8話 女子のティータイム
海の見えるオープンカフェ――
その店の前で一人の女が立って。
年は30代。長い茶髪の上には、黒いつば広帽子が乗っており、黒の長いピーコートを着て、青い色のレンズのサングラスを掛けている。
すると、その女に向かって別の女がやって来た。
「ごめんなさい、待ちました?」
「大丈夫よ」
やって来たのは、金髪のロングヘアーに白のワンピース、白のつば広帽子を被ったハーフ系――レイだ。
年上だからだろうか、それともサークルか何かの先輩なのか、レイは女に対して謙虚に接していた。
一緒にカフェの中に入ると、外の席に座った。
晴天と程よい気温の今日は、室内よりも外の方が気持ち良い。
2人はそれぞれ、コーヒーや紅茶を注文すると、レイは自分のハンドバッグから封筒を取り出した。
厚みからして十数万円分は入っている。
「はいこれ、借りていたお金です」
レイは、封筒を女に渡した。
「そんなに急がなくても良かったのに」
「借りっぱなしはどうも……」
「そう。ありがとう」
その後も、2人は話に花を咲かせ、楽しい時間を過ごした。
「ねぇ、もしよかったら、私の通っているヘアサロンに来ない?」
「いいですね。場所は何処ですか?」
すると女は、ハンドバッグから一枚のショップカードを出して、レイに渡した。
「どうも。時間が出来たら行ってみますね」
「ところで、最近良いことでもあったの?」
「どうしてですか?」
「なんていうか、少し明るくなった、っていうか……もしかして、気になる人でも居るの?」
「なっ!」
レイは、ビクッ、と体を撥ねて、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
「べべべ、別にそんな人いないわよ!」
動揺したのか、先ほどの謙虚な口調から一転し、ため口で喋ってしまった。
その後もレイは色々言い訳を述べるが、その顔は悪い点数を取ったテストが母親に見つかった時の言い訳を言っているように必死だ。
(面白い……)
女もそんなレイを見て、内心笑っていた。
「それじゃ、私はこれで帰りますね!」
「そう、それじゃまたね。実ることを祈っているわ」
「だから違うって!」
真っ赤な顔でプンプン怒りながら席を後にするレイの後ろ姿を見て、女はホッコリした顔でレイに軽く手を振った。
〇
何かモヤモヤする気持ちを抱えながら隠れ家に戻ったレイ。
出迎えた野々原もレイの僅かな異変に気付いて声を掛けた。
「どうなさいましたか、お嬢様?」
「何でもないっ!」
「……?」
レイの態度に野々原は首を傾げていた。
そして、レイが向かったのは、地下のサポート部屋だ。
コンピューターの前に座ると、ハァー、とため息をついた。
女の余計な一言で、変に1人の男のこと意識してしまい……。
(あー、もうっ‼)
訳が分からない、と自分の頭をグシャグシャにして、ハッ! と我に返る。
「何をやっているの、私は……」
そう言いながら自分の乱れた髪を直し、気合を入れるように、自分の両頬をペチペチと叩くと、ハンドバッグから先ほど女から貰ったショップカードを取り出した。
そして、近くにあったハサミを手に取ると、ショップカードの隅を切り取った。
すると、ショップカードはまるで封筒のように開き、中からマイクロSDカードが出てきた。
そのマイクロSDをアダプターに入れて、コンピューターにセット。中のファイルを開いた。
ファイルの中には、ある集団を写した画像、そして報告書などが記録されている。
そう、オープンカフェの女の正体は情報屋。レイは彼女に依頼して長峰について調べていたのだ。
画像に映る集団は、全員外国人で白人や黒人やアジア人と人種はバラバラだが、目つきは全員一緒。まるで獣のような鋭い目つきは、人としての感情を持っているのか疑わしくも思える。
他のファイルを開き、この集団についての詳しい情報を覗いた。
すると――
「嘘でしょ……」
レイは思わず声を漏らした。
この集団について記録されていたのだが、その正体がヤバすぎる。
レイはスマートフォンを手に取った。
「お嬢様?」
ドアの向こうから野々原の声が聞こえた。
「何、ジイ?」
「失礼します」
野々原がサポート部屋の中へ入って来た。
「今回の収穫はどうでしたか?」
「大変よ。長峰の奴、とんでもない連中を日本に呼んでいたの。早く武にも伝えないと」
「それでしたらお嬢様。武様をお呼びしたいのですが?」
「えっ! 武を⁉ えっ、どうして⁉」
何故か動揺するレイに、野々原は再び首を傾げた。
「この情報と、新しい装備を武様にお渡したいので」
「あっ、あぁ……そういうことね……」
「本当にどうなさいました?」
「な、何でもない……」
よく分からないが、穴があったら入りたいような気恥しい気持ちがこみ上げてくる。
(もう……どうしちゃったの、私……?)