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WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)  作者: 木村仁一
第11章「邪魔者」
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2話 処分

 白摩署に戻ったタケル

 正直足取りは重く、刑事部屋に近づくにつれ、それは一層重くなる。

 宮元みやもとがなんて言うかもそうだが、何より大戸野おおとのが何て命令を出すかが問題だ。

 どんよりした気持ちのまま、武は刑事部屋のドアを開けた。


「只今戻り――あー……」

「遅かったわね、大下おおした刑事」


(居たよ……)


 刑事部屋に入ると、課員のメンバーは勿論、大戸野警視と取り巻きのように病院に居た人とは別の県警の刑事4人が立っていた。

 それと気のせいだろうか。県警の刑事みんなの目も冷たい――命令を無視して行動していたのだから仕方ないが。


「大下刑事、あなたを停職にします」

「はぁー……」


 予想はしていたが、やっぱりか、と武は肩を落とした。


「停職の理由は?」


 私情による処分など認められるはずがない。

 武はそう考えていた。


 しかし……。


「あなたは私の命令を無視して。あげく鬼柳きりゅうを逃がした。それが理由よ」

「……。はっ⁈」


 何言ってんだこの女⁈

 確かに鬼柳を逃がしたことは言い逃れできないが、大戸野のあの無茶苦茶な推理を真に受けなかったことで、鬼柳の陰謀が少しだけ明るみになったのだ。

 それにさっきの大戸野のしゃべりかたは、「アンタが命令を無視したから鬼柳を逃がした」と聞き取れる。

 ただの言葉の綾なのか?


「ちょっと待った! 確かに鬼柳を取り逃したのは事実ですけど、何かさっきの話し方だと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、って聞こえるんだけど?」

 

「その通りよ」

 

 大戸野が迷わずに答えた。

 この女本気で言ってやがる。


「おいふざけんな、俺たちが鬼柳とぶち当たったことすら、全然知らなかったくせに‼」

「それは間違い。あなたが私の命令をちゃんと聞いていれば、いずれ鬼柳も逮捕できたはずよ。アンタのせいで鬼柳が地下に潜らなければいいけどね。――宮元課長、彼の手帳を」

「はい」


 県警が関わると何時ものことだが、やはり宮元には何も期待できない。


「ちょっと待ってください。武……大下刑事が鬼柳と出くわした時に、大戸野警視はどこまで鬼柳に近づいていたんですか?」


 松崎まつざきが大戸野に尋ねた。

 やはり話に納得ができなかったのだろう。


「口答えする気。あなたも停職になりたいの⁉」


 それを聞いて松崎は何も言えなくなった。


「てめぇ、今のは脅迫じゃねぇか⁉」


 抗議する武だが、大戸野は勿論、その県警の刑事すら誰も注意する奴は居ない。


「そういうことだ、大下。手帳を――」


 宮元が言い切る前に、武が宮元の机に、バンッ! と手帳を強く叩きつけると、大戸野を睨みながら言った。


「せいぜい今のうちにリーダー気取りを満喫していろ!」


 そう言うと武は刑事部屋から出て行った。


「宮元課長。鹿沼かぬま刑事が帰ってきたら連絡を。彼にも話がありますので」

「わかりました」


 そう言うと、大戸野と県警の刑事たちも引き上げ、中には課員だけになった。


                 〇


「課長、いくら何でも武が停職なんておかしいですよ⁉」


 松崎が指摘した。

 大戸野の横暴な態度、まさしくパワハラだ。

 命令を無視しての行動は褒められるものではないが、大戸野の無茶な推理に納得できなかったからこそ、武が取った行動だ。

 むしろ停職になるべきは大戸野の方だろう。


「言われんでも私だって()()()()()()()

「そうでしょうね……えっ?」

「えっ⁈」


 その場に居た課員のみんなが一斉に宮元に向けて驚いた表情をした。

 あの県警服従症の宮元が、まさかそんなことを言うとは思っていなかったからだ。


「私もあの大戸野警視の態度は見過ごせん」

「だったらどうしてさっき抗議しなかったんですか?」

「抗議しようにも、大戸野警視の横暴を証明できないと駄目だろ?」

「確かに……って! いやいや、証人が大勢いるでしょっ!」


 武や松崎に対して大戸野の態度を見た人間はいっぱい居る。

 大戸野のパワハラを証明できるのは確かだ。


「しかしだな松崎、証言だけでは足りん……せめて物的証拠が必要だ」


 真剣に考える宮元を見て、さらに課員たちが驚いた。


「……これ、何か天変地異の前ぶれじゃないんですか?」


 安藤あんどうがひそひそ声で菅原すがわらに尋ねた。

 菅原の答えは無言だが「かもしれない」と頷いた。

 飛馬ひばだけが理解していないのか、2人の話を聞いて首を傾げていた。


「……まだ未練たっぷりですよ、人生に。なのに、もう日本が滅ぶなんて……」

「……これも人生だ、タク。素直に受け入れるしかない」


 何故か悪ノリを始めた安藤と菅原。次第に話はエスカレートしていき……。


「聞こえているぞ?」

「あっ、すみません……」


 宮元の一言に安藤と菅原が頭を下げた。


「ところで鹿沼はどうした松崎?」

「そういえば……」

「鹿沼に早く連絡しろ。鹿沼にも話を聞く必要がある。このまま大戸野警視のいいようにされてたまるか」

「そうですね」


 松崎は携帯電話で鹿沼を掛ける。

 何時もの宮元と違う雰囲気に、飛馬を除く課員たちの中で宮元に対する評価が変わり始めていた。

 のだが……。


(あの大戸野警視が解雇されれば、もしかしたら私が県警に戻れるかもしれん。なんとしてでも大戸野の横暴をあかるみにしなくては!)

 

 宮元自身の都合も入っていたとは、誰も知らない。

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