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WHITE WITCH(ホワイト ウィッチ)  作者: 木村仁一
第10章「傲慢上司」
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2話 逃走中

 レイが乗るレッドスピーダーは北西へ向かっていた。

 すると、けたたましいサイレンが耳に入り、レイはルームミラーで後ろを覗くと、そこには2台のパトカーが見えた。

 パトカーの拡声器からは、停車を求める警官の声が発せられている。

 すると、カーナビから「間もなく、左方向です」とアナウンスが流れた。

 レイは指示に従って交差点を左折。

 その先に有ったのは、とあるボートマリーナ。レイの目的地はそこだ。

 無数のボートが並ぶ敷地内に入ると、レイは「SMOKE(スモーク)」のボタンを押す。

 レッドスピーダーの後部から黒煙が噴射され、パトカーの視界を奪った。


 パトカーに乗る2人の警官は、突然現れた煙に少し動揺するが、テールランプが薄っすらだが見える。

 助手席に座る警官が後続のパトカーに向けて無線で出入口を塞ぐように命令を出した。

 ここは出口が1つしかない敷地内。煙幕を出したところで逃げるとしたら川に飛び込むくらいしかないだろう。

 パトカーに警官たちも、もう逃げられない、と確信した。

 

 それでもレイは諦めない――というよりそんな素振りは全く無い。

 レイは「NIGHT(ナイト)」のボタンを押してフロントガラスを暗視状態に変えると、ヘッドライトのスイッチをオフにした。


 テールランプが消え、その姿は煙の中へ消えた。

 それでもパトカーに乗る警官たちは慌てない。

 何故ならこの先は行き止まりだということを知っているからだ。

 やがて煙が晴れ、逃走するレッドスピーダーの姿が見える。

 

 はずだった……。

 

 本当なら逃走する車が見えてくるはずだが、パトカーの前に現れたのは背の高い金網のフェンス。

 思わぬ障害物に、ハンドルを握る警官が慌ててブレーキを踏んでパトカーを止めた。

 何とかぶつからずに済んだが、肝心の車の姿が無い。

 警官たちはパトカーを降りて周りを見渡すが、やはり見当たらない。

 警官の1人が無線を手に取る。


「おい、そっちに行ったか?」

『いいえ』

「どうなってる⁉」


 完全に消えてしまった。

 懐中電灯で周りを照らしながら辺りを捜索すると、警官の1人があることに気づく。

 パトカーの前にある金網に向けて車のタイヤの跡が真っすぐ伸びている。

 まさか、と思い金網に触ってみると、何と簡単にめくれた。そう予め細工していたようだ。

 煙幕はただの目隠しではなく、金網の細工を隠すためにしていた。


 警官たちが、ガックリ肩をおとしている間に、レッドスピーダーは遥か先を走っていた。

 ルームミラーを覗いてパトカーの追跡が無いことを確認すると、ヘッドライトのスイッチをオンにした。

 後は隠れ家まで逃げるだけだ。

 ただ、レイが一番心配なのは、タケルが無事に逃げられるかどうかだ。


                 〇


 その頃、武が乗るダークスピーダーは、高速インターを目指していた。

 ダークスピーダーを追跡するパトカーは1台だけだ。


『武様?』

「《やぁ野々原(ののはら)さん》」

『どこへ向かわれていますか?』

「《高速、そこで振り切るよ》」

「無茶ですよ」

「《この車なら大丈夫ですよ》」


 武は自信満々だ。


 パトカーの中では、2人の警官が乗っていた。

 ハンドルを握る警官は、まだ青臭さが残っている。

 助手席に座る警官は、40代くらいの少しふくよかな顔つきをしている。


「あいつもアホだな」


 助手席の警官が言った。


「どうしてですか先輩?」

「知ってるか? デロリアンってのは、スーパーカー扱いはされているけど、そんなに早くないんだ」

「そうなんですか? ――っていうか、あの車知ってるんですか?」

「ああ、デロリアンっていったら有名な映画の――お前、映画見ないのか?」

「はい」

「勿体ない。まぁ、とにかくこのパトカーの方がパワーもスピードも上ってことだ」

 

 やがて高速インターの入り口が見えた。

 本当は通行券を取らないといけないのだが、今は無視してダークスピーダーはゲートを突破する。

 パトカーもダークスピーダーに続いてゲートを潜った。

 高速道路を猛スピードで走るダークスピーダーとパトカー。


(いやー、しっかりついて来るな……)


 武は後ろのパトカーの様子を窺った。


 

「よーし、これであいつも終わりだ。こっちの馬力を見せてやれ」

「はい」


 助手席の警官が自信を持って後輩に言うと、ハンドルを握る後輩の方も自然と自信が湧き、ダークスピーダーにジリジリと迫る。

 しかし、警官たちは知らない。

 ダークスピーダーがただのデロリアンではないことを。


 武はシフトレバーの横にある『NITROUS(ナイトラス)』と書かれた赤いスイッチのカバーを開け、中のスイッチをONにすると、シフトレバーのカバーを開けた。


「《あばよ》」


 そう言って、武はシフトレバーのボタンを押した。

 すると、ダークスピーダーのマフラーから炎を出して急加速。あっという間にパトカーから離れて行った。


「おい、止まるなよ⁉」

「止まってないですよ、ほら!」


 後輩警官はそう言ってスピードメーターを指差した。

 メーターの速度は100を指しているが、それでもダークスピーダーはもう遥か先だ。

 『NITROUS』が付いていることを知らない2人の警官は、突然離れて行ったダークスピーダーに戸惑った。

 

 激しく揺れるダークスピーダーを何とかコントロールする武。

 デジタルのスピードメーターは軽く「246」を表示している。


「《やっぱりダークスピーダー(こいつ)は、すげぇな》」


 ルームミラーを覗いてパトカーが居なくなったことを確認すると、『NITROUS』をオフにして減速、高速道路の出口へ下りて行った。


                  ○

 

 料金所の係員が暇そうにあくびをしている。

 ETCが普及しているのもそうだが、夜中ということもあり、車がなかなか来ないのだ。

 係員が再び大きなあくびをしていると、猛スピードで1台の車が通過して行った。

 慌ててブースから飛び出る係員だが、車は既に見えなくなっていた。


「おい大変だ。車が1台、金を払わずに――あれ?」


 無線で本部に連絡を入れる係員の頭上に何やら1枚の紙がヒラヒラと落ちてくる。

 係員がそれを手に取ると、それは千円札だった。


「訂正、金は払ったけどゲートを突破された。早く警察に!」

 

                  ○


 ダークスピーダーはやがて人気ひとけの無い河川敷の橋の下で止まった。

 ガルウィングドアが開くと、変装を解いた武が出てくる。


「あとはよろしくお願いいたします」

『お気を付けお帰りください、武様』


 武は頷き、「お休みなさい」と言って、ドアを閉めると、ダークスピーダーはそのまま走り去って行った。

 武は周りを警戒しながら、河川敷から数百メートルのところにあるアパートへ向かった。

 アパートに着くと、駐輪場に止められたスポーツタイプのバイクに近づいた。

 このバイクは同級生のバイク屋から借りたものだ。

 更にこの駐輪場もこのアパートを借りている友人から、今日だけ、という条件で借りていた。

 武がバイクにまたがろうとすると――


「ちょっとすみません?」


 突然の声に武はドキッと身震いをした後、ゆっくりと振り返る。

 そこに居たのは2人の警官。


「ここで何を?」

「あぁ、バイクに乗って帰るところです」


 武はズボンのポケットからキーを取り出し、所有者アピール。

 それでも警官たちは全く納得していない。


「すみません、身分証を出していただけますか?」

「ちょっと待って……はいこれ」


 武はポケットから身分証を出し、警官たちに見せる。


「刑事?」

「そゆこと」


 武が見せた身分証は警察手帳だ。


「ご苦労様です」


 警官は敬礼をした。


「下げていいよ」

「捜査ですか?」

「違うよ。個人的な用ですっかりこの時間になっちまって。今から帰るとこ」

「そうでしたか。失礼します」

「ご苦労様」


 再び敬礼する警官に対して武は軽く手をあげて返した。

 警官たちが離れて行くと、武は何かを思い出したかのように腕時計を見ると、時間は「23:34」を指している。


(やべぇ‼)


 門限まであとに26分。

 急いでバイクにまたがると、バイクのエンジンを掛けた。

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