8話 レイVSクリーナー
海が一望できるバイパスを疾走する1台のセダン車とオフロードバイク。
黒のヘルメットにライダースーツを身に纏うライダーの手には、サプレッサーを付けたサブマシンガン・MAC11をセダンに向けて撃っている。
セダンの中に居る鬼柳もバイクに向けて拳銃を撃ち返していた。
何とか鬼柳とクリーナーのバイクに追いついたレッドスピーダー。
『〈レイ、今どこだ?〉』
「今、バイパスを南下中」
『〈了解〉』
クリーナーもレッドスピーダーに気づき、レッドスピーダーに向けてサブマシンガンを発砲。
雨のように弾が着弾するが、防弾のレッドスピーダーのボディーには、当然通じない。
『〈待たせたな〉』
「遅いわよ――って、ちょっと待って⁉」
レイがルームミラーを覗くと、ダークスピーダーの姿が見えたが、よく見るとダークスピーダーの後ろを1台の大型バイクが見える。
それに乗っているのは武だ。
「どこから持ってきたの、そのバイク⁉」
『〈鬼柳対策にちょっとね〉』
「えっ?」
前に一度、鬼柳とのカーチェイスを経験している武。
ダークスピーダーのマシンガンをかわし、ミラー越しでの射撃を得意とする鬼柳、このままでは、前回のように苦しい戦いになるのは間違いない。
鬼柳の車は隙をついて、街の方へ曲がっていった。
クリーナーのバイクはそれについて行けず、そのまま直進し、二手に分かれる形になった。
「クリーナーは私に任せて、武は鬼柳を」
『〈了解〉』
レイはクリーナーを野々原が遠隔で操作するダークスピーダーと武は、鬼柳を追いかけて行った。
〇
埠頭に差し掛かったクリーナーのバイクとレッドスピーダー。
変わらずクリーナーは、サブマシンガンをレッドスピーダーに向けて発砲している。
「鬱陶しいわね」
レイはレッドスピーダーの「M‐GUN」のボタンを押し、マシンガンを出すと、クリーナーのバイクに向けて発砲、銃弾を受けたバイクは転倒した。
レッドスピーダーを止めると、ドアを少しだけ開けてクリーナーの様子を窺った。
クリーナーは横たわったまま動かない。
レイは拳銃を抜いて慎重にクリーナーに近づいた。
近くに落ちていたサブマシンガンを蹴って遠ざけた後、クリーナーのヘルメットを脱がした。
ヘルメットの下から現れたのは、黒髪のアジア系の女性だった。
もっといえば――
「日本人……?」
レイが呟いた瞬間、クリーナーの女の目が、〝カッ!〟と開き、倒れた状態から体を捻り、その勢いてレイの足に蹴りを入れ、それを受けたレイは地面に倒れてしまった。
「ええ、そうよ!」
女は日本語で返した後、腰のナイフケースからサバイバルナイフを取り出し、倒れるレイに素早く近づくと、レイの首を掴んだ。
しかし、レイも負けてはいない。両手で左右同時に女のこめかみにチョップをお見舞い。痛みを受けた女は、自分のこめかみを抑えた隙に、レイは女の腹部に向けて蹴りを入れ、女を遠ざけた。
そして立ち上がったレイは、左手のウィッチブレードを飛び出させると、構える体制を取った。
「なるほど、アンタが噂のホワイトウィッチね……」
「ええ。そう呼ばれているわ」
「いいわね。アンタを殺せば、黒富士組から小遣いが出るかも」
そう言うと、女はナイフを逆さに持ち直し、構える体制を取った。
「やれるものなら、やってみなさい!」
レイが駆け出すと、女も同じように駆け出し、すぐさま刃を交える。
その後も、互いに攻防を繰り返していると、女がもう一本のナイフを取り出した。
両手にナイフを握り構える女。
その左手に握るナイフを見た瞬間、レイの目が鋭く変わった。
女のナイフのグリップには、妙な出っ張りが見える。
(もしかして……)
警戒しながら、レイはウィップダガーに手を伸ばした。
「さぁ、続きを始めましょうか……」
女がそう言うと、ナイフを構え直す際に、左手のナイフの刃をレイに向けた。
バシュッ!
金属音と共に、女のナイフの刃が、レイに向かって飛んだ。
女のナイフは、スペツナズナイフ。
強力なバネの力で、刃の部分を飛ばす武器だ。
それを予想していたレイは、咄嗟にナイフの刃を避けると、今度はレイがウィップダガーを抜き、ウィップダガーの刃を飛ばした。
それがクリーナーの女の頬をかすった。
「くっ……私の顔に……傷を……。飛び道具なんか使って!」
「アンタがそれを言う⁉ ……でも、決着はついたから」
「何ですって? ……うっ!」
突然、女が苦痛の表情を浮かべ、膝をついた。
「……き、貴様、何をした⁉」
「実は、ウィップダガーの刃に即効性の麻痺薬を塗っておいたの。本当は鬼柳用だったけど、役に立ったわね」
「……くっ、卑怯……な……」
「そっくり返すわよ」
女は何とか必死に立ち上がろうとするが、それでも麻痺薬のせいで足は、ガタガタ、と生まれたての子羊のように震えており、とても戦える状況ではない。
麻痺薬の効果も1時間は持つ。あとは警察に任せればいいだろう、と思った瞬間、クリーナーの女は、自分のネックレスを引っ張り出すと、息を切らしながらそれを口元に運ぶ。
「……地獄に道ずれよ」
「……⁉」
危険を察知したレイは、その場から飛び、ダイブする形で地面に伏せると、女はネックレスを噛み、その瞬間に爆発した。
レイが頭を上げると、女が居た場所には、白煙と血しぶきの跡が残っている。
「……いらないプロ意識持っちゃって……武、大丈夫かな……?」