……」


 レイはリモコンでテレビの電源を入れ、適当にチャンネルを回した。

するると、女子アナウンサーが映し出された。


『続いてのニュースです。昨晩、神奈川県内で、刑事が銃撃される事件がありました。事件があったのは、白摩区住宅地近くで、警察寮に帰宅中、何者かに銃撃されたということです』

「白摩区⁉」


 それを聞いた瞬間、レイは両手で自分の口を覆った。

 アナウンサーが続きを話す


『警察の発表によりますと、刑事の1人に被害は無く、もう1人は銃弾を受け重傷を負いましたが、命に別状はないとのことです。神奈川県警は、銃撃された刑事の因果関係を調べると共に、同じく白摩区内で発生した銃弾事件との関連を調べています』

「お嬢様、もしかして……?」

「まさかと思うけど……」


 本来はよほどのことがない限り、こっちから連絡は入れない決まりになっているが、どうしても気になる。

 レイはスマートフォンを手にすると、メールで「電話待っています」の一言だけを入れて送信した。


「武様なら大丈夫です。落ち着いたら連絡が来るはずです」

「……だといいけど」

 

 早く返事が来て欲しい。


 レイはスマートフォンを両手で握りしめ、武からの返信を待った。

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