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WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)  作者: 木村仁一
第13章「黒歴史仲間」
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7話 忙しい

 さこ署に到着したタケル松崎まつざきは、刑事課の刑事に案内され、レイらしき女性の取り調べをしている取調室の隣にある部屋に通された。

 部屋の壁には小さな窓のような物がある。


「彼女なんですけど?」


 武は、窓の方へ足を運んだ。恐らくマジックミラーになっている窓だろう。


(落ち着け俺。さすがにレイじゃない、レイじゃないと思う……)


 内心、そう思って武は窓の向こうを覗き込んだ。

 そこには刑事と対面するように座る――


「――レイっ⁉」


 本物だった!

 髪の毛の色は違うが、刑事の取調べを受けているのは、正真正銘のレイだ。


「んっ、お知合いですか?」

「えっ⁉」


 刑事が武に訊いた。

 まさかの展開だったので、武は思わずレイの名前を叫んでしまった。このことで、武がレイと顔見知りであることが、刑事は勿論、一緒に来ていた松崎にもバレてしまった。


「えっとその……」


(まずい! このままだと俺もブラックウィザードだって……)


 パニックになり、武は猛烈に汗をダラダラと流した。


「おい武、お前まさか……?」


 松崎が疑うような目で武を睨んだ。

 これヤバイ‼

 武がどうやって誤魔化すか考えた。

 すると、武の方に松崎の手が、ドンッ、とのった。


「お前……」


(ヤバイ、バレた……⁉)


「いつの間に彼女作ったんだ⁉」

「……えっ?」


 松崎の予想外の問いに武は目を点に変えた。

 冷静に考えてみれば、警察関係者で、レイの正体を知っているのは武だけ。

 どちらかの正体がバレていない限り、例え知り合いだったとしても、何の問題も無いはずだ。


「じ、実を言うと、彼女は自分の知り合いで、確かに似顔絵のホワイトウィッチに似てはいますが、無関係です……」


 武は、へへへ、と苦笑いを浮かべた。


「そうですか……」

「……はい。なので、釈放して――」


 しかし、刑事の表情は硬い。まだ何か気になることがあるようだ。


「――どうしました?」

「……実は」

「……?」

「彼女のバッグを調べたんですけど……」


(ヤバッ‼)


 前に競馬場で、レイがバッグにステイクランチャーを仕舞っていたことを思い出す。

 あれが見つかってしまっては、何の言い訳もできない。

 武の中で最悪の事態を覚悟した。


「妙な注射器が見つかりまして……」

「妙な……注射器?」


 それは恐らく安定剤の注射器だろう。もし中身を調べられたら――薬物検査で引っかかるような薬物なのかは知らないが――面倒なことになる。


「これから成分を分析して――」

「――ちょっと待ったぁ‼」

「はい……?」


 突然大声を上げた武に、刑事は驚いて目を皿にした。

 それを見て武も、ハッ、と我に返ると、その理由を告げる。


「あれは、えーと……彼女の持病の特効薬みたいな物で、定期的に摂取しないと最悪死に至る可能性があるんです。それに、薬自体もかなりデリケートで、空気に触れて数分で効力が無くなってしまうんです。だから注射器から出さないでぇ!」


 ほどんど苦し紛れの言い訳にしかならないが、今はこれで誤魔化すしか方法が無い。

 問題は信じてくれるかどうかだが。


「わかりました。あと……」

「今度は何ぃ⁉」

「……はい――バッグに催涙スプレーが……」

「それは、前に彼女がストーカー被害に遭ったので、自分が持ち歩くように勧めましたぁ!」

「そうでしたか。それ以外は特に怪しい物はありませんでしたので、すぐにお返しします」

「ありがとうございます……」


 とりあえず誤魔化せたようで、ホッとする武だが、すぐさま背後からプレッシャーを感じ、武は硬直してしまった。


「武、あの女とは、どんな関係だ……⁉」

「マテマテ隆太、ちゃんと話すから!」


 ワタワタしながら武はレイのことを話した。勿論、正体のことは伏せて、だが。

 


 取調室から出たレイに刑事が頭を下げていた。


「お手間を取らせて申し訳ございませんでした」

「……いいえ」


 レイは少し不機嫌そうに刑事のことを冷たい目で見ていた。


「やぁ、レイ」


 レイは声の方へ顔を向けた。


「あら、武じゃない……あれ、どうしてここに居るの……?」

「ちょっと捜査の関係でね、偶々ここに来たんだよ」

「そうだったんだ」


 武が居たことで、自分が解放された理由を察したレイは、軽く微笑んだ。


「もうビックリしちゃったわよ。いきなり捕まって取調べ室に連れてこられて」

「ごめんね、レイが手配中の犯人に顔が似てたから。でも安心して、無実は証明されたから」

「……それならいいけど」


 レイはそう言うが、何処か不満そうに目を細めている。


「ちょっと硲署ここの刑事課長に挨拶したら、元の場所まで送るから、ロビーで待っていてくれる?」

「分かった。ところで、後ろで血涙しているのは武の同僚さん?」

「血涙?」


 武が振り向くと、そこには血の涙を流しながら、武を睨む松崎が居た。


「そう、この分かりやすく嫉妬しているのが松崎」

「嫉妬なんかしてないやいっ!」

「……鏡見てから言えよ。それに、さっきレイのこと、説明しただろ?」


 武は目を細めて呆れていた。


「レイチェルといいます」


 松崎に向けて上品にお辞儀をするレイ。

 顔を上げたレイの笑顔を見た松崎の表情は一転、涙を流しながら感動していた。更に松崎の顔の周りには、謎のキラキラが輝いている。


「メッチャ美人じゃん……」


(忙しい奴だな……)


 

 硲署の刑事部屋に挨拶に来た武と松崎。


「わざわざご足労いただき、すみませんでした」


 硲署刑事課の課長が、武に頭を下げた。


「いいえ。犯人ホシを捕まえる為ですから――まさか知り合いに当たるとは思いませんでしたけど……」


 武は何かを誤魔化すように視線を課長から外した。

 正直、罪悪感が拭いきれないからだ。

 すると、1人の刑事が報告書を持って刑事部屋に入って来た。


「課長、小野田おのだ殺しの弾丸のライフルマークから銃の種類が分かりました」

「銃の種類?」


 それを聞いた武は、今朝の新聞で北野組の幹部が射殺された事件のことを思い出した。


「すみませんでした。もしよければ、その弾丸について聞いてもいいでしょうか?」


 武が刑事に尋ねた。

 片平の件も有るので、もしかしたら何か手掛かりになるかも、と思ったからだ。


「はい。使われた銃は、ハードボーラー、アメリカ製の拳銃です」


 そう言うと、刑事は課長に資料を渡した。

 資料に載っているハードボーラーの写真は、通常のコルトM1911のサイズだが、スライドを延長したロングモデルは、ある殺人サイボーグが活躍する映画で登場したことで有名なシルバーのオートマチック拳銃だ。


「ハードボーラー……45口径ですね?」

「はいそうです。よく知っていますね」


 ガンマニアの武だ、これくらいは当たり前のように分かるが、それよりもその銃の弾薬だ。

 45口径は片平を撃った銃と同じ弾丸だ。


「45口径って言ったら、片平の件も?」


 松崎も気づいたようで、武も松崎の顔を見て頷いた。


「すみません。その銃に前歴マエはありましたか?」

「今調べているところです」

「あの、その銃の情報ですけど、白摩署にも送っていただけないでしょうか?」

「それは構いませんが、何かあったんですか?」


 当然だが、課長が武に訊いた。


「実は先ほど、うちの管内でも射殺事件がありまして、それに使われたのも45口径なんです」

「何ですって⁉」

「勿論、同一犯という確証はありません。ただ、被害者が昔、北野組とも関係があるんです」

「本当ですか⁉ 分かりました。――キミ、その資料を白摩署に送ってくれ」

「分かりました」

 


 硲署の廊下を歩く武と松崎。


「なぁ、武?」

「なんだよ?」

「1つ思い出したんだけど、確か鬼柳きりゅうを撃ったのも、45口径だったよな?」

「確かにそうだけど、多分、今回は違う……んじゃないか?」

「本当か?」


 殺した相手は天王会に属する組の幹部、それを黒富士組の大幹部の佐久間さくま自らが手を出すのは立場的にリスクが大き過ぎる。誰か因縁のある下っ端か、殺し屋を雇って殺すだろう。


「そうか……」

「まずは、照合結果を待とう」

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