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WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)  作者: 木村仁一
第11章「邪魔者」
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11話 灯台下暗し

 白摩署の警察寮――

 建物は3階建てで、コンクリート製の造りだが、壁は黒いシミのような物が目立っている。

 その一室で、タケルはふて寝していた。

 まだ昨晩のショックから抜け出せていない所為か、何もやる気が起きない――というより、停職なので何もやることがない、というのが正しいだろう。

 ただ1つだけメリットがあるとすれば、レイからの突然の呼び出しにもすぐに対応できるということだろう。

 いつもコソコソするより遥かに気が楽でいい。

 そんなことを考えていると、武の携帯電話が鳴った。


「はい」

『ようアンちゃん、良いニュースだ』


 電話の相手は日下くさかだ。


『ヨットハーバーで、鬼柳きりゅうを見たらしいんだ』

「どこ⁉」

「『大正ボート』っていうヨットハーバーだ』

「随分シンプルな名前だね。場所は?」


 日下がヨットハーバーの住所を武に伝えた。


「分かった、ありがとう」

『ただ気をつけてくれ。どうも怪しい連中が、同じように鬼柳を嗅ぎまわっている』

「怪しい連中?」

『正体は分からないが、どうも外国人らしいんだ』

「外国人グループか……」


 日下の言う『外国人グループ』というのは、恐らくクリーナーだろう。


「分かった、ありがとう」

「それじゃ、アンちゃん』


 ここで電話は切れると、すぐにレイに電話した。


『おはよう』

「おはよう。体調はどうだ?」

『それを聞くために電話したの?』

「ああ、そのついでに朗報。鬼柳の潜伏先が分かったぞ」

『ホントに?』


 武は日下から貰った情報をレイに伝えた。


『流石、たにさんの情報屋ね』

「俺も今から県警に報告するから」

『どうして?』

「すぐに県警に話さなかったら、不自然なタイムラグで俺が疑われるだろ?」

『そうだけど……それだと鬼柳が県警に……』

「鬼柳に恨みは無いだろ? それに、鬼柳が掴まればオヤッさん殺しを依頼した相手も分かるかもしれないし、仮に黒富士がクリーナーに前金を払っていたら、それもパーになって大打撃になるかもしれないだろ?」

『……』


 思うところがあるのか、レイは黙ってしまった。


「レイ?」

『……。そうね、私も黒富士を鬼柳にられたくないし。それなら早く抑えた方が良いかも、こっちの情報屋からは何も連絡が無いけど、もしかしたらクリーナーも鬼柳の所在地を掴んでいるかもしれないから、念のため私たちで県警をサーポートして鬼柳を抑えさせましょう』

「了解」


 その後レイは、長峰の取引現場を襲撃した後に、武が変装を解いた場所に来るように指示を受けると、武は電話を切った。

 その瞬間――


ドンドンドンッ‼


「な、何っ⁉」


 ガラの悪い借金取りが来たのか、と思うほどの強いノックに、武はベッドから飛び起きた。

 そもそも警察の寮に、そう簡単に借金取りが来るとは思えないが。

 武はドアを開けると、そこにはたちばなともう1人、刑事が立っていた。


「朝から悪いな、武君」

「橘さん? ちょうどよかった。今情報屋から連絡があって、相模湾のヨットハーバーで鬼柳らしき人間を何回か目撃されているみたいなんです」

「本当か?」

「はい。それと、鬼柳のことを嗅ぎまわっている外国人グループがいる、とも――で、橘さんはどうしてここに?」

「実は、ホワイトウィッチとの共犯容疑で、同行してもらいたい」

「……。えっ……?」


 武は事態が飲み込めず、目を点にして固まった。


 訳も分からないまま、県警に連行された武。

 取調室に通されるが、その扱いは容疑者に対してのものだった。


「あのー……まず『共犯容疑』って、どういうことですか橘さん?」

「自分にも分からないんだ。何故か大下君がブラックウィザードだって大戸野警視が」

「俺がブラックウィザード⁉」


(まさかバレたの⁉)


 武は内心焦った。

 手汗を握りしめながら、どうして正体がバレたのか、その原因を考えた。

 昨晩に野々原(ののはら)が言った通りなら惚ける余裕はあるが、もしそうじゃなかったら。

 そう考えると気が気じゃない。

 すると、取調室のドアが開いた。

 入って来たのはタブレットを持った刑事と、大戸野だった。

 やっぱりこの女か、と武は歯を食い縛りながら大戸野を睨みつけていた。


「いっ――」

「――一体どういうことなんですか大戸野警視? 大下君がブラックウィザードだなんて?」


 先に橘に指摘されて何も言えなかった武は「あれ?」と目を細めて頭を傾けた。


「これよ――早く再生してちょうだい」


 大戸野の命令で刑事がタブレットを操作すると、タブレットから音声が流れ始めた。


 ――素の声で話すと思うか?

 

「えっ?」


 タブレットから出た武の声に、橘も声を漏らして眉間にしわを寄せた。


(やっぱり分析したのか)


 このセリフは研究所跡で沢又さわまたに言った言葉だ。

 自分が聞く自分の声と録音された機械から聞こえる自分の声とは違うので、ピンとこないが、間違いない。


「灯台下暗しとはこのことよ。ホワイトウィッチと共犯だから今まで捕まらなかったのね」

「ちょっと、これ誰の声ですか?」


 野々原に言われた通り、武は惚けてみる。


「何を言ってるの⁉ どう聞いてもあなたの声でしょ⁉」

「誰か録音機持ってませんか?」


 武が周りの刑事に要求すると、刑事の1人がボイスレコーダーを取り出し、武に渡した。

 それを受け取った武は、先ほどのセリフと同じことを言い、再生する。

 すると、ボイスレコーダーから流れた声は、タブレットから流れた声と同じ、つまり武の声だ。


「これで決まりね。大下刑事、警察の機密情報漏洩及び傷害の容疑で逮捕します」

「ちょっと待った!」


 武が大戸野に向かって「ストップ」と言うように手の平を突き出した。


「何よ?」

「それだけで俺がブラックウィザードだって決めつけるのは早いでしょ!」

「……」


 何言ってんの? と大戸野を含む他の刑事たちも沈黙した。


「相手はハイテクを持ってる暗殺者ですよ。俺の声を使っているのかもしれないでしょ?」

「大下君、流石にそれは……」


 橘も遠くを見るように目を細くして武を見ていた。

 自分でも苦しい言い訳だとは思っているが、今は惚けるしかない。

 このまま大戸野が真に受けてくれればいいのだが。


「そんなわけないでしょ! 橘君、彼を留置場へ」


(だよねぇー……)


 とりあえず大戸野を睨みながら橘と一緒に武は取調室を出て行った。

 留置場へ向かう途中。


「橘さん。まさかと思いますけど、さっきの音声のこと本当に信じてます?」


 橘は何も言わず、黙々と武を掴みながら留置場へ向かって歩いている。


「自分は確かにホワイトウィッチとの接点があるのは認めますけど、だからってブラックウィザードなわけが――」

「――あの声は間違いなく大下君のものだった⁉ それでもまだ惚けるのか⁉」


 今まで見たこともない橘の怒号に、武は目を点にして固まった。それを聞いた廊下に居た他の人も、橘に視線を向けている。


(まずいな、橘さん信じてくれないや……)


 分析した声が武と同じである以上、武が何を言ったところで誰も信じないだろう。

でも、今は認めるわけにはいかない。

 そんなことを考えていると、忘れていたあることを思い出した。


「そうだ橘さん!」

「なんだ……?」


 橘は目を吊り上げて武を睨みつけている。まるで容疑者を見るような目だ。


「……怖いですよ――って、そうじゃなくて鬼柳のこと、よろしくお願いいたしますよ?」

「その情報だけど、本当はホワイトウィッチからじゃないのか?」


(完全に疑われてるー)


「違いますよ。情報屋に鬼柳のことを調べさせていたんですよ。何なら情報屋に訊いてください」


 反論する武だが、橘は何も言わない。武の言うことを信じていないようだ。

 このままではマズい。

 もしも、黒富士がクリーナーを雇って、更にクリーナーが鬼柳の居場所を掴んでいたら、鬼柳は消される。

 最悪、先にヨットハーバーに向かっている、レイの身も危ない。

 いくら戦闘力の高いレイでも、世界を股に掛けるプロを一人で相手にするのは危険だ。

 県警が動いてくれれば、そのリスクも減るが、今の状況では、ちゃんと動いてくれるかどうか怪しい。


(早くレイに知らせないと……だけど、どうやって?)


 携帯電話を取り上げられてしまったので、レイに連絡が取れない。

 今の状況では、仮に電話があったとしても連絡を取るのは危険だ。

 一刻を争う事態なのに、うごくことができない。

 武は唇を噛みしめた。

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