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WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)  作者: 木村仁一
第13章「黒歴史仲間」
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1話 集金

 真夜中のとある埠頭。その近くに倉庫が密集している場所があった。

 その中の1つの入り口に二人組のチンピラが見張っていた。更にその屋根の上にも2人見張りが居る。

 すると、入り口の周りに次々と車が止まった。車種は軽自動車からワンボックスカーとバラバラだ。

 それぞれの車から降りてきたのは組員で、それぞれ手にはアタッシェケースが握られている。

 チンピラが「お疲れ様です」と挨拶するのを横目に、組員たちは倉庫の中に入って行った。

 倉庫内は大型のトレーラーが横に6台は余裕で収まるほどの広さはあるだろう。

 積み重ねられた木箱の壁を迷路のように避け、建屋の真ん中の辺りに来ると、そこには1台の投光器に照らされた大きなテーブルが置かれており、その周りには先に到着したのだろう、組員と同じようにアタッシェケースを持った人間が数人も居た。

 テーブルの周りに居るのは、黒富士組系・荒松組の組員たち、その中には頭の毛が1本もないスキンヘッドで、頭や顔の所々傷が目立つ男が居る。荒松組の幹部、岩屋いわや シゲルだ。

 組員の何人かがそれぞれアタッシェケースを持っており、それを用意されていた大きなテーブルの上に置くと、ケースの中から無造作にお札を取り出した。

 これから行われる取引の為に、各地にある、シノギ(暴力団の収入源)の店から集めたものだ。

 やがてテーブルにはお札の山が出来上がる。ざっと見ても数億はあるだろう。


「おい、数えろ」

「はい」


 岩屋の命令に組員たちはそれぞれお札を数えだした。

 集められた札束を百万単位でまとめると、輪ゴムで止め、今度はジュラルミンケースに札束を入れた。


「終わりました」

「よし、見張っていろ」

「はい」


 組員に命令を出した時、岩屋のスマートフォンに着信が入る。


「はい。ご苦労様です――」


 電話の相手は組長の荒松だ。


「――何ですって⁉」


 荒松からの連絡を終え、岩屋は電話を切った。


「どうしたんですか?」


 組員の1人が岩屋に訊いた。


「取引が延期になった。向こうで問題が起こったらしい。予定変更だ、金は――」

 

                 〇

 

 倉庫の裏側を見張る二人組のチンピラの足元に、何かが転がってきた。


「何だ?」


 チンピラの1人がそれを拾ってよく見ると、小さなコーヒーの缶のような物。


「……?」


 チンピラ2人が逸れに見入っていると、底の部分が下にスライドした。


「えっ?」


 突然の異変に状況の理解が追い付かない内に、スライドした底からガスが噴射、チンピラたちは意識を失い、その場に崩れた。

 すると、意識を失ったチンピラたちに2つの人影が近づく。


 1人は、髪の毛も肌も人並み以上に白く、黒いロングコートの長い襟で顔を隠しているのが、黒富士組専門の暗殺者・ホワイトウィッチことレイ。

 もう1人は、サングラスとネックウォーマーで顔を隠し、レイとデザインは違うが黒のロングコートを着ているのは、レイと一緒に恩師を殺した犯人を追うタケル。ちなみに正体は白摩はくま署の刑事だ。

 そのため、ネックウォーマーに仕掛けているボイスチェンジャーで声も変えている。


 2人はチンピラたちを何処かへ移動させると、レイがグラッピングフックガンのワイヤーを倉庫の屋根に向かって飛ばした。

 ワイヤーを伝って倉庫を登ると、屋根の上が見えるギリギリのところで止める。屋根の上に居ると思われる見張りの様子を見る為だ。案の定、屋根の上にも見張りが二人居る。

 レイはステイクランチャーを取り、見張りに向けて杭を飛ばした。

 見張りを倒すと、改めて屋根へよじ登ると、武も同じように屋根へ上る。

 武の手には、1メートル程の長さの正方形の棒が4本あり、その端の部分をL字のジョイントのような物に差し込み、枠状の正方形の物を作った。

 その棒の一面は、くの字に窪んでおり、その面を下にするように置くと、2人は離れ、武はリモコンを取り出し、スイッチを入れる。


 ボンッ‼

 

 爆発音の後、ドン‼ という音が聞こえた。

 爆発した跡を見てみると、先ほど仕掛けた枠に沿ったかのように綺麗に正方形の穴が開いている。

 先ほどの棒の正体は、解体工事などで使う金属切断に使う専用の爆薬だった。ただ、爆発するので、当然音も大きく、不意打ちなどには向かない。

 しかし、今回は別だ。


「〈()()()()()()()、って言っていたけど――〉」


 武が言った瞬間、倉庫の中から無数の銃弾が飛んできた。


「〈本当に大丈夫か?〉」

「いいから作戦通りやるっ」

「〈了解〉」


 どこか腑に落ちない武は、少しムッとしながら拳銃ファイブセブンを取り出すと、下から飛んで行く銃弾を避けながら、倉庫の中にある投光器のランプを撃った。

 倉庫内が暗闇に支配されると、「来たな! 訓練通りにやれ!」という声が聞こえた。


(レイの読み通りだ)


 武は発煙筒を投げ入れ、サングラスの左の蔓にあるボタンを押して、熱で物を見ることが出来る、サーモグラフィーモードに切り替えた。レイもサーモグラフィーゴーグルを着ける。

 武はグラッピングフックガンのワイヤーを屋根に打ち込み、倉庫の中へ。

 暗闇に加えて煙で視界が全く聞かない組員たちは、あたふたして――いない。それどころか、姿すら見当たらなかった。


(ひょっとして⁉)


 何かを察した武は、慌ててグラッピングフックガンとベルトを繋ぐフックの途中にあるボタンを押し、グラッピングフックガンをベルトから外した。そこまで高さがあった訳ではないので、足から着地しても、少ししびれるくらいで済んだ。

 しかし、問題はこの後だ。

 木箱の陰から大勢の組員が拳銃を手に姿を現した。その目にはゴーグルが着けられている。

 武は左右の懐からファイブセブンを取り出し、二挺拳銃に。

 すると、組員たちは武に向けて発砲。

 武は能力を発動し、アクロバティックなダンスでも踊るかのように銃弾を避けながら、組員たちの手足や拳銃を撃ちぬいた。

 視界が利かないはずなのに武に向けて正確に撃ってくるということは、組員たちが着けているゴーグルも恐らく武のサングラスと同じ効果を持つサーモグラフィーゴーグルだからだろう。 

 組員たちの動きを封じると、武は金の入ったジュラルミンケースを拾い、素早く切り離した宙吊りのグラッピングフックガンを再びベルトに繋げ、ワイヤーを巻き取って屋根の上へ。

 ジュラルミンケースを屋根に置くと、レイがケースを受け取り、予め起動していた小型タブレットをケースにかざした。今まで潜入でカメラのハッキングなどに使っていた小型タブレットトとは違い、短いアンテナが2本伸びており、少し厚みがある。

 すると、画面のメーターグラフが一気にMAXを指した。


「まずい‼」


 レイはすかさずジュラルミンケースを屋根に開けた穴へ投げ入れると、ボンッ‼ という爆発音と共に穴から大量のお札が舞った。

 

 この小型タブレットは爆弾の探知装置で、僅かな爆薬の臭いと合わせて起爆装置や時限装置の電波も探知することが出来る。

 ただし、爆薬に似た臭いも探知してしまう弱点があるので、起爆装置などの電波も一緒に探知しないとメーターグラフが動かないようになっているが、それでもまだ100パーセント正確とは言えないのが現状だ――今回はうまく作動したが。

 

 武が飛び散った一枚のおさつを掴んだ。爆発の所為で焼けたのか、所々虫に食われたような穴が開いているが、それよりも気になることがある。

 何故かお札には株価の情報が描いてあるのだ。


「〈ふーん。最近のお札は株価の情報が印刷されているのかぁ〉」

「ボケかましてる場合じゃないでしょ。偽物ということは……」


 キー‼ というタイヤが軋む音が聞こえ、武とレイがその方へ視線を向けると、1台のワンボックスカーが埠頭の外へ向かっており、それに続いて2台のセダン車と 1台がついて行った。


「ジイ、レッドスピーダーを」

『はい、お嬢様』


 野々原(ののはら)が返事を返した後、何処かに隠されていたレッドスピーダーが現れ、ワンボックスカーを追いかけて行った。

 すると、何処かに隠れていたのか2台のセダン車がまたレッドスピーダーを追いかけていく。

 2人がその様子を見ていると、突然目の前に強い光が当てられた。目の前だけじゃない、様々な場所から武たちが居る屋根に向けて光が伸びる。

 武が僅かに頭をあげて下を覗くと、埠頭の出入り口へ続く通路は車で二重に塞ぎ、銃を持った組員たちが、それをバリケードにしている。


「〈さて、タクシーを呼ぶか〉」


 そう言って武は小型タブレットを操作した。

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