7話 耀く刃(ヤイバ)
突然出て行ったレイを見送った後の武と野々原。
「あっ、そうでした武様。お渡しする物が」
それを聞いた武は「おー」と目を輝かせた。
野々原と一緒に地下室へ向かうと、装備の開発室に向かった。
中に入ると、野々原は机に置かれたスポーツシューズを手に取って武に渡した。
「俺の靴と同じですね」
「はい」
このスポーツシューズは、武が普段愛用している物と全く同じだ。
ただ1つだけ違うところは、踵の両脇に、言われないと気づかないほどの小さな出っ張りがあることだ。
「この出っ張りは?」
「ストッパーになっております。それを同時に押してみてください」
野々原に言われ、両脇のストッパーを押すと、踵からフリーハンズのイヤホンのような物がスライドして出てきた。
「これは?」
「緊急時に通話できる通信機です。万が一携帯電話を取り上げられたとしても、これが有れば何とかなります」
「使い方は?」
「スイッチを入れれば、すぐにサポート部屋のコンピューターを通じて、我々に連絡が出来るようになっております。勿論発信器の機能も付いていますので居場所もすぐにわかります
「どのくらい通話できます?」
「連続で8分間は持ちます」
確かに自分の居場所をすぐに伝えられるのはありがたい。
「反対側の方は?」
「小型のプッシュダガーがセットされています」
それを聞いて武はストッパーを押してみると、通信機と同じように踵から小さなプッシュダガーがスライドしてきた。
人差し指と中指で握り、その間から刃が出るような形になっており、プッシュダガーとしてはかなり小さく、急所に打ち込まない限り殺傷性はなさそうだが、護身用としては十分の働きができる。
「これは面白い」
「一応武様のサイズに合わせてありますが、履いてみてください」
武は早速スポーツシューズを履いてみる。
ガジェットが仕掛けてあることや、新品ということで少し履き心地に違和感を覚えるが、サイズに関しては申し分ない。その内慣れるだろう。
「ありがたく使わせていただきます」
「武様、実はもう1つございます」
「もう1つ?」
そう言うと、野々原は筒状の長いケースを持ってきた。
「野々原さん、それは?」
野々原はケースを武の前で開け、中身を取り出した。
その中に入っていた物は、1本の刀。
「お嬢様から話を聞きまして、ご用意しました」
「真剣ですか?」
「勿論でございます」
確かに刀でも武は能力を発揮できる。
銃と比べて刀は使い慣れていないので練習が必要だが、弾薬を使う銃と違い、刃こぼれを起こさない限り、使い続けられることもそうだが、ミネ打ちを使えば殺さない程度のダメージを与えられるので、殺しをしない武にとってもうってつけの武器だ。
武は鞘から刀を抜くと、その刃が姿を現した。
冷たく光り輝く鋼の刃に、柄と呼ばれる刀を握る部分は、黒い革巻きになっており、鍔には黄金に輝く崖に立つ虎の絵の装飾が施されている。
まさに日本の職人が生んだ芸術だ。
刀を手にした武の手はブルブルと震えていた。
まさかこの刀を自分が手にするとは。
「ちなみになんですけど、この刀はおいくら万円だったんですか?」
「300万円くらいです」
「さんびゃくぅぅぅー‼」
武の手がさらにガタガタと震え始める。
想像していた以上の値段。
もし壊したりしたら、とても刑事の給料では弁償できない。
武はそっと、刀を鞘に納めると、ホッと一息ついた。
「寿命が縮んだ……」
「他に要望がございましたら是非おっしゃって下さい」
野々原の言葉に、武は早速相談した。
「実は、2つほど気になっていまして。1つはボイスチェンジャーです。あれって声質をいじっただけですよね?」
「そうですね」
「バレませんか?」
「確かに分析ソフトを使って、声の高さを修正されてしまった場合はバレてしまいます」
「えー……」
やはり完璧ではなかった。
警察の鑑識だって声質を分析する技術くらい持っているだろう。
「心配いりませんよ、武様」
武と違って野々原は冷静だ。
「どうしてですか?」
「万が一、声のことでバレたとしても、決してお認めにならないでください。お嬢様もその時の対策は考えてありますので」
「そうですか」
その対策というのが少し気になったが、レイが考えているなら間違いないだろう。
「それで、もう1つは?」
「ダークスピーダーについて――」
「――ガジェットのことでしょうか?」
「はい……。今のままでも悪くはないんですけど……」
実はダークスピーダーについて気になることがあった。
ダークスピーダーに搭載されているガジェットは、エンジン音を消す「SILENT」や暗視機能の「NIGHT」の特殊機能の他、マシンガンとロケット弾、主に前方を攻撃する武器しかない。
レッドスピーダーも攻撃系の武器はダークスピーダーと同じマシンガンやロケット弾だが、「SMOKE」や「OIL」といった装備も搭載されているので、追跡されても振り切ることが比較的容易だ。
しかし、ダークスピーダーには、そのような装備はない。振り切るには、スピードしかないのだが、それも高速道路などに限られてしまう。
そんなことを考えているうちに、今まで気づかなかったダークスピーダーの改良すべきポイントが次々に浮かんで来た。
そもそも車に固定タイプのマシンガンを付けても、前方に敵がいないと使えない。用途もかなり限られてしまう。
鬼柳とのカーチェイスした時も、ダークスピーダーのマシンガンの弾を鬼柳は避けていた。
ロケット弾を使えば簡単に止められただろうが、それだと相手が死んでしまうリスクがある。
何とか相手の車を止める方法もそうだが、追手を足止めするための装備や攻撃手段の改善も必要だ。
武の話を聞いて、野々原は考える。
「そうですね……相手の車を止める手段については幾つかございます」
「例えば?」
「こちらへ」
武は野々原に連れられてダークスピーダーたちが駐車されているガレージの方へ。