彼の名前を呼んだ日
凄く短いです。
2秒くらいで読めると思います。
お昼時、やっと日が傾き出した頃。
エイノアを寝かせたベッドの傍らで、椅子に座りあの本を読み進んでいると、ふと、空気に溶けてしまいそうな微かな声がきこえた。
「エジィリィ……?」
「!!」
微かに聞こえたその言葉にハッと顔をあげる。
「おはよう。エイノ_「エジィリィ!!」ア”っ!」
急に抱きつかれた衝撃で変な声を上げてしまう。
「エジィリィ…!私…!私!貴方が死んでしまったと思って!」
俺の胸に顔を当てて泣きながら告げる彼女の頭に、そっと手を乗せ言葉を返す。
「ごめんね。俺のせいでエイノアに怖い思いをさせてしまった」
「いいの…!私はいいから!お願いだから、私を置いていかないで…?」
弱々しいその言葉に、キュッと胸が締め付けられたような感覚を覚える。
下手に肯定的な言葉を使ってしまえば、きっと俺の魔力は揺れてしまう。いや、もう既に大きく揺れているのかもしれない。
ああでも。涙で滲んだ彼女の視界では、それも分からないのかもしれないな。
「良い子にしてるから…!ポーション作りも頑張るから…!役に立ってみせるから…だから…だからずっと私の側にいて!!
……もう…一人はやだよ………」
「(!!)……あぁ、約束するよ。エイノアをおいて死んだりしないって。けど、エイノアはいつも通りのエイノアで良いよ。取り繕っていない、自然体のエイノアが良いな」
……エイノアはこの言葉じゃ満足しないだろう。
けれど、『ずっと側にいる』なんて言ってしまえば、それは却って彼女を傷つける事になってしまうかもしれない。
だから俺は口を閉ざし、声を上げて泣いているエイノアの頭を不器用な手付きで撫でることしかできない。
俺は本当に、だめな師匠だな…。弟子が欲しがっている言葉一つ、かけてやれないだなんて。
ああいっそ、もうあの事を喋ってしまいたい。いっそ嫌われて、楽になってしまいたい…。
それから暫く時が経ち、『ひくっ、ひくっ』としゃくりあげる事もない程に落ち着いた。
「何か、師匠の魔力凄いことになってませんか?」
「あはは…。魔力の事とか、俺が生きてる理由とかは帰ってから説明してあげるよ。ここだと、どこに耳があるかわからないからね」
「……分かりました」
「じゃあ、ベッドの横のトランクケースに着替えを入れておいたからそれに着替えて」
そう言って椅子ごと方向転換し後ろを向く。
「師匠、これ私のじゃないと思うんですが…」
「あー実は、荷物が殆ど燃やされちゃってね。それは女性用の服が売っているお店の店員さんに、俺がエイノアの特徴だけ言って見繕ってもらったものなんだ」
「…ブラのサイズがぴったり……師匠のえっち」
サイズがあっていることはいい事だけれど、つかれてほしくない事をつかれてしまった。
「いや、その…!何てゆーか、感が当たった……っていうのは言い訳で…その、思ったより、記憶力が良かったみたいです…」
「っふふ。私は嬉しいですよ。師匠がちゃんと私の事を見てくれてるって事ですから。…師匠だから、ですけどね」
熱くなっていた顔が、エイノアの言葉を聞いた途端更に熱くなる。
おかしいな…何でこんなに顔が熱くなるんだろう……。やっぱり、それ程までエイノアを意識していると言うことなのかな?
はぁぁ……。全く、俺は本当に救いようがないな……。
「終わりました。どうですか?」
その言葉をうけ振り返る。
髪型は黒の大きめのリボンで後れ毛や前髪以外を後ろにまとめたポニーテールで、
服装は、上は無地の白いシャツに、右の二の腕辺りに赤い刺繍が入っており裏地も赤い黒のパーカーで、下はこれまた裏地の赤い黒のスカートと黒いストッキングに、靴は紐が赤い黒のブーツをはいている。
「似合ってるよ」
「それは良かったです。……じゃあ、師匠は私に背を向けてベッドに座って下さい」
「え?」
「いいからいいから」
何を考えているのかは分からないが、別段断る理由もないため促されるがままベッドに座る。すると…
サッ………。
後ろからギュッと抱きつかれた。
「今日だけ…沢山甘えさせてください。明日からは、きっと元気な私に戻るので…」
後ろめたい気持ちはあるが、それでも今日のことを考えれば断る事ができなかった。
「ああ。俺で良ければ、よろこんで」
……
…………
………………
……………………
翌日、必要な雑貨等を諸々買った俺達は、もう一泊して早朝にまたこの街を出た。
今日もまた 貴方と過ごす未来に想いを寄せる
それがたとえ 叶う筈もない夢だったとしても
たとえ今が 泡沫のように消えてしまうものだったとしても
叶わなくともいい夢もあると思い込んで
先の事より 今が良ければいいんだと塞ぎ込んで
明日また 私は彼に寄り添う




