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WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)  作者: 木村仁一
第11章「邪魔者」
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1話 大戸野の噂

 白摩はくま総合病院――


「痛ってぇー‼」


 その一室のベッドで寝ていたタケルが激痛で目を覚ました。顔には湿布が貼られ、腕には包帯が巻かれてボロボロの状態だ。


「大丈夫ですか⁉」


 看護師が慌てて武の様子を窺う。


「ここは?」

「病院です」

「病院?」


 武は一度深呼吸をして、今までのことを思い出していく。


「大下」


 病室に入って来たのは鹿沼かぬまだ。

 額に包帯を巻いているが、怪我はそれほど酷くはないようだ。


「トシさん、大丈夫?」

「お前の方が重傷だろ。俺は軽い脳震盪で済んだよ」

「あぁ……」


 軽くても脳震盪は流石に心配だろう、と内心ツッコミを入れる武。

 

 その後、検査で異常が無いことが確認された武は退院することに。

 置いてきた上着を取りに行くために、一度病室に戻ると、そこにはたちばなを含む県警の刑事、それに加え、今の武にとって最も会いたくない人間が居た。


「あなたたち勝手なことして‼ 処分の覚悟は出来ているんでしょうね⁉」


 そう、大戸野おおとのだ。

 相変わらず自分勝手な言動に、武の怒りが沸々と湧いてくる。

 ここは一度ガツンと言わないと、と武は大戸野に食って掛かる。


「そうかよ。アンタの無茶苦茶な推理を鵜呑みにしなかったお陰で、中島なかじま君殺しの真犯人が分かったんだよ! 中島君を殺したのは、アンタらが血眼になって捜している鬼柳きりゅうだ!」


 武の話を聞いた県警の刑事たちが「えっ?」と声を漏らして武の方を向いた。当然だが、大戸野は納得していない。


「そんな証拠がどこにあるの⁉」

「見つけたよ! ――トシさん、キャンプ場で見つけた弾」

「ああ」


 鹿沼は上着の裏ポケットから、袋に入った弾を出してみんなに見せる。


「やけにデカいな……」


 そう橘が言った。

 武は続けて弾のことについて説明する。


「恐らくこいつは、20ミリ口径のフルメタルジャケット。詳しい銃の種類はライフルマークを調べないと分からないけど、アンチマテリアルライフル、昔で言う対戦車ライフルなのは間違いないでしょう。これなら防弾ガラスも、ただのベニヤ板ですよ」

「ちょっといいですか?」


 県警の刑事は鹿沼に言うと、弾の入った袋を受け取って、改めて弾を眺める。


「ライフルというより、小さな大砲の弾みたいだ。でも何で鬼柳がこれを?」

「橘さん、鬼柳はこれで黒富士に報復するつもりですよ」

「報復⁉」

「覚えていますか? 鬼柳は一度、黒富士の狙撃に失敗しています。車が防弾車だった、って聞いていますから、それに対抗できる武器を選んだのでしょう。中島君が殺されたのは――」

「――この銃の試し撃ちをしたところを被害者がいしゃに見られたから、その口封じ……そういうことか」


 武は橘に向けて頷いた。

 それを聞いても納得していないのが、この女。


「どうしてそれで鬼柳が犯人ってことになるのよ⁉ 偶々発見現場にいただけかもしれないでしょ⁉」


(本当にバカか、この女は⁉)


 内心本音を言う武だが、それは武だけでもないようで、大戸野を除く県警の刑事たち全員が口を開けて呆れていた。


「お言葉ですけどね。こんな弾、日本は勿論ですけどアメリカにだって、ろくに出回っていない物なの。人気ひとけの無い場所でこれがあった所に現れた。――ってことは、これを回収しに来た犯人以外考えられないでしょ⁉」


 武の正論に、大戸野はこれ以上何も言えず、悔しそうに唇を噛みしめていた。


「ところで、弾の下から出ているこのバネみたいなのは一体?」

「それは自分も分かりません。鑑識調べてもらえば何か分かるかも。一応キャンプ場をもう一度調べ直していただけませんか。まだ現場に不可解な物があったので」

「わかりました」

「あっ、待ってください。私が発見場所を教えます」


 鹿沼が詳しい弾の発見現場を伝えるために県警の刑事について行った。


「それより――」


 武は大戸野に視線を向けた。


「――これで分かったか大戸野(警視)。あんたのその横暴な態度、上に報告するからな!」

「そっちこそ覚悟しておきなさい⁉」


 そう言うと大戸野は病室から出て行った。


(クソがー‼)


 理不尽過ぎる命令に、武の怒りはピークに達し、大戸野の背中に向けて文句を言おうと口を開いた瞬間、県警の刑事の1人が突然ぼやき出した。


「あの女、大下おおした刑事のお陰でテメェの首がつながったって言うのに……!」

「本当だよ……!」


 その場にいた県警の刑事たちが次々に大戸野に対して文句を言い始めた。

 思いがけない県警の刑事たちの反応に、武も思わず目を点にした。


「あのー、今更ですけど、どうしてあの警視がクビにならない、っていうか、刑事になれたんですかね……?」


 何か知っていると思い武が県警の刑事に訊くと、県警の刑事が答えた。


「それがな大下君。あの警視は県警本部長の()()だ、って噂だぜ?」

「はぁぁぁー⁉」


 まさかの事実――噂だが――に武は口を、ガー、と開けて固まった。

 しかし、そのリアクションは武だけではなかった。


「本当なんですか⁉」


 なんと、橘も武と同じような顔をして固まっていたのだ。


「なんだ、橘も知らなかったのか?」


 橘は「はい」と頷いた。


「けっこう有名だぞ。それでな――」


 その後も大戸野に関する噂話が続く。

 話を聞くうちに武は呆れて口が開きっぱなしになる。どうしてあんな女が警視になれたのか疑問しか湧かない。


「とにかくお手柄だったな、大下刑事」

「いいえ。それより、黒富士の警戒を強めた方がいいのは当然ですが、問題はどこであの銃を使うか……いや待てよ!」


 武はあることを思い出した、その瞬間、1人の県警の刑事のスマートフォンが鳴った。


「はい。――何ですって、長峰ながみねが⁉」


 それは長峰の容態が急激に悪化し、先ほど死亡が確認された、という連絡だった。

 武が先ほど気づいたことは、長峰の葬儀のタイミングで鬼柳が黒富士を狙う計画だということ。


「前回の鬼柳の失敗も、片野かたのの葬儀に向かう途中で狙撃していました。もしかしたら今回も……」


 武の意見に、橘を含む県警の刑事たちは、一斉に頷いた。

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