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WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)  作者: 木村仁一
第2章 単独
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2話 狩谷

 日も暮れ、街には街灯が点灯し、建物の明かりが目立った頃。

 元は居酒屋などの店だったのだろう、入り口の上や横にお店の名前が書かれた看板が掲げられた建物が並ぶ街の裏通りがあった。

 今は開いている店がほとんど無く、シャッター通りと化している。

 建物の本来は白い色だったコンクリートの壁は黒く変色し、手入れがされていないのは一目瞭然だ。


 その建物の1つに、黒スーツにワインレッドのシャツを着た全身ずぶ濡れの男が向かっていた。


 加藤だ。


 以前は小さなBAR(バー)だった建物を加藤が地主に賄賂を渡し、隠れ家として使っている。

 取調べ室で谷に言われた通り、自分は駒でしかないかもしれないし、組に戻れば消される可能性は高い。

 だからといって、警察に出頭しても刑務所暮らしが待っている――どの道、黒富士組のことだ。刑務所に入っても刺客を送って自分を殺そうとするだろう。

 それよりも、ヘトヘトの加藤にとって今必要なのは休息だ。

 熱りが冷めてから高飛びのプランを考えればいいと考えた。

 加藤は鍵を開け店のドアを開けた。


 灯りのない店内は、多少の埃っぽさはあるが、客席やバーカウンターは残っており、内装も手入れをすれば、そのまま営業が可能なほど良好な状態で残されていた。

 だが、このバーが閉店してしまった理由は、12坪ほどの狭い店内の半分はカウンターと、テーブルを挟んだ向かい合わせの客席が占拠している、あまり快適とは言えない空間が原因だ。

 店としてはイマイチだが、隠れ家として使う分には申し分ない。

 組にも話していないので、加藤にとってここは、唯一安心できる場所。


 のはずだった。


「……‼」


 いきなり加藤は背後から店内へ突き飛ばされた。

 床に顔面から着地した加藤は起き上がる間も無く、2人の男に両腕を床に押し付けられ身動きが取れなくなった。


「何だお前ら⁉」


 加藤の問いに、男たちは答えないが恐らく組員だろう。

 するともう1人、大男が店の中へ入った。


 男は狩谷かりや 拳禄ケンロク

 前尾が使う殺し屋で、40代前半。

 釣り目のような形をしたレンズの金フレームサングラス。口髭と顎髭が口の周りを囲み、頭を覆うような黒い円形の帽子を被っている。

 服装はグレーのジャケット、その下は白いネックのシャツ、腹部をガードする目的もあるのだろうか黒い腹巻をしている。

 何より、服の上からでも分かるほどの鍛えられた強靭な肉体は、まるで鋼の鎧のような印象を受ける。

 

 その狩谷の右手には、銃口にサイレンサーを付けた拳銃が握られていた。


「テメェら離せ‼」


 殺気を感じたのか、加藤は何とか逃れようと体を揺さぶるが、明らかに力の差があり過ぎる。

 そんな抵抗を続ける加藤に向け、狩谷の拳銃が火を噴いた。

 サイレンサーの効果で、銃声は微かに聞こえるものの、軽い破裂音のような音なので、実際に撃った現場を見ない限り、銃声と認識するのは人はいない音だ。

 倒れた加藤の頭部から血が流れ、息の無いことを確認した狩谷は、携帯電話を取り出し、前尾を呼び出した。


「終わりました」


 狩谷の太く低い声には、まるで感情を持たない機械のような印象を受ける。

 そして一言だけ言うと、携帯電話を切った。


                 〇


 前尾組本部――

 社長室の椅子に深く座る前尾は、狩谷からの報告を聞き、満足そうに笑みを浮かべている。

 携帯電話を切ると、前尾は立ち上がり、本棚にある辞書に偽装したケースの中に携帯電話を仕舞った。

 万が一に備え、狩谷との連絡はその携帯電話でのみ連絡を取っている。

 トラブルの種が1つ無くなったことに安堵し、前尾は一息つくと、再び椅子に深く座り込んだ。

 すると、誰かがドアをノックした。


「入れ」

「失礼します」


 入って来たのは長身の男。前尾の部下、俊山としやまだ。

 頬に切り傷があり、長方形のレンズの眼鏡の下には、つり上がった目は狐のようだ。

 

「分かったか?」


 前尾は俊山に尋ねた。

 伊能組いのうぐみが使っていた置物の加工所――結晶を密輸する為の――をホワイトウィッチに潰されてから、内部の情報漏れが発覚している。

 そして、加藤の武器工場を警察に抑えられたことも、恐らく情報が流れたからだろう。

 前尾は組の中でも信用できる俊山に、秘密裏に他の組員やその知人を調べさせていた。


「はい組長おやじ。うちの森岡です」


 やはり裏切り者がいたようだ。

 森岡は伊能組とも情報のパイプを持っている。伊能組の加工所も奴の口から洩れたのかもしれない。


「森岡の相手は?」

「未確認ですが、どうやら相手は女みたいです。白人系の」


 前尾は眉をひそめた。黒富士組系の情報を集めている女の話は前尾の耳に入っていたからだ。


「我々の次の計画も知られている訳か?」

「恐らく。ですが女にはまだ渡っていないと思いますので、今すぐ消せば」

「いや、女と接触してから、まとめて始末しろ。くれぐれも気づかれるなよ」

「分かりました」


 一礼すると、俊山は部屋を出た。

 前尾は俊山がしくじるとは思っていないが、少し気になったのは、裏切り者が情報を渡す女の正体だ。

 情報屋かホワイトウィッチが雇った代理人であれば、よほど腕が立たない限り、俊山でも問題無く女を片付けられるだろう。

 だが、そう装ってホワイトウィッチ本人が接触していたらどうだろうか。

 加藤の武器工場のことも佐久間の内通者によれば、「タレコミ」があった、との話だ。

 ホワイトウィッチが情報を手に入れ、警察にタレこんだとも考えられる。

 もし例の女がホワイトウィッチならば、装備などを駆使して逃げられるか、最悪、俊山たちが殺される可能性は高い。そうなれば確実に自分の計画を邪魔しに来るだろ。

 だが、前尾に焦りはない。

 もし俊山がしくじったとしても、前尾には秘策があるからだ。

 前尾は机のノートパソコンを開くと、あるプログラムを立ち上げた。


「もうじきこれも完成する」


 パソコンの画面には、プログラムのコードが表示され、最後に前尾がフラッシュメモリーをパソコンに差し込んだ。

 すると、画面にローディングの表示が現れ、ロードが終わると、さらに画面を走るプログラムコードがさらに書き加えられた。

 そのたびに、前尾の顔には笑みを浮かべた。

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