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WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)  作者: 木村仁一
第10章「傲慢上司」
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7話 音の正体

 クルーザーの中で鬼柳きりゅうはイライラしながら待っていた。

 すると、テーブルに置かれていたスマートフォンが鳴った。


「どうだ?」

警察サツは現場から離れたみたいだぞ。理由は分からないけど』


 電話の相手は情報屋からだった。

 トラブルのため、警察の動きを探らせていたのだ。


「そうか」

『まさか行く気か? 教えてくれれば俺が行くぞ?』

「いや、説明するのが少し難しい場所だ。警察サツが居ないなら問題無い」

『そうか。だけど気をつけろよ?』

「ああ」


 そこで鬼柳は電話を切った。


                 ○


 キャンプ場に戻ったタケル鹿沼かぬま

 現場は今でもイエローテープで封鎖されていた。

 早速2人は、少年たちが聞いた大砲のような音の正体を確かめるために中島なかじまが発見された場所へ向かった。

 中島の遺体が有った場所には、今でもテープで遺体の横たわった時の形を残している。

 2人は、遺体の向きを考え、犯人が撃ったと思われる場所を推理し、更に林の奥へ進んでいった。

 元々人の出入りが無い場所だったのか、伸びきった雑草が武と鹿沼の足取りを重くしていた。

 そして現れたのが、比較的木々の少ない浅い森。

 太陽もちゃんと見えるが、ちょっと油断すると迷子になってしまいそうな場所だ。


「何だ、あれ?」

「どうしたの、トシさん?」

「あれだよ」


 鹿沼が指さす先に有った物は、横に焦げ目がついた細い木。

 武がその気に近づいてみると、更にその木の近くの地面を見ると、小さな長方形の木の板が2枚、置かれている。

 武は手袋を嵌めて、その内の1枚を手に取った。明らかに新しい、その板をよく見ると、短いが、縦に擦れたような傷がついている。


「なんだ、その板は?」

「さぁ? ただ、そこまで長い間置かれていたわけじゃあ……ないみたい」


 武と一度その板を戻して、もう一枚の板を見てみると、それにも同じような擦り傷が有る。

 板の位置を考えても、この傷は同時に出来たもので間違いないだろう。

 恐らく何かカメラの三脚のような、足になる物を置いて、それが無理に動いたためにこんな傷がついたと考えられる。

 板は2枚なので少なくともカメラの三脚が置かれていたわけではないだろう。そもそもカメラならこんな傷はつかない。


「何か強い力で擦れた、って感じだけど……」

「強い力って……どんな?」

「分から……んっ!」


 武はあることに気づいた。

 2枚の板の間に立った武は、その板を自分の両脇に来るように向き直すと、武の左斜め前の位置に例の焦げた木が有った。

 そして武は思い出す。


 ――大砲のような音。


 もしかしてと思い、武はそのまま後ろに下がり、その場に伏せるような形で伏せる。

 そこで――マニアならではの――武は直感した。


「何をやっているんだ、大下?」

「これだよ、トシさん」


 すると、武はあるポーズを取った。

 それは伏せた状態で構えるライフルのポーズだ。


「まさか、狙撃か⁉」


 恐らくその木が焦げているのは、ライフルを撃った時に発生した、マズルフラッシュによる高温の発射ガスによるものだろう。

 ただ、鹿沼には気になることがあった。


「だけどな大下、ライフルでもこんな焦げ方するのか?」

「心当たりは幾つか。とにかくこの先に行ってみましょう」


 武の予想で発射された弾道の先に行ってみることにした。

 ライフルが有ったと思われる場所から、およそ100メートル程だろうか。そこには大木が有った。

 何故か大木は小さな何かの破片が食い込んだような傷が無数にあり、その大木の前には鉄板が落ちている。

 鉄板は40センチの正方形型で厚さは3センチと分厚い。

 その鉄板の真ん中近くに2センチほどの穴が開いていること。


「トシさん、何かつっかえ棒になりそうな物探して」


 武は鉄板を立てると、鹿沼は拾ってきた棒で鉄板が倒れないように固定すると、鉄板の裏も大木と同じように何かが当たったような傷が無数にあり、更に熱を加えた時のように変色し、少し焦げ目もあったのだ。


「どう思う大下?」

「穴の形からしてライフルなのは間違いないですけど、この厚さの鉄板を撃ち抜いたとなると、ただのライフルじゃないな……――っていうより、この傷は何だ……?」


 武は鉄板に開いた穴の大きさや、この鉄板を貫くという状況を見て、恐らくアンチマテリアルライフル――昔で言う()()()()()()()であることは間違いない。

 だが同時に、そんなライフルがどうして日本に? という疑問も浮かぶが……。

 ただそうなると、マニアならではの腑に落ちないこと、貫通した裏側が焦げて傷だらけいうことは、弾が爆発したということだが、それだと鉄板が撃ち抜けるかどうかが疑問になる。

 では1発目で穴をあけて、2発目で爆発する弾を撃ったのだろうか?

 しかし、その線は消えた。同じ穴に弾を通すなど、そんな神業は、相当のプロでも、ほぼ不可能だ。

 それに少年たちの証言。


 ――突然、ドンッ、という大砲を撃ったみたいな音と爆発したような音が続けて聞こえた。


 その後に、()()()()()()()()()()()()、は恐らく中島が撃たれた時の銃声だろう。

 しかし武の考えでは、銃声が1発分足りない。

 1発目で貫通、爆発しなければ証言通りにならないのだ。

 武は考えるが、腑に落ちない。


「トシさん、もしかしたらその辺に弾が落ちてるかも。探してみよう」

「簡単に言うけどな、この辺りで2人だけで、ってなると、相当時間が掛かるぞ」

「でもやるしかないでしょ?」

「まぁな……」


 武と鹿沼は辺りを探し始めた。

 武は探す弾頭の形は想像がついているのだが、鹿沼は目に見えない物を手探りで捜している状態だ。見つかるにはかなり時間が掛かる……はずだった。


「んっ⁉」


 鹿沼は地面に不自然なえぐれがあるのを見つけた。

 近くにあった枝でその部分を掘ってみると、そこから出てきたのは――

 

 ライフルの弾。

 

 ――それも、かなり大きい。ライフルというより小さな大砲の弾のようだ。

 弾は銅で覆われたフルメタルジャケットで、鉄板に着弾した時に少し変形した先端と、撃ち抜いた時に付いたと思われる傷はあるが、十分原型を留めていた。


「大下⁉」


 鹿沼の呼びかけに、武が駆け寄って来る。


「これを見てくれ」


 鹿沼が手にするものを見て、武は頷いた。


「あぁ、間違いない」

「やけにデカいな……」

「このくらいじゃないと、あの鉄板は撃ち抜けないよ」


 武は鹿沼から弾頭を受け取ると、弾頭の底の部分を覗いて、武は「何だ、これ?」と思わず声を漏らした。

 フルメタルジャケットタイプの弾頭は通常鉛などが詰まっているのだが、今回見つけた弾頭の底には穴が開いており、その中が空洞になっていて、バネのような物が伸びていた。

 マニアの武もこんな弾は全く知らない。

 武はとりあえず証拠保存用の透明な袋に弾を入れた。


「それにしても、この爆発は一体なんだ……?」

「それだけが分からない。もしかしたら当たったことが分かるように、鉄板の裏に爆薬を置いていたとか……? ――もう一回鑑識に調べてもらいましょう。何かわかるかも――」

 

 ポキッ!


「――んっ?」


 枝を踏んだ音が聞こえ、武と鹿沼が音の方へ向くと、そこには1人のサングラスを掛けた男が立っていた。

 見覚えのある顔に武は思わずその名を口にする。

 

「鬼柳!」

 

 鬼柳の手には拳銃リボルバーが握られていた。


「トシさん伏せて‼」


 武の言われた通りに鹿沼が伏せると、鬼柳が発砲。その場から逃げる鬼柳を武と鹿沼が追いかける。

 すると、武たちの覆面車を止めていた所とは別の駐車場に出た。

 鬼柳は止めてあったシルバーのスポーツバイクに素早く飛び乗りその場を去って行った。


「あっクソ!」


 武と鹿沼は自分たちの覆面車が止めてある駐車場へ向けて全力で走った。

 悪あがきだとは思ったが、武は携帯電話を取り出し、通信指令室を呼び出した。


「白摩署刑事課の大下おおしただ。シナトラキャンプ場付近で手配犯を確認、シルバーのバイクで逃走中。ナンバーは、Cの013。応援を!」

『了解』


 武は携帯電話を仕舞う。


「流石に逃げられたか……」

「トシさん、諦めるのはまだ早いよ!」


 やがて自分たちの覆面車が見えてきた。


「運転どうする?」

「私が運転する」

「了解!」


 武と鹿沼が覆面車に飛び乗ると、急いで鬼柳の追跡を開始した。

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