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WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)  作者: 木村仁一
第12章「スナイパーポイント」
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1話 抜け道

 県警本部の留置場では、タケルが寝床で両腕を組みながら横になっていた。

 幸いというか皮肉にというか、今留置場に居るのは武だけ。

 ブラックウィザードと疑われている今、ただただ潔白が証明されることを願うことしかできない。

 そこへ、県警の刑事が慌て武の居る牢屋へ駆け寄った。

 武は、何事か、と顔を上げ県警の刑事の方へ向いた。

 県警の刑事は、武を見るなり首を傾げている。

 それを見て武は察した。

 どうやらレイが上手く動いたのだろう、武がブラックウィザードかどうかわからなくなっているのかもしれない。


「どうしました?」


 武が県警の刑事に尋ねてみた。

 

                 〇

 

 県警の一室――


「どういうこと⁉」


 大戸野おおとのの怒号が会議室に響き渡った。


「――何で大下おおしたが留置場に居るのに、ブラックウィザードが現れるの⁉」


 誰でもいいから答えろ、といわんばかりに、周りの刑事を睨みながら言うが、当然誰も答えられない。


「大下君がブラックウィザードじゃない、ってことじゃないですか?」


 たちばなが大戸野に向けて言った。

 それでも納得のいかない大戸野は、武とブラックウィザードが結びつくことはないか、と頭を回転させた。


 ――やっぱり、別人じゃないか?

 ――大下刑事は嵌められたのかな?

 ――何かトリックを使ったんじゃないか?

 

 など、県警の刑事の中で、様々な憶測が飛んでいた。

 すると、大戸野は何かを思いついた。


「そうよ! トリックよ! 大下はこっそり抜け出して――」

「――無理ですよ!」

「何ですって⁉」


 橘が大戸野の推理に異議を唱えた。


「ここから現場までの距離を考えてください? それに、どうやって留置場から外に出るんですか?」


 橘の正論に、大戸野は何も答えられない。

 それでも大戸野は、何か見落としていることはないか、と考える。


「待って、現場で確認されたのは車だけで、誰もブラックウィザードを目撃していない――そうでしょ⁉」


 確かに現場で確認されたのは車だけで、車内もスモークガラスだったので、ブラックウィザードの姿を見ていない。


「それでしたら、大下君を一時解放して、監視すればいいんじゃないですか?」

「そうね。――大下を出して、彼を監視しなさい。ただし、携帯電話とか外と連絡が取れる物は没収するように」


 刑事たちに命令を出し、その指示に従って刑事たちが動き出した。


「橘君、あなたは現場に行って、所轄から詳しいことを聞きなさい。それが終わったら、今夜の長峰ながみねの葬儀を監視して」

「了解」


 そう言って橘は部屋を後にした。

 

                 ○

 

 白摩署警察寮――

 その前に1台のセダン車が止まった。

 後部座席のドアが開き、降りてきたのは武だ。


「お世話様でした」


 武が県警の刑事に礼を言って寮の方へ足を運んだ。

 部屋に戻った武は、ドアをロックし、靴に仕掛けてある通信機を取り出した。

 携帯電話を取り上げられたままなので、これしかレイと連絡が取れる手段がない。

 耳に通信機を付け、通話ボタンを押そうとしたが、ふと玄関の外が気になり、音を立てないように、そっとドアに近づき、素早く鍵を開けてドアを開けた。

 ドアの向こうには誰も居なかったが、その代り、廊下の突き当りに人の気配を感じた。

 どうやら、武を見張っているようだ。

 武はドアを閉め、通信機の通話ボタンを押した。


『武様⁉』

「……やぁ、野々原(ののはら)さん」


 申し訳なさそうに答える。


『大丈夫ですか⁉ 待ち合わせ場所に居なかったので心配しました』

「すみません……。それでレイは?」

『繋ぎます』


 しばらく沈黙が流れると、レイの声が聞こえた。


『武?』

「レイ、今日はすまな――」

『――一体何をやっていたのよぉぉぉ⁉ 待ち合わせに来ないでぇぇぇ⁉』

「……悪かったよ」

『悪かった、じゃなくて、どうして来なかったのよぉぉぉ⁉』


 レイの怒号が頭を突き抜け、武は目を回した。

 そのレイの様子だと、恐らく鬼柳も取り逃がしたに違いない。

 待ち合わせ場所に来なかった武が悪いが、それでもちゃんと理由がある。

 武は頭を振って正気に戻すと、説明を始めた。


「聞いてくれ、県警の留置場でお昼寝させられるハメになったんだよ……」

『どうして県警に?』

沢村さわむらと会っていた時の動画から俺の声を分析したんだ。それで俺の声だって分かった」

『まさか、今も県警?』

「いや、白摩署の寮だよ」

『釈放されたの?』

「野々原さんに言われた通り惚けたのと、そっちがダークスピーダーを動かしたことで、俺はグレーになったわけ。早く連絡したかったけど、地下だったから電波が入らなくて」


 武は閉め切った窓のカーテンを少しだけ開けて、外の様子を窺った。

 近くのコインパーキングに車が数台。

 上手く紛れているが、その中に県警の覆面車があり、武の部屋を見張っている。

 捜査一課イッカ西嶋にしじま刑事と、もう1人県警の刑事だ。


「今でもガッツリ、監視されてる」

『抜け出せそう?』

「普通じゃ無理だよ。第一、出入口には管理人が居るし」

『それじゃ、長峰の葬儀には来られないわね……無理に出れば、武がブラックウィザードだ、ってバレちゃう』


 レイの言う通り、県警にマークされている武は、ここから出ることが出来ない。

 だからといって、ダークスピーダーだけでは、出来ることは限られているうえ、武の無実を証明することには難しいだろう。

 ところが、武の口から思いもよらない言葉が出る。


「普通じゃ、って言ったでしょ? 実は抜け道はあるんだ」

『何ですって?』


 武はレイに寮の抜け道を説明した。


 元々この抜け道は、夜中にこっそり抜けだす為に使われていた物だった、と、かつて武と相部屋だったベテラン刑事が、酔っぱらった勢いで話していたのだ。

 その抜け道を利用していた刑事たちは、今は異動してしまったので、この抜け道を知っているのは、今や武を除いて他に居ない。


「まぁ、そういうこと」

『何でそんなものがあるのよ⁉』

「俺じゃなくて先輩に言ってくれ……」

『でも、非常階段に監視カメラとかないの? それに見張られてるでしょ?』

「大丈夫、非常階段は見張りが居る場所からなら死角で見えないし、幸いなことにカメラは無線式。ハッキングで何とかなるだろ?」

『それなら問題無いわね』

「そういうこと。ただ、掃除されてないから汚いかもしれないけど……。それで長峰の葬儀の場所は掴めたか?」

『ええ、セレモニーホール・砦河さいが。時間は18時よ。ただ……』

「ただ?」

『対物破壊ライフルの射程って、軽く1000キロを超えるわよね? もしかしたらだけど、武がキャンプ場で弾を見つけた距離よりもっと遠くから狙撃するかも?』

「まあ確かに……でも、1発で仕留めなきゃいけない訳だろ。いくら鬼柳でも自分が成功できるか分からない程の遠い距離から狙撃するとは、考え難いと思うけど?」

『それもそうだけど……。まぁそれと、武がそこから出た時のアリバイを作る方法も考えてみるわね。16時半に連絡を入れて』

「了解。ところでこの無線機、充電するにはどうするの?」

『普通のC端子で充電できるわよ』

「持ってないんだけど……」

『じゃあ、買って』


 そこで通信は切れた。


(じゃあ、買って、って……)

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