7話 逸れた理由
鬼柳のNTWに向けて銃弾を放つ武。
せめて銃口に弾を詰まらせれば、と考えてのことだったが、よくよく考えてみたら20ミリ口径の銃口に7,62ミリの弾を撃ち込んだところで効果があるのだろうか?
流石にガンマニアの武でも未知の可能性だ。
ズカーン‼
まるで大砲でも撃ったかのような音が、鬼柳の居る建物の方から聞こえた。
「〈ダメだったか……?〉」
鬼柳の狙撃を止められなかった、と思った瞬間に、黒富士の屋敷の上空で、小さい爆発が起こったのが見えた。
「もしかして今の爆発って?」
「〈鬼柳の弾……たぶん……〉」
「随分、豪快に外したわね」
でも何故だろうか。
スコープを破壊したとはいえ、武の記憶では、あのNTWは二脚とストックに単脚が付いているので、狙いをつけて固定しているのなら、そのまま撃てば当たる可能性は高い。
それなのに外したということは、まだ照準が定まっていなかったか、それとも銃の欠陥なのか、それとも……。
「早く、鬼柳を抑えるわよ!」
「〈えっ? ――あっ、分かった!〉」
レイの声で考えるのを止めた武は、サングラスを戻してレッドスピーダーに乗り込むと、鬼柳の居るビルまで向かった。
〇
未だに弾道が逸れた理由が分からない鬼柳。
スコープを壊されたことを考えると、恐らくクリーナーなのか、黒富士が雇ったスナイパーが居たに違いない。
だとしても、狙いは問題無かったのだから、外す理由はただ一つ――
銃弾を撃った……?
それならば、弾道が大きくずれたもの頷けるが、飛んで行く銃弾を撃つことなど、いくらプロのクリーナーでも不可能だ。
だとすると、他の誰かが……?
そんなことを考えていると、2台の車が近づいて来るのが見えた。
スコープを失った今、もう一度黒富士を狙撃するのは無理だ。
鬼柳は仕方なく、ライフルに付けた爆弾を起動し、その場から離れた。
〇
ビルの側に着いたレッドスピーダーから急いで降りる武とレイ。
「〈早く2階に〉」
急いで鬼柳の居た部屋へ向かおうとした。
その時だ。
ドカーン‼
鬼柳が居た部屋が爆発したのだ。
「〈まさか、自爆した⁉〉」
「いいえ、証拠を吹き飛ばしたのよ」
「〈逃げられたか……?〉」
「まだ遠くには行っていないはずよ」
ビルの裏の方から1台の車が発進する音が聞こえた。
「〈本当だっ〉」
鬼柳が車で逃げたと気づいたその時だ。
微かにだが、乾いた破裂音のような音が連続して聞こえた。同時にスポーツバイクのような音も聞こえる。
「もしかして⁉」
「〈マシンガン⁉ でも誰が⁉〉」
すると、レイがヨットハーバーのことを思い出す。
ワンボックスカーから鬼柳を狙撃するために伸びたクリーナーのライフルの銃身が引っ込んだ時、すぐにワンボックスカーが発進した。
と、いうことは――
「もう1人居る!」
「〈誰が?〉」
「クリーナーよ。もしかしたら、張っていたのかも」
「〈なんだって⁉〉」
「二手に分かれましょう」
「〈分かった〉」
武が返事をした途中、心臓を揺さぶるような爆音が武の耳に入った。
大型バイクのエンジン音だ。
武が音の方を見ると、そこにはアメリカンスタイルのライダー――というより暴走族――スタイルの3人組がバイクに乗って現れた。
ライダーたちは――
――何だ、あれ⁉
――映画の撮影⁉
――など、全く状況を飲み込めず、呆然と爆発した部屋を見ていた。
ライダーたちを見た武は足を止めた。
レイがレッドスピーダーに乗り込むと、武は「ちょっと待って」と、レッドスピーダーの助手席へ向かい、後部にあったライフルとその横に置かれた予備のマガジンを手に取り、マガジンを取り替えると、ボルトハンドルをスライドさせた。
「何をしてるの⁉」
「〈いいから追ってくれ、後で説明するから〉」
「ちょっと……!」
武がドアを閉めると、レイは仕方なくレッドスピーダーを走らせた。
「〈野々原さん、ダークスピーダーを運転して、鬼柳を追ってください〉」
『武様はどうするんですか?』
「〈すぐに追いかけますので、お願いします〉」
『分かりました』
野々原がコントロールを始めたのか、ダークスピーダーは勝手に走り出した。
すると武は、ライダーたちに近づいた。
「〈ちょっと?〉」
「……なんだ? スカウトなら大歓迎だぜ」
目つきの悪いスキンヘッドの男が武を睨みつけた。
「〈バイク貸してくれないか?〉」
「おい、ふざけん――」
スキンヘッドのライダーが言いかけると、武は威嚇(?)のため、拳銃を抜くと、地面に向けて1発だけ発砲。
地面に弾がめり込んだ。
「本物か……? ――ど、どうぞ……」
本物の拳銃だと悟ったライダーがバイクを差し出した。
「〈すまない、すぐに返すから〉」
武はバイクを走らせた。