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WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)  作者: 木村仁一
第11章「邪魔者」
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12話 VSスナイパー

 レイの隠れ家のサポート部屋では、野々原(ののはら)がコンピューターを使ってダークスピーダーを遠隔操作している。

 画面にはダークスピーダーの運転席から見た映像が映り、やがてダークスピーダーは河川敷の橋の下に到着したが、肝心の武の姿がない。

 まだ到着していないのだろうか。


『ジイ、こっちはヨットハーバーに着いたわよ』

「かしこまりましたお嬢様」

タケルは来た?』

「それが……、まだ来ておりません」

『何ですって‼?』


 無線からレイの不満の声が聞こえた。


 それからいくら待っても武が来ない。

 野々原も次第に険しい顔になると、レイから連絡が入った。


『ジイ、武はまだ来ないの⁉』

「はい、お嬢様」

『何をモタモタしてんのよ、あの馬鹿⁉』

「お嬢様、抑えてください」


 レイが苛立つのも無理はない、一刻の猶予もない状況での遅刻は誠に遺憾だ。

 それでも野々原には気掛かりなことがある。

 もしかしたら、武に何かあったのでは、と。

 

                 〇

 

 ヨットハーバーの見える高台にレッドスピーダーが停車した。

 レイは車内から、双眼鏡を使ってヨットハーバーの監視を始める。

 波止場に停泊しているクルーザーは全部で5艘。1人で監視するには少し苦労するが、武が居ないのでそれも仕方ない。

 監視を続けるが、鬼柳らしき人間は見当たらない。

 鬼柳きりゅうを抑える為のプランも考えてはいるのだが、即席なので完ぺきとは言い難い。

 正直、出たとこ勝負だ。


「ハァー……」


 不安要素しかない状況に、ため息をついた。

 それも武が居ない今、出たとこ勝負も怪しい……。

 早く鬼柳を抑えなければならないのに、肝心なところで現れないなんて、刑事失格だ。

 もっと言えば、県警も現れる様子が全く無い。

 ――本当に日本の警察は優秀なのだろうか?

 そんな疑問が湧いて仕方ない。

 時間が経つにつれて、レイのイライラもピークに近づく。

 今まで何かをっていても、ここまでイライラしたことはあまりなかった。

 少なくとも黒富士に恨み始めてからは。

 すると、ヨットハーバーの駐車場に1台のワンボックスカーが止まった。ワンボックスカーの横には清掃会社らしき会社名が印刷されている。

 清掃会社がクルーザーの清掃を頼まれることもあるので、特に不審なところは無い。

 ワンボックスカーから、青いつなぎを着た2人降りてきた。

 降りてきた2は、共に初老で、片方は大柄の黒人と、もう1人の男は日本人のようにも見えるが、何処か違和感がある。

 2人とも写真で確認したクリーナーとは全く違う顔だ。

 スキンヘッドの黒人の清掃員に物珍しさを感じるが、それよりもレイが気になることがある。

 それは清掃員2人の内の1人、黒人の腕の部分が少し膨らんでおり、更に袖の部分が不自然に開けている。

 そしてもう1人の男が手を引くカートには、清掃用具と思われる物があるが、1つ気になるのが、洗剤の多さだ。

 清掃には不可欠な物で間違いないが、クルーザーの清掃に10キロのボトルが2つ、片方が半端ならまだ分かるが、両方とも満タンの状態。

 量が多すぎる。

 そして何より2人の目つきが、写真で見たクリーナーと同じ、獣のような鋭い目つきをしていた。


「まさかっ!」


 レイの頭に浮かんだのは、この2人がクリーナーの変装ではないかということだ。

 もしかしたら、あの洗剤の容器に入っているのは、爆薬かもしれない。

 しかし、確証が無い。

 何かクリーナーだと証明できる方法はないだろうか?

 考えているうちに、2人は波止場に近づいて行く。

 レイは双眼鏡を助手席に置くと、後部にあるスナイパーライフル・ブレイザーR93を手に取ると、ボルトハンドルをスライドさせ弾薬を装填、スコープを覗くと、レイはいつでも撃てるように、引き金に指を置いた。


                 ○

 

 クルーザーの先端にあるV字椅子に座る鬼柳。

 テーブルには銃身を取り替え、メンテナンスを終えた拳銃ベレッタを組み立て、弾倉マガジンをセット、スライドを引いて弾を装填した。

 すると、コンコン、とドアをノックする音が聞こえた。

 こんなところに来るのは情報屋くらいだが、いつも来る時は、前もって連絡があるはずだ。


「誰だ?」

「すみません、クルーザー清掃です」


 男の声が聞こえる。

 明らかに情報屋の声じゃないし、声の感じがスピーカーから出たような機械的な声だ。

 鬼柳は、テーブル置かれていたサイコロの4の目のように、丸いボタンが配置されたリモコンを手に取った。

 遠隔でドアロックが解除される仕掛けだ。

 リモコンのボタンを押すと、ドアから、カチャ、とロックが解除される音が鳴った。

 すると、ドアに衝撃が走る。

 だが、ドアは全く開かない。

 鬼柳がリモコンで操作したのは、実はドアロックが解除されるような音だけが鳴るだけで、実際はまだ鍵が掛かったままだった。

 

                 ○

 

 ドアのロックが解除された瞬間、黒人の男の袖からサイレンサー付きの小型拳銃が飛び出し、それを掴むと、ドアを蹴った。


「What?」


 しかし、ドアは蹴っても開くことはなかった。

 引くのかと思って、黒人の男がドアノブに手を掛けた瞬間。

 バンッ!

 銃声と共に、ドアから1発の銃弾が貫き、黒人の男の腹部に当たった。

 

                 ○

 

 スコープ越しに黒人の男が倒れる瞬間を目の当たりにしたレイ。

 流石に鬼柳も簡単に姿を現して、みすみすられるような奴じゃない。

 すると、黒人の男が立ち上がった。

 どうやら防弾チョッキを着ているようだ。

 用意周到、と考えていると、1つ気になることが。

 もう1人は何処だ?

 入り口のドアに居る2人は、そこから動く様子はない。

 それに、鬼柳が居るのはクルーザー、係留ロープさえ切れれば、そのまま海へ逃げることもできる。

 それなのに全くそんな動きをクリーナーの2人は見せない。


「まさかっ!」


 レイはライフル(ブレイザー)の照準をクリーナーの2人から、2人が乗って来たワンボックスカーに変えた。

 すると、後部座席のスライドドアが僅かに開いており、そこからは細長い棒のような物が伸びている。

 ライフルの銃身だ。

 銃身は真っすぐ波止場に停泊するクルーザーへ向いている。


                 ○

 

 ワンボックスカーの後部座席から鬼柳のクルーザーに向けてライフルを構える白人の男。

 ライフルは、SVD・ドラグノフ。ロシア製のセミオートライフルだ。

 更に、銃身の先にはサプレッサーが付けられ、ライフルスコープは特殊な赤外線サーモグラフィー機能が搭載された物に変えられている。

 このスコープなら、何処に隠れても人間の体温で居場所を見つけることが可能だ。

 クルーザーに送った2人は、囮および後始末の担当で、鬼柳を仕留めるのはこの男の役目だ。

 スコープには、クルーザーの中に動く人の形をした赤い影が見える。

 鬼柳だ。

 クルーザーの強度くらいなら、このライフルでも撃ち抜ける。

 鬼柳の陰は操縦席に移動している。

 白人の男は引き金に指を置き、あとは引くだけ――

 

 バンッ‼

 

 銃声が聞こえた瞬間、スライドドアに穴が開いた。

 英語で何やら叫び、ライフル(ドラグノフ)の照準が鬼柳から外れる。

 その後も無数の銃弾が、ワンボックスカーに撃ち込まれ、とても鬼柳を撃つことが出来ない。

 白人の男はインカムで、クルーザーの側にいる2人に連絡を入れる。


                 〇

 

 レイは引き金を引き、ワンボックスカーに向けて弾丸を放った。

 ただ、相手が見えないので、ライフルの銃身から大体の位置を狙っている。

 やがてライフル(ブレイザー)の弾が尽き、マガジンを入れ替えて弾を装填すると、今度はレイが乗るレッドスピーダーのドアに銃弾が撥ねた。

 どうやらクルーザーの近くに居るクリーナー二人組がこっちに気づいたようだ。

 しかし、二人組からレッドスピーダーが止まっている高台までは距離が有るので、2人の拳銃では正確にレイを撃つことは難しい。

 それに対してレイはライフルだ。遠距離ならこっちが有利。

 レイはクルーザーに居る2人に向けて弾丸を放つ。

 いくら防弾チョッキを着ているからといっても、頭を撃たれてしまえば万事休す、黒人の男とアジア系の男は、レイの銃弾に倒れた。

 すると、レッドスピーダーのフロントガラスに銃弾が撃ち込まれた。

 勿論、防弾ガラスなので、レイまでは届いていない。

 双眼鏡でワンボックスカーの方を覗くと、ワンボックスカーの後部のドアが開き、白人の男がライフル(ドラグノフ)をこっちに向けている。

 流石に身を乗り出してライフルを構えたら、逆に狙撃されてしまう。

 レッドスピーダーのロケット弾を使いたくても、誘導機能が無いロケット弾なので、高台との落差で狙うことが出来ない。

 手も足も出ない状況に、更に水を差すことが起こる。

 今まで停泊していた鬼柳のクルーザーが動き出したのだ。

 それだけではない。

 けたたましいパトカーのサイレンが徐々に近づいて来るのだ。

 武の情報を聞きつけて来たのだろうか。

 それともブレイザーの銃声か。


「このタイミングで来るの⁉」


 明らかに遅すぎるタイミング。

 何時も思っていることだが、今日はより一層、鈍間のろまに思える。

 クリーナーが乗って来たワンボックスカーも、急いでその場から逃げ出した。

 流石に沖に出た鬼柳のクルーザーをレッドスピーダーで追跡するのは難しい。

 レイは、レッドスピーダーの後部に手を伸ばし、小型のドローンを手に取った。

野々原にリクエストしていた追跡用のドローンだ。

 続いてレイは、小型タブレットを操作し、ドローンの絵をタップ。

 小型タブレットのカメラで、鬼柳のクルーザーを撮影すると、ドローンを屋根に置き、画面の下の「CHASE」をタップすると、ドローンは飛び立ち、鬼柳のクルーザーの追跡を始めた。

 そしてレイ自身は、クリーナーの追跡を始めるのであった。

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