14話 無実か否か 第11章END
パトカーのバリケードに挟まれたレッドスピーダー。
脱出する方法を考えていた、その時。
『お待たせしました、お嬢様』
無線から野々原の声が聞こえた。
それと同時に、本来向かうはずだった道路の先にダークスピーダーの姿が見えた。
警官たちもダークスピーダーの存在に気づき、振り返った。
「ジイ、警官を追い払って、ロケット弾でパトカーを退かすから」
『了解しました、お嬢様』
野々原の返事の後、ダークスピーダーのフォグランプが上へ開き、マシンガンの銃口が顔を出した。
レイの位置からでは、マシンガンを撃っても警官はパトカーの陰に隠れて全く動かないだろう。
しかし、ダークスピーダーも居るならば、話は別だ。
両側からマシンガンで攻撃されると分かっていれば、パトカーに隠れることはできない。
警官もダークスピーダーのマシンガンに気づいたのか一瞬、パトカーの陰に隠れたが、その直後、レッドスピーダーのナンバープレートが開き、同じようにマシンガンの銃口が姿を現した。
そして、レッドスピーダーのマシンガンが火を噴く。
警官に当たらないように、細心の注意を払いながら、ハンドルについているマシンガンの発射ボタンを押していた。
流石に両側から攻撃されたのでは、パトカーがバリケードにもならない、と警官たちも判断し、パトカーから離れ、近くの建物などに避難した。
その隙に、レイは「DOUBLE―R」のボタンを押しロケット弾を出すと、すぐに発射ボタンを押した。
2発同時発射されたロケット弾を受けたパトカーは、まるで強風に吹かれた枯葉のように吹き飛んだ。
道が空いたことで、レッドスピーダーは再び走り出した。
ダークスピーダーも、急加速してバックすると、その勢いでターンし、通常走行になると、レッドスピーダーの後について行った。
しばらく走ると、レイが予め想定していた逃走経路の第1ポイントに近づいた。
レッドスピーダーの後に続くダークスピーダーの後ろには、パトカーの姿が見える。
「ジイ、お願いね」
『分かりました』
レイはアクセルを踏み込みレッドスピーダーを加速させ、ダークスピーダーと一気に距離を広げた。
1台のパトカーがレッドスピーダーを追いかけようと加速するが、前を走るダークスピーダーが前を塞ぐように出るので、なかなか前に出られなかった。
パトカーの姿が見えなくなったところで、レッドスピーダーはロードパークの駐車場に滑り込むように入ると、すかさず「BODY」と「PLATE」のボタンを押し、車体の色を変え、レイは身を隠した。
ダークスピーダーに気を取られたパトカーたちは、色が変わったレッドスピーダーに気づくことなく素通りして行った。
○
一方、レイの隠れ家のサポート部屋からダークスピーダーを遠隔操作する野々原。
遠隔操作用の席に座り、ディスプレイに映るダークスピーダーの運転席からの映像を見ながらステアリングタイプのコントローラーを握っている。
野々原の横には、車のシフトレバーに似せたシフターコントローラーもあるが、こちらは「D」の横にMポジションがあり、そのレーンにシフトレバーを持っていくと、「+」と「-」の前後に動かすことで、マニュアル車のように自分でギアを選択できる、シーケンシャルシフトのタイプになっている。
ステアリングコントローラーの横にあるボタンを押すと、ディスプレイの左下に小さくダークスピーダーの後方の映像が現れた。
ダークスピーダーの後方には、2台のパトカーが居るようだ。
それを見ながら、今座っている席の左側にあるハンドブレーキに似せたハンドルを上へ引くと、ディスプレイに映るダークスピーダーの映像が急に方向転換、シフトレバーを「R」に入れると、バック走行を始めた。
そしてコントローラーの左横に並ぶボタンの中から「M‐GUN」のボタンを押すと、ディスプレイの下に、「マシンガン起動」と表示が現れ、続けてステアリングについているボタンを押した。
すると、ディスプレイに映るパトカーの前輪が次々に破壊され、コントロールを失った。
もう1台のパトカーも、同じようにマシンガンで前輪を破壊しコントロールを奪うと、追手が居なくなったことを確認し、野々原はステアリングを切ると、画面も方向転換、シフトレバーを「D」に入れ、前進を開始した。
本来ダークスピーダーはマニュアルなのだが、そこはコンピューターの制御により自動でシフト操作が行われている。
細かいシフト操作が必要な時は、Mポジションに持っていくだけで操作が可能だ。
追手が居なくなったので、ダークスピーダーをそのまま退避場所まで走らせた。
○
「何をやってるの⁉ どうして逃がしたのよ⁉」
県警では、ホワイトウィッチに逃げられたことでご立腹の大戸野が、鬼の形相で無線のマイクの前に立っていた。
すると、無線から思いもよらない警官の報告を聞かされる。
『それが、もう1台車が現れまして』
「もう1台?」
『はい、黒のクーペタイプの車が……』
「黒のクーペ……ブラックウィザードの車じゃ⁉」
橘が言った。
ブラックウィザードの愛車は黒のクーペだ。
しかし、クーペといってもいっぱい種類がある。必ずしもブラックウィザードが乗っている車――デロリアンとは限らない。
「その車の車種は?」
大戸野が無線で警官に尋ねる。
『一瞬だったのでハッキリとは見てませんが、恐らく手配中のデロリアンかと……』
「デロリアン⁉」
『はい、特徴が似ていましたので』
ブラックウィザードの車だ。
「そんなはずは……‼ ――すぐに留置場へ行きなさい!」
近くに居た刑事に向けて命令を出した大戸野。
ブラックウィザードは留置場に居るはずだ。
それなら何故、現場にブラックウィザードの車が現れた?
「まさか、大下君は無実なんじゃ……?」
橘がそう呟くが、大戸野は納得していない。
「そんなはずがないでしょ‼ きっと何かトリックを使ったのよ‼ ほら、ホワイトウィッチの車も無人で動くって言っていたじゃない。――そのクーペのドライバーは見たの⁉」
『いいえ、スモークガラスだったのでドライバーの顔は……』
大戸野は無線の送信スイッチを切ると、「ほら見なさい! 自分は間違っていない」と言うように両腕を組んで無線のマイクに背を向けた。
それを見た橘は、内心大戸野の態度に呆れていたが、自分の中にも武のことについて半信半疑なところもある。
確かに今の報告では、ブラックウィザード本人が乗っていたという確証がない。
一体どっちなんだ?
橘は考えた。
第11章 END