2話 マシン・レイドマスター
「これでアイツらも追いかけられないだろう」
組員の1人が確信したように言った。
通路を二重に塞いだ理由はブラックウィザードのデロリアンを妨害するためだ。
確認できただけで、デロリアンに搭載されているロケット弾は1発、一列目が破壊されたとしても、もう一列目の車のバリケードがそれを塞ぐ。
マシンガンが残るだろうが、それでも道を開けることはできないだろう。
そんなことを考えていると、遠くから車のエンジン音が聞こえてきた。
「来た……なっ⁉」
組員の目に飛び込んできたのは、ブラックウィザードが乗るデロリアン――ではなく、1台のSUV車。フロントには頑丈そうなガードバンパーが取り付けられた大型のタイプだ。
「何だ、あれは⁉」
作戦で予想していた車と大分違う車があらわれたことで、他の組員たちも少々焦っていた。
SUV車はバリケードにしていた車に向けて猛スピードで迫る。
さすがに突っ込んでくると察した組員たちはバリケードにしていた車から離れて行った。
そしてSUV車は、バリケードにしていた車に衝突。その光景はまるで、策を突き破る猛獣のようだ。
これこそ完成されたレイドマスターだ。
レイドマスターはブラックウィザードたちが居る倉庫の前でターンして方向転換し止まった。
それでも、まだブラックウィザードたちが抑えられなくなった訳ではない。
何故なら、バリケードが無くなっただけで、まだ組員たちは動ける。出てきたところで狙い撃ちされるのがオチだ。
組員たちは、逃がすまい、と拳銃を構えながら目を光らせている。
しかし、レイドマスターから現れたある物を見た瞬間、一気に表情が凍り付くことになる。
レイドマスターの右後部寄りの屋根の一部が上昇し、その下から出てきたのは、六角形を描くように6つの銃口が並ぶ多銃身の大きな銃。
銃身の長さが20センチくらいで、通常より短めだが、アクション映画などでお馴染みのその銃の正体は――
「――ミニガンだぁぁぁー‼」
組員の1人が叫び、それを聞いて他の組員も一目散に逃げ出した。
そして、レイドマスターのミニガンの銃身が回転を始めた瞬間、銃口が火を噴いた。
事実、銃弾を放つミニガンの銃口は、本当に火を噴いているようにマズルフラッシュが絶えず、飛んで行く銃弾も、まるでレーザーのように一直線に繋がっているようにも見える。
それを受けた車は、あっという間に穴だらけ、ハチの巣という言葉では生温い、むしろザルと表現した方がしっくり来るだろう。
中には燃料に引火したのか、発火する車も現れた。
〇
武が持つ小型タブレットの画面には、ミニガンのカメラからの映像が映し出されていた。
当然ミニガンをコントロールしていたのは武だが、実際に使ってみると、爽快感もあるが、同時に想像以上の連射速度に、むしろ死人が出ていないかとても心配になった。
映画のサイボーグのように、スキャンした後に「死傷者0」の表示が欲しいところだ。
「〈野々原さん、本当にあれで連射速度下げたんですか⁉〉」
『はい。毎分3000発位に』
(それ、1秒に50発撃ってる計算ですよ‼)
何だか恐ろしさを感じた武。
すると、そんな武の心境を全く知ることの無いレイが、冷静に物事を進めようと武に声を掛けた。
「行きましょう」
その一言でハッと我に戻った武は、レイと一緒にグラッピングフックガンを使って地面に着地し、レイドマスターに乗り込んだ。
運転席に乗り込んだ武は、シフトレバーを「D」に入れ発進。
助手席に座るレイが、グローブボックスを開け、取り付けられた小さなボタンを押した。
すると、ダッシュボードからタブレットが伸び、立ち上がる。
レイはタブレットを操作してマップを表示させると、マップを移動する赤い丸が現れた。
「〈野々原さん、状況は?〉」
『まだ追跡できていますが、ちょっと周りのハエがうるさいですね』
「〈すぐに向かいます――ところでレイ、レッドスピーダーが追ってる車で間違いないのか?〉」
武がレイに尋ねる。
本当にレッドスピーダーが追いかけているワンボックスカーに金があるのか、まだ確証がないからだ。
だが、レイに抜かりはない。何故なら――
「実を言うと、あのお金の1枚に細工したの」
「〈細工?〉」
「取引の情報を聞いたから、荒松組のシノギで使っている飲食店の1つに行って、ジイ特性の放射性ペイントを塗った一万円札を潜り込ませたの」
「〈もしかして、今マップに表示されているのがそう?〉」
「そういうこと」
「〈ところで、その放射性ペイントだけど〉」
「大丈夫、3日で効果は消えるから」
「〈効き目じゃなくて、放射性物質の人体の影響のこと?〉」
「……。ジイの話だと人体には無害らしいわよ」
「〈本当に信用していいの⁉〉」
何故か武から視線を逸らして自信なさそうに話すレイを見た武は、内心本当に人体に影響はないのか不安になった。
「とにかくアイツらを早く追うっ!」
(なんか誤魔化された気がする……)