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WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)  作者: 木村仁一
第11章「邪魔者」
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5話 手料理でおもてなし

 タケルがレイに指定されたカフェの前に立っていると、時間通り、1台の黒いクライスラーが現れた。

 運転席から降りてきたのは野々原(ののはら)だ。


「武様、お待たせしました」

「今晩は、野々原さん」


 すると、野々原は、どうぞ、とドアマンのように後部座席のドアを開けた。

 まさにできる執事そのものだ。

 武も「恐縮です」と改まった態度で車に乗り込んだ。

 車が走り出すと、武は野々原に尋ねた。


「そういえばこの車、塗り替えたんですか?」


 競馬場で見た時は、確か白だったはずだ。


「はい。警察に手配されていますので、安全の為に」

「……アハハー……申し訳ないです」


 当然だが、その原因を作ったのは武だ。

 後に組むことになるとは思わなかったとはいえ、やはり罪悪感はある。


「あの、レイは?」

「お嬢様なら家に居られます。お嬢様がお迎えに行くのはリスクがあると思いまして。私ならいくらでも言い訳ができるかと」

「なるほど」


 確かに野々原は警察に顔を知られていない。

 例え、野々原のことを誰かに見られても、知り合いや親せき、と言えばよほどのことがない限り疑われるリスクは低い。

 

 やがてレイの隠れ家に到着。


「お邪魔します」


 野々原の後に続いて、武が中に入る。


「それでは武様、私はこれで」

「えっ、どこに行くんですか?」

「まだ仕上げなくてはならない物がありまして。お嬢様がご夕食を用意していますので、先に食べて待っていてください」

「あ、はい……」


 そう言って野々原は地下室の入り口がある方へ行った。


(んっ!)


 武は野々原が言ったあることに気づいた。

 

 ――お嬢様がご夕食を用意していますので。

 

(え? レイが……料理?)


 お嬢様のイメージがあるレイが料理……。

 あくまでアニメや漫画による影響なので、現実に持ち込むのは失礼だということは順々承知だが、どうしても、お嬢様キャラは料理が下手な印象が強い。

 しかし、本当に下手ならば、あの野々原が止めるはずだ。

 それをしないということは、大丈夫ということなのだろう……と思いたい。


(……うーん、どっちだ?)


 そんなことを考えている武の鼻に、料理の匂いが漂って来た。

 食欲をそそる香に、思わず武の顔が、デレーと緩くなる。

 匂いだけなら安全だ。


「突っ立ってないで、こっちに来たら?」


 キッチンからレイの声が聞こえた。

 玄関からキッチンはほぼ一直線なので、キッチンに立つレイの姿もハッキリ見える。

 白シャツにピンクのエプロンを着けたレイはとても新鮮。

 すると――


(えっ、どうして?)


 今のレイの姿が、武の目にはとても輝いて見えた。

 これはまるで……。


「もしもーし?」

「えっ⁉ あ、いや……エプロン姿も似合うな、と思って」

「ありがとう。でも、武の為にしている訳じゃないの」

「……わかってるよ」


 さっきまでの気持ちは一気に冷めてしまった。

 やはり気のせいだろう、と武はダイニングの方へ向かった。

 ダイニングのテーブルには、既にいくつかの料理が並んでいる。

 初めてこの隠れ家に来た時の野々原の料理にも引きを取らないレベルだ。

 武は感心しながら席に着いた。


「すげー、これ全部レイが作ったの?」

「まぁ、すぐに作れる簡単なものだけど」

「わお……」


 お嬢様育ちだと思っていた武のレイに対するイメージがガラリと変わった。

 調理を終えたレイは、ママコーナーにあるカゴにエプロンを入れると、武の真向いの席に座った。


「それじゃあ、食べましょうか」

「いただきます」


 武は両手を合わせて言った。

 見た目は大丈夫だ。きっと味も大丈夫だろう……と思う。


「食べないの……?」


 眺めているだけで、なかなか料理に手を付けない武にレイが不満そうに眼を細めて訊いた。


「い、いや、ゴメン。ところで、これなに?」


 武はチキンの料理を指差した。


「チキンのストロガノフ。鶏の胸肉を使っているから、疲れも取れるわよ」

「ふーん……」


 武にとってあまり聞き慣れない名前だったが、それよりも味はどうだろうか、と思いながらフォークでチキンを取り、口に運んだ。

 すると――


「美味しい!」


 初めて出会う味だが、武はすっかり魅了されてしまった。


「でしょう」


 武の誉め言葉に、ドヤ顔を見せるレイ。


「意外……」

「何ですって……?」


 さっきのドヤ顔から突然、眼を細めて武を睨み始めた。


「あっ、ごめんなさい!」


 慌てて謝罪した後、再び武はチキンを口に運んだ。


「本当に美味しいよ。どんな味付けしてるの?」

「チキンのストロガノフはサワークリームを使っているの、バターライスとも相性が良いから、試してみて?」


 武はレイの言う通り、ストロガノフを食べた後にバターライスを頬張った。

 確かに美味しい。

 続いてサラダにも手を出した。

 アスパラガスと生ハムのサラダは、モッツアレラチーズが添えられ、黒胡椒とオリーブオイルのドレッシングがかけられ、これもまた美味しい。

 

 食事を終え、コーヒーで一息ついた武とレイ。

 料理にすっかり魅了された武の表情はホンワカしていた――というよりマヌケ面という方が正しいかもしれない。


「まさか、レイがこんなに料理が上手いとは思わなかったよ」

「私ってそんなに料理下手に見える?」

「勿論違うよ。その、野々原さんみたいな執事が居るから、あまり家事とかするようなイメージは無くて」

「私だって、最低限のことは自分でするようにしてるの」

「だよね。それにしても美味しかったよ、とくにあのストロ……何だっけ?」

「ストロガノフ」

「そうそれ」

「ありがとう……」


 ここまで素直に褒められると、作ったかいがあった。

 ただ、どうしても変な意識を持つせいか、何かモヤモヤした気持ちが湧く。

 そんなレイの気持ちを知らない武は、更に余計なことを口走る。


「本当に勿体ないな、犯罪者ホシじゃなければ良い嫁さんになれたのに……」


(こんな時に何言ってんのよ、この男は‼)


 レイは武から顔を逸らし、その赤らめた顔を必死に隠した。


「どうしたのレイ?」

「何でもないっ! そもそも今回ごちそうしたのは、この前のお礼で、それ以上でもそれ以下でもないから、分かった⁉」

「……お、おう悪かった……」


 プンプン怒るレイに、武は目を点にして謝罪していた。


「それよりも本題」

「本題?」

「鬼柳についての情報はないの?」


 レイは誤魔化すように話題を変えた。

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