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WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)  作者: 木村仁一
第12章「スナイパーポイント」
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2話 工作

 レイの隠れ家にあるサポート部屋では、野々原(ののはら)がレイと通信をしていた。

 武が予想した鬼柳きりゅうの狙撃距離と、武を連れ出す方法を相談している。


『ジイ、何かい方法ないかしら?』

「そうですね……」


 野々原も考える。

 武のアリバイを作る為の方法など、本当にあるのだろうか。

 そこで野々原はある物を思い出す。


長峰ながみねの葬儀は夕方ですよね? あれが使えるかもしれません。武様の身代わりに出来る物があります」

『マネキンは駄目よ』

「勿論、動きます」


 すると、コンピューターから音が鳴り、画面には検索終了の文字が出ている。

 ネットの地図を利用して、葬儀場周辺で鬼柳が狙撃に使いそうなポイントを絞り込んでいたのだ。

 画面には、一ヵ所のビルが赤く点滅している。

 鬼柳が使うと思われる『砦河さいが二番町ビル』は5階建てで、そのビルの4階にある5つの部屋から屋上が赤く点滅を始めた。

 そのビルから葬儀場のエントランスまで、およそ150メートルとキャンプ場までの距離より長いが、エアバーストがある鬼柳のライフルなら、多少のズレは問題無いだろう。

 詳しくビルを調べると、このビルの4階の部屋は全てテナントを募集しているので、非常階段を上がれば、誰かに見つかるリスクも抑えられる。

 念のため、野々原自身も地図上から調べると、ここ以外で葬儀場のエントランスに向けて狙撃できる場所はあるが、ビルの中にある会社は営業しているので、誰かに見つからずに対物破壊ライフルを持って入ることは殆ど不可能のようだ。


「お嬢様、今鬼柳が狙撃に使うと思われる場所を特定しました」

『それで?』

「幸い一ヵ所だけです。5階建てのビルで、その屋上か4階に並ぶ部屋の中のどれかです」

『これならジイが造った()()()()()()を使わなくてもなんとかなるわね』


 レイの言う探知レーダーとは、鬼柳のライフルに搭載されているであろう、エアバーストシステム。それに使われる発射される弾頭と銃本体との距離を測る為のセンサーから放たれる電波を探知し居場所を突き止めるレーダーだ。


『でも、そう簡単にビルに入れるの?』

「入るのは簡単です。非常階段から登れば、あとは――」


 野々原が説明を終える前に、再びコンピューターから音が鳴り、検索終了の文字が出る。

 今度は建物が青く点滅している。

 これは鬼柳を狙うクリーナーの狙撃予想地点。

 クリーナーは鬼柳を狙う時にどんな手段を取るかは不明のままだが、ヨットハーバーのことを視野に入れると、ライフルによる狙撃の可能性も高い。


「お嬢様、クリーナーの狙撃予想地点を絞りました」

『絞れたの?』

「はい。ですが……」


 ここで大きな問題が発生する。


『もしかして多いの……?』

「はい」

『えっ、そんなにあるの⁉』

「はい……」


 野々原も気まずそうに言った。

 鬼柳の時とは違い、点滅している場所が多いのだ。

 高いビルなどで遮られる低い階のところや先ほどの営業しているビルは無理だが、それ以外に廃業したビルが幾つもある。

 葬儀場を狙う鬼柳とは違い、鬼柳を狙うクリーナーの方が狙撃に適した場所が多いのだ。

 鬼柳のライフルのように特殊な装置が付いている訳ではないので、武を寮から出して手分けしたとしても、鬼柳やクリーナーを見つけるのは困難に違いない。


『あっ! でも何とかなるかも』

「何か思いつきましたか、お嬢様?」

『ええ。こういう時こそ、()()()()()()


 レイの言っている意味が分からず、野々原は首を傾げた。


『ジイ、すぐに戻るから用意の方をお願い』

「かしこまりました」

 

                 〇

 

 県警の会議室では、大戸野おおとのが橘の報告を待っていると、1人の女刑事が資料を持って入って来た。

 女刑事は、結城ゆうきだ。


「警視、キャンプ場で見つかった弾の分析が終わりました。銃は南アフリカ製のダネルNTW、対物破壊ライフルです」


 そう言って結城は、大戸野に資料を渡した。

 資料には、ライフルと弾薬の写真が載せられていた。


「それと、弾頭からセンサーの破片のような物が見つかって、今調査しています」

「ご苦労」


 すると、1人の刑事が慌てた様子で部屋に入って来た。


「どうしたの、騒々しい⁉」

「実はブラックウィザードから電話が、大戸野(警視)を出せ、って言っています」

「何ですって⁉」


 大戸野は近くの電話の受話器を取り、転送ボタンを押した。


「はい?」


 大戸野が電話を取った。


「〈大戸野だな?〉」


 機械で変えたような低い声。

 間違いなくブラックウィザードだ。


「大下、今更声を変えても無駄よ」

「〈大下? まぁいい、それよりも横須賀のヨットハーバーに向かいな、鬼柳のクルーザーが泊まっている〉」

「何ですって?」


 ここで電話は切れた。

 しかし、話を聞いていた刑事が、大戸野に尋ねる。


「すぐに横須賀へ向かいましょう?」

「どうして?」

「言っていたじゃないですか。横須賀のヨットハーバーに、鬼柳のクルーザーが泊まっている、と」

「そんなの、大下のデタラメよ。行く必要はない!」

「しかし……」

「いいのよ!」


 武がブラックウィザードと信じて疑わない大戸野は、頑なに横須賀へ向かうことを拒んだ。

 だが、一つだけ疑問が残る。

 武の連絡手段は、寮の電話以外に無い。

 武が知る由も無いはずなのだ。

 大戸野は、西嶋にしじまに無線を入れた。


「こちら大戸野。大下に動きは?」

『部屋からは出ていません』

「電話してなかった?」

『さぁ、分かりません? カーテンが閉められているので中の様子までは……』

「先ほどブラックウィザードから電話があった」

『何ですって⁉』

「大下が何か外と連絡が出来る物がないか、すぐに確認しなさい! もし持っていたら直ちに連れて来るように!」

『分かりました』


 大戸野は無線を切った。


 その様子を見ていた刑事が、先ほどのブラックウィザードが言っていたことが気になり、所轄に連絡を入れる。

 ブラックウィザードの言う通りなら、鬼柳を追跡する手掛かりになるかもしれない、と考えたからだ。

 

                 ○

 

 武が部屋でテレビを見ていると、ドンドン、と玄関のドアがノックされた。


「どちら様ですか?」

「開けろ、大下」


 命令口調に、武は少しだけ、ムッ、とするが、渋々ドアを開けた。

 立っていたのは、西嶋と県警の刑事だ。


「どうしました?」

「大下、調べさせてもらうぞ」

「何を?」

 

 武の承諾を得る前に、西嶋たちは部屋に入った。


 しばらくすると、武の部屋がすっかり散らかり放題に。

 西嶋たちが何を探しているのかは分からないが、恐らくブラックウィザードだと確信をつく証拠だろう。

 しかし、いくら探したところで、ここには何も無い――正確には、ブラックウィザードに関わる品は、靴の通信機以外無い。

 一通り探し終えた西嶋たち。

 勿論だが、何も見つからない。

 流石に諦めたのか、西嶋は武に詫びを言って部屋から出て行った。

 

 覆面車の中に戻った西嶋。


「西嶋です。大下の部屋から通信機のような物は見当たりませんでした」

『そんなことないでしょ‼ ちゃんと探しなさい‼』


 無線からの大戸野の大声に、西嶋は思わず指で耳を塞いだ。

 本当にワガママな人だ。無いものは無いのだから、どうすればいいのだ……?

 仕方なく引き続き、武の監視をした。

 

                 〇

 

 同じ頃、とある飲食店が並ぶ通りを、2人の男が歩いている。

 2人とも黒富士組の組員だ。

 そんな2人が自分たちの車に戻ろうとしていると、前方から1人の男が歩いて来る。

 帽子を被り、顔の下半分は白く長い髭があるので、素顔は殆ど見えない。

 微かにだが、耳には補聴器を着けており、杖をついて腰を曲げている姿からして、高齢であることは誰の目から見ても明らかだ。

 すると――

 ドンッ!


「おい、気をつけろよ!」


 老人の男とぶつかり、組員が説教すると、老人は軽くお辞儀して「……すみません」と返した。


「チッ。ちゃんと周り見ろよ、爺さん」


 相手は高齢者、一応ちゃんと謝ったので、強く当たるのも大人気ないと思い、その場を後にした。

 その後も、他愛もない話で盛り上がると、話の流れから今日の長峰の葬儀の話題が出た。


「そう言えば兄貴、今日の長峰親分の葬儀ですよね? 総長は出るんですか? 狙われているんですよね?」

「それな……どうやら()()()()()()()()()、ってよ。誰か代わりをよこすんじゃないか?」

「そうなんすか」


 その後も2人は他愛もない話を続けた。

 

『それな……どうやら出ないかもしれない、ってよ。誰か代わりをよこすんじゃないか?』


 老人の耳に着けている補聴器から、先ほどの組員の会話が聞こえる。

 組員2人は気づかない、その老人が鬼柳だったことを。

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