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WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)  作者: 木村仁一
第10章「傲慢上司」
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6話 大バカだ……

 唐突に白摩署の刑事部屋に戻されたタケルたち。


「ところで、引き上げ命令を出した理由は何ですか?」


 武が不満そうに大戸野おおとのに尋ねる。しょうもないことで呼び戻されたのなら、流石に黙ってはいられない。


「みんなでここを調べて欲しいの」


 そう言って武たちに資料を配った。

 ところがだ。それを見た武が真っ先に声を上げる。


「――ってここ、砦河さいが署の管轄じゃないですか⁉」

「そうよ」

「『そうよ』じゃなくて、何で他の管轄まで自分たちが行かなきゃならないんですか?」


「所轄の仕事なんてどうでもいいでしょ。こっちは重症の長峰ながみねの警護で人手が足りないの、言う通りにしなさい!」


 全くこっちの事情も考えない身勝手な命令に武は拳を大戸野に向けて放とうとすると、「よせ!」と鹿沼かぬまたちが武を抑える。


「こっちは殺人が起こっているんだよ‼」

「話しによれば、死んだ少年は不良グループに居たそうじゃない?」

「だからなんだ⁉」

犯人ホシはその敵対グループの誰かで決まりよ。こっちの捜査が終わってからでも十分犯人(ホシ)を逮捕できるわ」


 適当過ぎる。何でこんな奴が県警に居るんだ。


「命令が聞けないなら、停職よ。問題ありませんね宮元みやもと課長?」


 当然だが、宮元は「勿論です」と頷いた。


「ふざけんじゃねぇ‼」

「よせ大下」


 再び怒りがピークに達した武は、今度は宮元に向けて拳を突き出そうとして鹿沼に止められた。

 大戸野が「早く連れて行きなさい」と命令を出し、武は鹿沼と松崎まつざきに連れられて刑事部屋を出て行った。


 その後も、まるで強制連行される容疑者のような体制で刑事部屋を後にした武。


「それで、このまま大戸野あいつの言いなりになるつもり?」


 武が尋ねると、鹿沼と松崎も難しい顔をする。

 2人も大戸野の命令に納得していないようだ。


「私だって嫌だよ大下おおした。だが今は何もできない」

「何もできない、って――」


 武が言いかけた時、武の携帯電話にメールが届いた。


「ちょっと離して!」


 2人に解放された武は、2人に見えないようにメールを開いた瞬間、武は「うわぁ……」と声を漏らした。

 その内容は――


『早く連絡よこせゴラー‼』


 ――という、レイからの激オコのメール。


「どうしたの武?」

「えっと……悪い、ちょっと電話してくる!」


 そう言って武は駆けて行った。


「あんなに慌ててどうしたんだアイツ?」

「……。まさか……」

「ん?」


 何かを察したのか、松崎は自分の顎を撫でながら鹿沼に自分の頭に過ぎったことを言った。


「武の奴……」

「……?」

「女ですね!」

「……。女?」

「くぅぅぅ! アイツいつの間に彼女なんか……」


 分かりやすく、嫉妬しています、というように、親指をかじりながら武が走って行った方を睨む松崎を見て、鹿沼は口を開けて呆れていた。

 実は松崎が正解なのだが……。

 

 屋上へ出た武は早速レイに電話を掛けると、よほど待っていたのか、ワンコールでレイが出た。


「もしもし?」

『どうして昨日は連絡してくれなかったのっ⁉』


 電話の向こうから苛立つレイの声が聞こえた。


「警察だって暇じゃないんだよ……って言いたいところだけど――県警の上司にこき使われてそれどころじゃなかったんだよ。しかも、うちの管轄で殺人コロシも起こるし……!」

『何それ?』

「ただ――」


 武は改めて周りを見渡し、誰も見ていないことを確認する。


「――ちょっとまずい展開なんだよ」

『何があったの?』

「県警が、魔法使い二人組(俺たち)の逮捕に躍起になってんだよ」

『どこまで進んでるの?』

「今はブラックウィザードに特徴が近い人間を捜査アラってるけど、まだ俺の正体には気づいていない」

鬼柳きりゅうの方は?』

「こっちは俺の担当じゃないから何とも言えないけど、苦戦しているのは間違いないみたいだよ。それと朗報、()()()()()()()

『あの爆発で生きてたの⁉ まるでゴキブリね』

「爆発で生きてんだから、ゴキブリより凄いよ」

『確かに……。これで鬼柳の次の狙いが分かったわね』

「狙い?」

『長峰が生きているってことは、鬼柳は長峰を消しにかかるはずよ』

「どうかな? 鬼柳が長峰にこだわる訳でもあるのか?」

『こっちも情報屋を使って色々調べているけど、まだ分からないの。そっちでも調べてくれる?』

「ちょっと待て、こっちは殺人コロシが――」

『いいから調べるっ‼ ついでに私たちの正体がバレないようにちゃんと見張るのよ⁉』


 返事をする前にレイに電話を切られた。


「……人の気も知らないで」


 武は不満そうに口をヘの字に曲げる。

 大戸野もそうだが、レイも自分勝手だ。

 自分たちの正体がバレないようにすることも大事だが、目の前にある事件を放っておくのも刑事としてどうかと思う。


 答えが出ないまま刑事部屋に戻る武。

 中に居たのは松崎と鹿沼だけだった。


「どうしたんですかトシさん?」


 席に座る鹿沼に松崎が声をかけていた。

 鹿沼は何処か浮かない表情をしているが、松崎に返事を返した。


「何でもない……と言いたいところだが、少し調子が悪くてね。昨日の無理がたたったみたいだ……。先に行ってくれないか、後で合流するから」

「でもあの警視が……」


 命令無視を大戸野に指摘されるのではと心配する松崎に、武が近づいた。


「トシさんは俺が見ているから、隆太は早く行きなよ」

「いいのか武?」

「一度あの警視とぶつかってんだ。俺ならいくらでも言い訳できる」

「悪いな武」


 そう言って松崎は部屋を出て行った。

 それを見送った武は、鹿沼に向けて眉を吊り上げて相手を疑うような表情をする。


「トシさん、まさかと思うけど、中島君の捜査をしようとしてない?」

「わかるか?」

「何となく」


 鹿沼の表情から見ても調子が悪いというより、何か思い詰めているように見える。

 そこで武は直感したのだ。


「頼む大下、見逃してくれないか? どうしても中島の事件ヤマは無視できない……」


 鹿沼の気持ちは、武にも理解できる。

 今回は捜査自体が止められているのだが、仇を取りたいのに動くことが出来ないような状況だ。

 まるで谷の捜査に自分が関われないような悔しさと同じような気持ちを武は感じた。

 武としても中島殺しの件は気になるところがあるが、自分の正体がバレないように捜査に関わる必要もある。

 武は迷った。

 どっちを優先すればいいのか……。

 

(本当に俺は大バカ野郎だっ!)

 

 武は答えを出した。


「トシさん、俺も付き合うよ」

「何だって⁉」


 武の申し出に鹿沼は目を丸くした。


「1人より2人だよ」

「いいのか大下?」

「俺も中島君の事件ヤマはちょっと気になるんだ」

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