3話 容赦ないな……
隠れ家のサポート部屋から、レッドスピーダーを遠隔操作する野々原。
モニターには、レッドスピーダーの運転席からの映像が映し出され、その右下の所に、小さく後部の映像も流れている。
金を乗せたワンボックスカーは海岸通りを北上しているようだ。
ワンボックスカーを追跡するレッドスピーダーに気づいた護衛のセダン車やライトバンに乗る組員たちは、助手席から一斉にレッドスピーダーに向けて銃撃。勿論、レッドスピーダーは防弾なので組員の拳銃弾ではびくともしないのだが、さすがに組員の銃撃はうるさい。
野々原は、キーボードを操作してレッドスピーダーのロケット弾を選択。
レッドスピーダーのフロントグリルが開き、ロケット弾が顔を出すと、1台のセダンの車に向けて1発放った。
ロケット弾を受けた車は、爆風で横転し、更にバランスを崩したことで、2回ほど横に回転し停まった。
しかしそのセダン車の災難はまだ終わらない。
横転したセダン車が停まった場所は、ちょうど別のセダン車の進行方向。避けきれず、別のセダン車に衝突してしまった。
次にレッドスピーダーはライトバンに向けてロケット弾を発射。
ライトバンは後部が派手に吹っ飛び、コントロールを失った後、ガードレールに衝突した。ライトバンに乗っていた組員が慌てて逃げた瞬間、ライトバンは大爆発を起こした。
ロケット弾を仕舞うと、次はナンバープレートが開き、マシンガンの銃口が現れ、ワンボックスカーに向けて火を噴いた。
「おや?」
野々原はモニターに映るワンボックスカーを睨んだ。
ワンボックスカーのタイヤに付けられている泥よけが弾を弾いているのだ。よく見ると、通常より大きくも見える。
どうやらワンボックスカーの泥よけが、防弾効果を持っているようだ。
ロケット弾を使えば簡単に破壊できるだろうが、それでは金まで吹っ飛んでしまう可能性がある。
レッドスピーダー後部の映像を見ると、後ろからもセダン車に乗る組員がレッドスピーダーを銃撃している。
オイルか煙幕で追い払おうと考えていると、レイから通信が入った。
『ジイ、車は止められた?』
「いいえお嬢様。例のワンボックスカーは、泥よけの部分が強化されておりまして、弾が効きません」
『分かった、あとは任せて』
「かしこまりました、お嬢様」
〇
武たちはマップを頼りに、ワンボックスカーの現在地に到着すると、レッドスピーダーの後ろを走る組員のセダン車がレッドスピーダーに向けて銃撃していた。
「それじゃ、うるさいハエを追っ払いましょう」
そう言うとレイは、カーナビディスプレイの右隣に並ぶボタンの中から、「MINI GUN」のボタンを押した。
すると、運転席と助手席の間にある小物を置くスペースの底の部分が、瞬時に後ろへスライドし、下から戦闘機の操縦桿のようなジョイスティックコントローラーが現れた。そしてディスプレイにはミニガンに取り付けられたカメラの映像が映し出され、画面真ん中に照準線が表示される。
護衛の車に乗る組員も武たちに気づき、標的をレッドスピーダーからレイドマスターへ変え、拳銃を撃ちまくる。当然だが、レイドマスターも防弾なので武たちに影響は無い。
レイはミニガンの照準を組員のセダン車に合わせ、コントローラーのトリガーボタンを押した。
ミニガンが火を噴き、セダン車のトランク部分はあっという間に穴だらけになると、燃料タンクにでも当たったのか、出火し始めた。
ハンドルを握る組員は、後部から出た火を見てパニックになり、ハンドル操作を誤り、近くの電柱に激突した。
続けてレイは、最後の1台のセダン車に照準を合わせて、トリガーボタンを押した。
しかし、数発撃った瞬間、ミニガンから空回りする音が鳴り、同時に弾が出なくなってしまった。
レイが「アレ?」と間の抜けた声を漏らすと、タブレット画面の下の所に「残弾0」の文字が表示された。
「弾切れ⁉」
「〈そりゃあれだけ撃てば弾も切れるわな〉」
「アンタが撃ち過ぎたんでしょ!」
「〈えっ、俺の所為⁉〉」
弾切れだと悟った組員は再び助手席から身を乗り出し、銃撃を開始する。今度はサブマシンガン・ベレッタ12を使ってきた。
「〈どうする?〉」
「今狙ってる」
ミニガンは弾切れなのに、レイはミニガンを仕舞おうとしない。
コントローラーの上の部分に付いているスイッチを上にずらすと、タブレット画面の照準線を組員の車に合わせようとしていた。
そして照準線と組員の車が重なり、数秒経った瞬間「LOCK―ON」の表示が現れ、レイはコントローラーの親指付近のボタンを押した。
すると、小型のミサイルが発射された。
実は、ミニガンの左横に小型のミサイルが二発、縦に並ぶように搭載されていたのだ。
ミサイルを受けたセダン車は、爆風で前転するような形でひっくり返った。
「〈オイオイ、生きてるかぁ?〉」
武の心配に答えるかのように、セダン車に乗っていた組員たちは、何とか車の外へ這い出ていた。
「残りはあのワゴンだけね」
「〈でも弾が通じないマッドガード、って言うか弾避けが付いてるってことは、ワゴンも防弾かな?〉」
「そこまで余裕はないと思うけど」
「〈だといいな〉」
武はアクセルを踏み込んだ。
ワンボックスカーに向けて体当たりでもするのかと思えば、レイドマスターはワンボックスカーを追い越し、ワンボックスカーの前に。
「ジイ、備えて」
『かしこまりました』
レイはレイドマスターのディスプレイを操作して、バックモニターの映像を見ながら、後ろを走るワンボックスカーに狙いを定めると、ディスプレイの左隣に並ぶボタンの中から「BOMB」のボタンを押した。
すると、リアバンパーの下の部分が開き、そこから無数の小さなテトラポットのような物が散らばった。
ワンボックスカーのタイヤがそれを踏んだ瞬間、爆発が起こる。
爆発の威力はそれほど大きくないが、タイヤがボロボロになり、走行が困難になったワンボックスカーは仕方なく停車したのだった。
武もレイドマスターを止めると、ディスプレイの左側にあるボタンから「SMOKE‐R」のボタンを押した。
レイドマスターの後部から白煙が勢いよく噴き出し、ワンボックスカーの視界を完全に奪った。
「武、もしかしたらサーモグラフィーモードゴーグルを着けてるかもしれないから気を付けて」
「〈わかった〉」
そして、武はサングラスのサーモグラフィーモードに切り替え、レイドマスターを素早く降りると、ワンボックスカーの中に居る組員に注意を払う。
案の定、ワンボックスカーの中に居る組員の目に、ゴーグルのような物が見える。
組員はドアの窓を少しだけ開け、車内から武を銃撃していた。勿論、能力を発動した武に、弾は当たらない。
武に注意が逸れている隙に、レイはレイドマスターの後部に置かれていたグレネードランチャー・GL‐06を取り、折りたたまれているストックを立て、車を降りると、ランチャーを構え、弾を発射した。
弾はフロントガラスを突き破り、車内へ。
しかし、弾は爆発することは無く、代わりに弾の底の部分から白い煙が噴射。
すると、車内に居る組員たちが涙を流しながら咳き込み始めた。弾は催涙弾だ。
さすがにガスマスクまでは用意していなかったようで、耐え切れなくなった組員たちは車の外へ逃げ出てしまった。
武は助手席から出てきた組員の足を撃ったが、レイはというと、運転席と後部から出てきた組員をウィッチブレイドで切りつけた。
それを見た武は、「容赦ないな……」と首を横に振った。
組員を一掃すると、武とレイはそれぞれワンボックスカーのサイドのスライドドアを開け、ガスを外に逃がし、それを終えると、後部座席を見た。
後部座席の床には、ジュラルミンケースが2つ並んでいた。
レイが爆弾探知の小型タブレットを両方のケースに当ててみるが、今度は反応が無い。
武とレイが、それぞれジュラルミンケースを開けると、中にはケースいっぱいの札束が入っていた。下の方を捲ってみるが、今度は偽物ではないようだ。
「〈2億あったのか〉」
「そうみたいね」
それぞれケースを持つと、パトカーのサイレンが聞こえてきた。
「〈退散しよう!〉」
急いで2人はレイドマスターに乗り込み、その場を後にした。