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WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)  作者: 木村仁一
第10章「傲慢上司」
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4話 ブラック過ぎる!!

 白摩署の刑事部屋では、特に事件が無いので、今日も落ち着いている。

 宮元みやもとは県警に行っていて不在だ。

 このまま何も無ければ……、とその場に居る誰もが思うのが、やはりそうはいかない。

 県警から帰って来た宮元が、開口一番に命令を出した。


「聞いてくれ。これから県警と合同捜査をすることになった」


 タケルを含む課員たちが、またか―、と言うようにドンヨリとした顔をする。


(面倒なことを引き受けたんじゃないだろうな……?)



 武は何処か不安が募った。


「課長、合同捜査って何のですか?」


 武が質問すると、宮元が答える。

 それはまさしく、武が恐れていたこと。


「例の魔法使い二人組と鬼柳きりゅう 浩二(コウジ)についてだ」


(マジか……⁉)

 

                 ○

 

 予定の時間に会議室に集められた武たち白摩署の課員たちは勿論、県警の捜査一課イッカ組織犯罪対策部(マル暴)の刑事たちも集められていた。


「諸君、彼女が今回合同捜査の主任になる大戸野おおとの警視だ」

「大戸野です」


 そう言って大戸野はゆっくりと頭を下げる。

 印象はベテランのキャリアウーマンのそれだ。

 武たちもそう思っていたのだが、どうもおかしい。県警の刑事たちの表情がどうも不満そうに見えるのは何故だろうか。

 そんな武たち課員たちの疑問をよそに、大戸野の説明が始まった。


「よく聞いてちょうだい。あの魔法使いたちが現れてから1年は経っているの。このままだと我々のメンツは台無しよ。だからこそ、各所轄の協力の元、必ずあの二人組を逮捕するの。ついでに鬼柳もね」


(ついでなのかよ……)


 大戸野の言葉を聞いて武は内心ツッコミを入れる。

 確かに魔法使い――自分もその片割れなのだが――の逮捕は重要だろう。

 しかし鬼柳の件についても重要なことには変わりない。まだ鬼柳は黒富士くろふじの命を狙っているからだ。

 それよりも武が最も恐れていることは。

 

 正体がバレるかもしれない⁉

 

 今の武にとって一番の問題はそれだ。

 自分がブラックウィザードだとバレたら、それこそ大騒ぎではすまない。


「それで、大下おおしたっていう刑事は誰?」

「はい、自分です」


 武は手を上げた。


「あなた、例の魔法使いと接触したことがあるそうね?」

「はい……」

「だったら何で逮捕できないの⁉ それでもあなたは刑事なの⁉」


 突然の大戸野は武に向けて怒号を飛ばした。

 当然だろう、本人なのだから。


「あなたはブラックウィザードに似た男をリストアップしたから、それを調べてちょうだい! ――宮元課長、問題ありませんね?」


 圧を掛けるように宮元に訊く大戸野。

 そんな大戸野とは真逆に宮元は気前よく「はい」と答える。


たちなば君、大下()を県警に!」

「は、はい……」


 あの橘がタジタジの状態で大戸野の命令を聞いている。


「じゃ、行こうか大下君……」

「はい……」


 武と橘はやる気なく会議室を後にしようとした時だ。


「早く行きなさい‼」

「はいっ‼」


 大戸野に急かされ武と橘は急いで会議室を出て行った。

 

                 ○

 

 橘が運転する覆面車に乗って県警へ向かう武。


「なんか凄いですね、あの大戸野(警視)……」

「言いたいことは分かる。我々も偶に彼女が何を考えているのか分からなくなるからな」


 愚痴をこぼす橘に武は苦笑いをした。そんなに付き合いは無いが、こんな橘を見たことがなかったからだ。


「大戸野警視ってどんな人なんですか橘さん?」

「大戸野警視は、キャリアは優秀なんだけど……出世欲が強くて、手柄を立てるためには手段を択ばないような女だよ」

「うわぁ……」


 武はドン引きして目を細める。

 そんな奴が魔法使い二人組(自分たち)を捜査するリーダーになっていると考えると、本当に怖い。

 やがて県警に到着した武は、資料室へ通され早速用意されたリストを見ようとした時、武の目は点に変わった。

 何故なら数が半端じゃない。ギャグアニメでしか見たことがないくらい、机いっぱいにリストが積み上げられていた。

 もしや関東地方全員分があるのではないかと思うほどだ。


「……ナニコレ?」

「特徴が近い人物をリスト。こっちが男性でこっちが女性。まぁ、女の方は既に大下君が特徴を掴んでいるのでこのくらいだが」


 そう言って記録保管庫を管理する刑事が、更にリストを持ってきた。

 テーブルにあるリストに比べれば、明らかに少ないが、それでも大きな段ボール1つ分はある。


「まずは女の方から始めますか?」

「構わないよ」


 橘の許可も貰い、武は早速リストに目を通し始めた。

 正直、レイがリストに入っていたらどうしよう、とドキドキしながらリストに目を通す武だった。


 

「終わった……」


 何とか女性分のリストを見終えた武。

 どうやらレイは神奈川に在住している訳ではないのか、リストにはいなかった。

 ホッと一安心すると、今度は男性のリストの確認を始め――4時間後。

 武はスルメのように干からびていた。

 どういう訳か武が休憩を取ろうとすると、大戸野の部下が入って来ては武を急かし全く休憩を取らせてくれなかったのだ。


「大丈夫か大下君?」

「……大丈夫に見えますか……?」


 全く生気の無い声で返事を返す武。まるで死人が喋っているようだ。

 それよりも、該当する人物が居ないと分かっているのにリストに目を通すことが苦痛だった。

 真剣に見ていないと怪しまれるので、何となく自分と顔の特徴が似ている人物を何人か見つけたが、すぐに無実だと判明するだろう。それを考えると本当に無駄な時間を過ごしているとしか思えない。


「ちょっと休憩させてもらってもいいですか……?」


 橘は、勿論、と首を縦に振った。

 武は立ち上がり、資料室を出ようとした時に、ドアが勢いよく開いた。

 向こう側に居たのは、大戸野だった。


「あなたどこに行く気?」

「……ちょっと休憩に」

「そんな暇は無いの、早く確認しなさい‼」


(暴君っ‼)


 あまりにも大戸野の身勝手な発言に橘も反論した。


「4時間近く続けていたんですよ。少しくらい休憩しても……」

「そんなペースじゃ10年経っても逮捕できないでしょ⁉ いい、見終わるまでこの部屋を出ることは禁止します。もし出たらば宮元課長に言って減俸にしてもらいますからね⁉」


 そう言って大戸野はドアを乱暴に閉めた。


(ブラック過ぎるぅぅぅー‼)


 常々刑事は過酷な労働環境だと偶に思うこともあったが、それがどれだけ甘い考えだったか、まさに今思い知らされた。


「大下君、何か買ってこようか……?」


 見るに堪えない武の仕打ちに、橘が気を利かせた。


「エナジードリンクお願いします。銘柄は何でもいいので」

「分かった」

 

 更に時間は経過。

 エナジードリンク数本の力を借りて、ようやく全部のリストに目を通すことが出来たが、疲労はピークに達し、武はぐったりして机に顔を埋める。


「……やっと終わった」

「ご苦労様、大下君……」


 橘が心配そうに声をかける。

 何とか特徴が合う人間を10人ほど見つけることが出来た。

武は、バッ、と顔を上げて窓の外を見る。

 曇りガラスなので窓を外がどうなっているのかは分からないが、それでも日が暮れていることは分かる。

 でもこれで帰れる、武はそう信じていると、見計らったように取り調べのドアが開いた。


「どう、絞れた?」

「……来たな――特徴的に近いのは人間を10人見つけました」


 そう言って武は大戸野にリストを渡した。


「よくやったわ」


 大戸野は無愛想に武からリストを受け取ると、それに目を通し始めた。


「それではこれで……」

「――待ちなさい!」

「なんですか……?」

「どこに行くの? あなたはこれから、このリストの人間を全員捜査(アラ)うのよ」

「――。これから……?」

「当然――橘君、彼と一緒に行ってちょうだい」


 一方的に言い残して大戸野は部屋から出て行った。


「まだ仕事するの……?」

「相変わらずの性格だ……」


 流石の大戸野の態度に橘も愚痴をこぼした。

 

 その後、流石に武と橘だけでは手が足りないため、他の刑事たちにも協力してもらった。武がピックアップしたリストの人間を見つけては任意同行してもらった。

 中には本当に罪を犯している者も居て、ついでに現行犯逮捕出来たが、それでもブラックウィザードに該当する人間は居なかった。

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